第1alt.章 η ピエロは踊る
第1alt.章 η
ピエロは踊る
「——どっちだ?」
まるで首を絞められた状態で発しているかのような掠れた声で、ハーフエルフは問うた。
そのハーフエルフの背後では、閃光魔法が高く昇っている。
「「———!」」
豹人はすかさず手を引き、距離を取るべく地を跳び蹴った。
そして獣の勘が働いたのか、接地した直後にすかさず後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
メキメキと足裏が背後にいた何者かの鎖骨を砕き、勢いよく弾け飛ばす。
「——どうなってやがる」
四方八方から突き刺される視線への苛立ちに顔を歪めながら、小さく呟いた。
四面楚歌、と言えば少し語弊があろう。何故なら、豹人と男を取り囲む大量の個体達は全て同一であるのだから。
商家や住家の屋上から通りを見下ろす個体達により、頭上も包囲されている。
肉の壁に覆われたその空間は、さながら閉鎖空間を思わせた。
必然、豹人はまず幻覚や錯乱の状態異常を疑った。
しかし彼はすぐに心中でかぶりを振るった。
あり得ねえ、彼にそう断言させるだけのソースが彼にはあった。
聖槍斧。
使用者の身体機能に永続的な超強化を付与し、尚且つ超回復を施す、神秘の内奥を結晶化した至高の聖遺物。
異常を祓う機能こそないが、これを行使する以上、彼は状態異常から即座に復活する。
聖槍斧の機能を疑うよりも、この状況が幻覚でも錯乱でもなく他ならぬ現実であると判断する方が、余程賢明であり、信憑性も高い。尤も、状態異常でなくとも異常事態であることに変わりはない。
有り体に言えば、豹人は幻覚や錯乱を疑ったのではなく願った。或いは逃避したとも言えるだろう。
その閉塞空間を構成する無量の個体達、それらが確かに実在する。状態異常であった方が戦略的にも精神的にも圧倒的に楽であるのだから。
しかし聖槍斧の存在が、無情にも現実を突き付けて来るのである。
それから目を背けず了解する賢明さこそ、豹人を円卓の騎士たらしめる所以が一つである。
対する歪んだ男も即座に跳び退いていた。
唐突に現れたハーフエルフ達にもだが、男が初めて動揺を見せたことに、豹人は少なからず驚いた。
「——何者ダ?」
反問するは道化に扮した人擬き。
相変わらず口角を吊り上げているが、その双眼には警戒の色が現れていた。
ハットの鍔を上げ、その一挙手一投足を見逃すまいとハーフエルフを見据える。
「先に訊いたのはオレの方じゃあなかったか? それともオレの記憶違いかピエロ? あァ?」
代表格と思しき個体が、質問に質問で返して来た男に対して凶器の如き眼光を向けた。
金属光沢を思わせるやや黒みを帯びた銀色の長髪、憎悪と嫌悪で黒く染まった鉛色の瞳、影色の強い荒んだ目元、長髪で隠れた尖った耳、病人のような青白い肌、痩せ細った身体、前髪から時折見える額の烙印、そして片手にボロ雑巾のような少年を持つ、退廃的佇まいのハーフエルフ。
個体により服装や雰囲気、風貌や体格に若干の差こそあれど、それらは誤差で済ませられる程度だった。
厭世的かつ退廃的な闇を帯びた双眸は共通しており、どの個体もその心奥に暴力と憎悪を秘めていた。
(エルフ……いいやハーフエルフか。だが隷人種……じゃあねえな。額の烙印、似てるが絶対隷従のそれとは違うもんだ。
魔術主義者大好き人体実験の成果物共か?
……いや、あの人間擬きの動揺っぷりから自由国からやって来た愉快な仲間達じゃあねえらしい。
帝国か? いいや。それもしっくり来ねえ。言ってみりゃこの違和感は——)
(異物感………トでモ言ウべきカ。未来演算ガ正常に機能しなイ辺リ、どウやら本物ノ異物ラしイ)
「黙りこくってんじゃねえよ糞共。コミュ障か? それとも女の子と話す時に緊張するあがり症か?
安心しろよ、てめえらが“オレ”を知ってんのか知らねえのかは分からねえし興味もねえが、見た目通りオレは男だ。
てめえらのどっちかを、或いは両方を殺戮しに来ただけの異物だ」
ハーフエルフは首に手を回しながらぶつくさと不満を垂れた後、これが自己紹介代わりだ、と言わんばかりに外縁をなぞるが如く自分が何たるかを語った。
「異物」というワードに両者が反応する。
そのハーフエルフ達を的確に表現する言葉があるとすれば、まさにそれであろう。
他にあるとすれば異常か、或いは異端。
以上のどれであれ異なる存在であることに変わりはない。
そのハーフエルフが異物を騙っているとも思えない。
両者に共通する信条は、己を疑わないこと、そして他者を疑うこと。
他者に疑念を向ける時、その主体たる自己を疑えば自己矛盾に陥る。だから理性の絶対性を大前提として据える。
これこそ、男がこの掃き溜めのような世界を生き抜く為に身に付けた術である。
そしてプロセスこそ異なれど、豹人も同じ結論に至った。神が居ながらも慈悲の存在しないこの世界に於いて勝者で在り続ける為に導き出した持論である。
故に、そのハーフエルフが果たして異物を騙っているのか否か、これは命題たり得ない。
直感という名の感覚、言うなれば危機感が、経験則という名の実理、言うなれば当て推量が、このハーフエルフ達は異物であると告げている。
であるならば、自己という炉の中で危機感は戦意へと錬成される。故に、信条という理論の下に当て推量は確信へと昇華される。
男の脳内には撤退が浮かんだ。
豹人の脳裏には臨戦が過った。
しかしどちらもアクションを起こそうとはしなかった。今この状況で、そのどちらも悪手になり得るからだ。
尤も、両者が口を噤んでいる現状こそが最悪と言ってしまえばそれまでなのだが。
「ッたく。にしてもあの野郎こんなド田舎に呼び出しやがって」
不平を言い捨てながら、ハーフエルフは徐にポケットから手の平サイズの真っ黒い金属の塊を取り出した。
厳密には希少金属やプラスチックなどから成るハイブリッド的デバイスなのだが、両者に正確な認識は不可能である。
その真っ黒い塊をデバイス、より細かく言えばスマートフォンであると認識できるのは、この世界に於いてエデンの民くらいであろう。
ハーフエルフは、ポケットから手を出すのにピクリと反応した2人に、牽制と苛立ちを50%ずつ込めた舌打ちをし、画面をタップした。
「チッ。やっぱ圏外かよ……」
苛立ちの含有率100%の舌打ちをし、ハーフエルフは不快げに首に手を回した。
その姿勢の悪さは歪んだ男程ではないものの、猫背の中でもかなり悪い部類である。
周囲を一瞥し終え、ハーフエルフは2人に向けて交互に冷たい視線を突き刺した。
そして大きく嘆息。
「これから人が飯食おうって時に、暴君もビックリの横暴っぷりだよなぁ。
これが他人の仕業なら腕捥がれてでも絶対に殺すが、まぁ自分の業となりゃそれも飲み込むしかねえ。因果を超えた極太ハリガネの縁だからな。
それに、伸びた麺もそれなりに美味えだろうよ。まだ箸付けてねえし、食い逃げを疑われる心配がねえのが不幸中の幸いだな」
手に持った携帯電話を軽く投げてはキャッチしを繰り返していると、自分の中で落とし所を見つけたのか、それとも単に飽きたのか、スパッとそれを止めポケットに収める。
収めると同時、ハーフエルフの中にあるスイッチが切り替わった。
「んで? だんまりかよ。声帯潰れてんのか? それとも許可がなけりゃ話せねえ的なあれか?
話すなんて基本的人権どうの以下のもんだろうが。発声くれえならそこらの獣でもできんだろ愚図共」
「——なら訊かせろや。てめえらは何者だ? その格好、その口振り、その額の紋様……異物ってのはつまり、てめえは俺の……俺達の知らねえどっか別んとこから来たって意味か」
「知るかよ。なんでてめえらが知ってるか知らねえかをオレが一々推し量ってやらなきゃなんねえんだよ。言葉通りの意味だろうが。あとはてめえらで勝手に判断しろよ」
「あァ——?」と威圧する豹人に対し、ハーフエルフも「あ——?」と睨み返す。
埒が明かねえ、と豹人は舌打ちし顔を背けた。
自ら目を逸らす行為は彼にとって屈辱以外の何物でもなかったが、ハーフエルフ達への疑念と警戒が矜持を貫くより僅かに勝った。
「でハ質問ダ。さっキの問イ、そノ真意ヲ聞かセて欲しイ」
「そうだな。氏素性も知れねえ連中とお話すんのも実益皆無だし、時間の無駄だな。
この世界での時間経過がどう影響すんのか知らねえが、早えに越したことはねえ。
てめえの質問に答える代わりに、もう一度言葉付け加えて訊いてやる」
——オレの敵はどっちだ? と絶対零度の視線を投擲する。
先に受け取ったのは歪んだ男。
男の瞳が僅かに揺れたのを確認した瞬間に、ハーフエルフの姿が揺らいだ。
開戦の引き金が引かれたのだ。
直後に、商家や家屋、倉庫を砕く音が豹人の耳朶を連続的に打った。
しかし豹人の双眼は確かにその瞬間を捉えていた。
ハーフエルフは一息で間合いを詰めた。その瞬発力と洞察力、そして決断力は確かに刮目に値するが、特筆には値しない。豹人の眼を以てすれば容易に追える速度であったからだ。
つまりハーフエルフについて語るべきは速度などではない。歪んだ男を出し抜き、尚且つ豹人を動揺させる異常性は別にある。
その刹那、ハーフエルフが眼前に迫るも男は難なく迎撃。例の如く青白磁のスクエアを3枚展開。
だが直後に、豹人は疑念を、男は感心を覚えた。
そのスクエアに刻印された数字は「8」にも拘らず、ハーフエルフの拳はそれらを透過したのだ。
当てが外れたか、そう思った豹人であったが、口角を裂ける位に吊り上げた歪んだ男の表情を視認し、いいや……と心中でかぶりを振るった。
かくして、今に至る。
ハーフエルフの横手の壁には大穴が空き、ボロボロと小さな瓦礫が落下している。
「俺と10万でこの場を制する。残り30万は人間擬きの対処に回れ。ッてるとは思うが、包囲網は崩すな」
粗野で暴力的な声音で個体達に指示を出す。
しかし個体達は追従の意思をまるで見せない。代表個体と思われていたその個体は、どうやら単にスペックが異様に高く、抜きん出て苛烈だっただけらしい。
我を否とし全を是とする、されど個を基本単位とする奇妙な集団を、人々は軍隊と称する。
であるならば、統率や連携はまるでなく、各々が我を主張するその自己中心的且つ独善的且つ非協調的な我の集まりを軍隊と呼ぶことは不適切であろう。
言うなれば、超個体とでも呼ぶべきであろうか。軍隊と対比的にするという意味では、群体と称するのが浪漫的か。
生物学的観点から見れば、前者はグレーだが後者は疑いの余地なく間違っている。
しかしその特異性と軍隊との対比を加味して《群体》と呼称しよう。
とまれこうまれ、代表個体(仮)が指示するよりも早く、《群体》は2つに分裂した。
統率や連携は全く取れていない。相手の意図を汲み取ったり譲歩したりという協調性も皆無。
だが全ての個体がそうだとすれば、統率や指示などそも不要であろう。
曰く、生物の本質は社交性や社会性ではなく孤独性であり、生物が、人間が、人が、群れや社会を形成するのも相互扶助を絶対善に据えるのが自己の保存を達成する上での最適解であったからに過ぎないという。
仮にこれが真実だとすればその《群体》はある種、生命の完成形と言える。
相互扶助を前提とせず、各々が共通目的を果たすべく自律して動いている。
結果として、全体の意思が統一されている。
人類では絶対に到達し得ない歯の浮く絵空事を、《群体》は難なく体現している。
「チッ。にしてもイカれた適応力だな。普通あの一瞬で受けに回れるか?」
受けに回した両腕ごと男を弾き飛ばしたハーフエルフは「どんな神経してやがる」と不快感の裏に感心を潜ませながら言った。
「ありゃ30万で足りるか? 規格外個体がいるし、一応は全員同一個体だしな。衆愚にはならねえだろうが……99%は烏合だからな。オレも向こうに行くべきか?」
彼はこの一撃で男を粉砕するつもりであった。
有り体に言って甘く見積もっていた。
やや認識を改める必要性が生まれたこと、そして自身の慢心に対し、彼は苛立ちを覚えているのだ。
そんな内から湧き出る自責の念を下らねえと一蹴し、ハーフエルフは豹人に鋭利な視線を突き付けた。
「ンで? てめえはどうなんだ? 御託も前置きも要らねえ。この餓鬼をどうしてえ。この質問にだけ答えろ」
さっさと回答をよこせ、と威圧するような視線を方々から突き刺される。
しかし豹人も円卓の騎士が一人である。敵意はなく、されど殺意を込めた視線で相対する。
騎士の栄光や矜持、誉れを唾棄すべきゴミと考える彼にも唯一、騎士らしき側面があった。
愛国心、と言えばニュアンスが少し異なるが、端的な表現としてはこれが適解だろう。
最適解を提示するならば、彼は排外主義者且つ国家第一主義者である。
彼は利他を顧みないがしかし、利己と国益を同一視する傾向が強い。皆誰しも備えるそれの度合いが、彼は特に強いのだ。
詰まる所、国家第一主義者は他からの評価である。
曰く、自分のテリトリーに侵入してくれば、誰だってそいつを追い出そうとするだろうが、とのことらしく、本人は自身を利己主義者と認識している。
ともあれ、ハーフエルフは異物を自称した。それは豹人の確信とも合致している。
であるならば、仮に事実が異なるものだとしても、豹人の中で己を取り囲む個体群は異物である。
異物は排外、殺すべきである。それがこれ程の脅威であるならば殊更。
殺意を膂力に変える。殺意を以て神経を研ぎ澄ます。
そして豹人の腰が僅かに沈んだかと思うと、真っ黒い閃光が稲妻の如く地を駆けた。
雷撃めいた超高速で迫る槍の穂先を躱すも、先端の鉤がハーフエルフの片耳を抉った。
「チッ……」
痛みに歯噛みしつつ、ハーフエルフは眼前に迫った豹人の顎に標準を定め全力で握り拳を振るい上げた。
回避の反動を使ったその一撃は、ガクンと速度を落とした豹人に直撃した。
鉄砲玉のように弾け飛んだ豹人の方を見ながら、ハーフエルフはボタボタと血の流れる片耳を押さえた。
「肉を切らせて骨を断つってやつだ。ッにしても痛えな。これだから得物を持ってる奴とはやりたくねえんだよ」
「はハ。自身ニ干渉すル凡ユる魔法、いイや超常を概念ソのもノかラ否定すル、ト言っタところカ?」
大穴の方に向き直ったハーフエルフの背後から現れた男は、彼の魔法ないし能力の考察を語った。
ハーフエルフは振り返り、肯定とも否定とも取れる反応をした。つまりは鼻で笑って返した。
「王の特権は問題ナく機能すル。だガ、オ前ニ対してだケは発動すラしナい」
言いながら、ハーフエルフに向け拾った小石を投げ、彼の耳の抉れた箇所を通過したそれと自身の位置を入れ替えてみせた。
それは、来るであろう質問への回答でもあった。
己と対象の位置を自在に入れ替える。それを目撃した今、どうやって30万の包囲を切り抜けた、それを訊くのは愚問以外の何ものでもなかった。
歪んだ男の底知れない実力を垣間見た今、代表個体(仮)は疑念の代わりに殺意を眼光に装填した。
「生憎ダが、ソの少年ハお偉イさンのお眼鏡ニ適った特別ナ個体でナ。願ワくバ返シていたダきたイ」
ハーフエルフに背を向けたまま、飄々とした声音で言う。
「生憎だが、この餓鬼はオレじゃねえ“オレ”が執着する特別な雄なんでな。腕尽くでも回収させてもらうぜ」
背後の歪んだ男に向け、挑発する口調で告げる。
男の萎れた皺だらけの道化服とハーフエルフのジャージの衣擦れが小さく鳴り、静寂司るその場は忽ち戦場と化した。
亜人種と人間種には身体的形質の差が確かにあるが、それは人間種が劣等種と侮蔑される所以では全くない。身体に関してだけ論ずるならば、エルフと人間種に差異などほぼないからだ。
人間種を劣等たらしめ、エルフを優等たらしめるのは、偏に魔力の差だ。
エルフと人間の魔法量には雲泥の差がある。
加えて、魔力量に依存こそするが、強化魔法や付与魔法を行使すれば、エルフも獣人に匹敵し得る身体能力を一時的に獲得できる。
つまりこの世界に於いてものを言うのは他ならぬ魔力量。人種による魔法の得手不得手も単に適性の問題。魔力量に圧倒的開きがあるならば、その差も埋められる。
言ってしまえば、彼らの異次元の強さは魔力に大きく依存するため、それを差し引けば大きく格下げされるのは必然である。
そしてこれは魔術に於いても同様だ。
異物たるハーフエルフにとって魔法と魔術の違いなど露程も関係ないのだから。
「ノイズキャンセラー。オレにとってのノイズを、言ってみりゃ異常を、根底から否定し削除する。発動条件はオレに干渉することだ。
つまりそのよく分からねえ力に依存する限り、オレには絶対勝てねえぞ!?」
男の腕を引き、少年からすかさず手を離し、その肘を首に打ち込む。
しかしそれよりも早く、男が動いた。
慣性の法則で体の軸よりもやや後ろにあった頭をもたげ、そのままハーフエルフの頭に打ち付けた。
化け物が、と心中で言い捨てつつも、緩みかけた腕に力を籠め直し、揺らぎかけた身体の軸を定め直し、再度下顎を叩き上げる。
そして更に首を掴み、その顔面に強烈な一撃を叩き込んだ。
しかし男もただでは起き上がらない。王の特権はハーフエルフには効かない。しかし未だ健在である。無理にハーフエルフを対象に定める必要はない。
リスキーではあるが、このまま戦闘を続けることの方が危険であると歪んだ男は判断した。
王の特権発動。
自身と少年の位置を入れ替える。
ハーフエルフが反応するより早く、その両足を払う。
魔法に頼らず高度な身体能力を誇るそのハーフエルフは第一に手で接地し、転回して少年の方へと跳び退こうと考えていた。
しかし機先を制するが如く、男は彼の両手を再度払い、更に逆さになった彼の顔を躊躇なく蹴り飛ばした。
「チッ……!!」
男の前には、真正の異物が立っている。
ハーフエルフの前には、真正の怪物が立っている。
ハーフエルフは密かに戦慄していた。異常、今回に於ける魔法を概念そのものから削除する、つまりそれは因果にも作用するということである。
だから魔力で補強された防御も単なる生身に降格し、魔力で加速した攻撃もただの打撃と化す。
そして人間離れした高度な身体能力を有する彼に、それらは通用しない。
……筈なのだ。
しかし現実は違った。
男の打撃は自分の能力を疑わせる程に強かった。現に今、鼻がへし折られた。
衆寡敵せずと対になる言葉は複数あるが、最も代表的な例は一騎当千であろう。それはさながら前線の崩壊した戦場で殿を務める様であった。
男を包囲するは無量の個体群。しかし歪んだ男は、迫る個体達の悉くを捌く。
四方から迫る打撃に「8」を同時展開し、頭上から迫る踵をすんでの所で躱すと同時に掴み、堰を切ったが如く迫る夥しい数の衆に向けて投擲する。
砲撃を食らったかのように吹き飛ぶ個体達に目もくれず、《群体》は男に押し寄せる。
男の視界に幾千の光の軌跡が映った。
攻撃魔法に兆候など存在しない。そもそもまだ魔法は発動していない。故にそれを予見するなど絶対に不可能だ。
一等星魔法。
街の小区画を崩壊させる威力を有する魔法の発動。
それよりも早く回避行動に移った男は「王の特権」を発動。
個体群のど真ん中に飛び込み、「J」を4枚前後左右に向けて展開し、スクエア越しに4人の個体を的に定めて軽く指で豆粒を弾いた。
攻撃と呼ぶにはあまりに程度の低いそれは触れた瞬間に、避けるまでもないと判断した個体達の胸や頭を粉砕した。
凡ゆる法則を無視するかのような攻撃。
しかしそれには「威力を逆転させる」という唯一の法則が存在した。基準は任意で設定できることからも、それが破格の汎用性を有することが見て取れる。
予測不可の攻撃に気を取られたその間隙を突き、男はハーフエルフ達を一掃した。
「8」で背後から迫る炎火を迎撃し、更にそれを手のひらで回転させ、迫るハーフエルフ達に叩き付ける。
体術も魔術も破格の性能を誇る男は息を切らす様子もなく、口角を吊り上げたまま《群体》を造作もなく蹂躙している。
歪んだ笑みで敵兵を殺戮する男のその様は英雄には程遠い。しかし規格外の質で数の暴力を下すその業は間違いなく英雄のそれだ。
幾万の光が空を覆う光景がノイズ混じりに男の脳に映し出された。
零等星魔法、或いは詠唱による一等星魔法の超連続発動、もしくは複数の術者による一等星魔法の同時発動。味方の犠牲を前提とした邪道。
しかし戦場に於いて最適解の多くは邪道や非道である。勧善懲悪をご都合主義と一蹴する程の冷酷さがハーフエルフにはあった。彼ら《群体》と軍隊を画する点はそこにある。
高速で迫る超高エネルギーの光線。それも波状攻撃。しかし男に焦る素振りは見られない。
その個体群は軍隊ではなく《群体》。
やはり自分の命が惜しいらしく後退する個体達の内一人の腕を掴み、口に咥えていた煙草(偽)をその肘に当てて穿つ。
絶叫を上げんとする個体の額に「J」を添え、せめて楽に殺してやると言わんばかりにデコピンをした。
更に、足元に落とした煙草が地面を焼き道化の顔を模した魔術陣を即席で構築。
現地調達した杖(腕)を攻め寄せる魔法群に添える。
光線は忽ち導線と化し、杖と触れた箇所を起点にチリチリと超高速で燃え始めた。
コンマ数秒後には遠くの方で大爆発が起こり、またも不愉快な道化の煙が空高く昇った。
我ナがラ良い出来ダ、と笑う道化に規格外個体が迫る。
高い身体能力を有するその個体は道化の足払いを躱し、空中で巧みに蹴りを叩き込んだ。
しかし豹人には威力も技術も遠く及ばない。
豹人の攻撃を捌いて来た道化はおふざけ感覚でそれを受け流しつつ叩き倒し、打ち覆いをするように頭のハットをハーフエルフの顔に乗せた。
ポフ……と空気が抜け、ハットを外すとハーフエルフの顔は跡形もなく消えていた。
間髪入れず押し寄せるハーフエルフ達に「薄情だナ」と一笑を向け、即座に戦闘を再開する。
規格外個体とは、端的に言えば《群体》の中での高いスペックを有し、全体の約0.01%を占める個体であるが、決して上位の個体ではないので注意が必要である。
正確には、規格外個体とは《オリジナル》の形質とかけ離れた存在を指す。そして《群体》の99.99%は魔法をまるで使えない有象。
つまりそれは、《オリジナル》が大して強いハーフエルフではないことを意味する。寧ろ非力と言ってしまった方が良いだろう。
その0.01%をお遊び感覚で粉砕する道化の強さは異常以外に表現のしようがない。
現に今も、零等星魔法を扱う規格外個体との距離を詰め、「バァン」と眉間を撃ち抜いた。
しかし、規格外個体の中には更に1%で例外個体と呼称される個体が生まれる。
規格外個体には異形や高スペックの個体が含まれるが、例外個体はその中で群を抜いて超弩級の力を有する個体や字義通りの化け物を指す。
そしてその例外個体が、その戦場にはいた。代表個体(仮)もとい例外個体は貧乏ゆすりを止め、苛立ちを唾と共に飲み込んだ。
鼻の位置を無理やりに直し、鼻腔に充満する鉄臭い血の匂いに咽せ返りながら血を抜き、徐に立ち上がった。
壊れた靴を適当に脱ぎ、トントンとつま先で地面を軽く蹴る。
くらり、と立ちくらむように身体を揺らしたかと思えば、そのハーフエルフは消えていた。
一息で間合いを詰め、道化の脇腹を砕かんと拳を突き出す。
男はぐにゃんと腰を曲げ、その重い拳撃を迎撃した。
「チッ。可動域が人のそれじゃねえだろ」
「正解ダ。オレは昔にヒトを辞メてイてナ」
嫌悪感と不快感を声音に籠め、更にそれを右腕に流動させ、この人擬きを粉砕すべく腕を振り切る。
地面に叩き付けられた道化は尚も平気な様子で、詰め寄る例外個体とヒラヒラ舞う袖から零れた青白磁のカードを見上げている。
足裏が眼前に迫ったところで道化は漸く動いた。
素早く攻撃を躱し、当たらないことを前提に敢えて足を払う。
「Qボンバー。魔法」
零等星魔法たる猛炎が忽ち消滅する。
しかし安堵の余裕などない。
鼻を折られた報復だと言わんばかりに顔を蹴り壊そうとするハーフエルフの攻撃を躱し、顔よりハーフエルフの足が上に行ったところで、踵を叩き上げんと手のひらを打ち付ける。
だがハーフエルフとて間抜けではない。同じ轍は決して踏まない。
回避ではなく攻撃を。
この男が相手では回避や防御は全て悪手。負傷を先延ばしにする行為に過ぎない。
故に、ハーフエルフは踵を振り下ろした。
それ自体は何も間違っていない。限りなく最善手に近い手だ。
だが、相手が悪かった。
男は軟体動物さながらの動きでぬるりとハーフエルフの踵を掴み、強く握った。
デジャブだナ、内心そう思っただろう。
しかしその感想は直後に覆された。
投げ付けられた正体不明の黒い物体。
持ち主が異物なのだから、ハーフエルフのポケットから取り出されたそれ自体も無論異物である。
一見すれば危険性は無い。しかしそれを無防備で受けるのは余りにリスクが高い。愚行だと断言できる。
更に言えば、ハーフエルフ達が現れてからというもの、男の未来演算は上手く機能していなかった。
時折ノイズが走り、この例外個体を視界に収めた時には完全に機能を停止した。今、未来演算には頼れない。
だから、男はその黒い物体への対処を優先させた。
直接触れるのは何としても避けたい。しかし例外個体に触れていては魔術を使えない。
何をするにしても、踵から手を離す必要性があった。
ハーフエルフは手を振り解こうとするばかりか、却って押し返して来た。判断材料を増やし、刹那の内に選択を迫っているのだ。
思考放棄に陥らず、はっきりと結論を出した男はやはり強い。
ハーフエルフの踵から手を離し、即座に退避。
身を翻しながら同時並行で「王の特権」の対象を探す。
されど、ハーフエルフの方が僅かに早かった。
スマホの回収を後回しに、男の首を折らんと勢いよく蹴り付ける。
防御に回した両腕ごと男は弾け飛び、砲撃が打ち込まれたかのような轟音と共に倉庫に大穴を開けた。
「チッ。まずったな。衝動に任せて蹴り飛ばしちまった」
口ではそう言うが、実の所ハーフエルフには善手と悪手の判別がついていなかった。言ってみれば、男との戦い方を未だ掴みかねていた。
男と距離を取るのは得策ではない。しかし常に距離を詰めておくことが適当かと問われれば、それもまた否である。
男を己の間合いの内側に置き続けようとした結果、ああして鼻をへし折られた。総合的に見ても、近接戦闘での軍配は男に上がるであろう。
しかしハーフエルフには白兵戦以外に戦う術はない。第一、手数も手の内も行動も読めない男を相手に後手に回るのは是が非でも避けたい。
(攻撃こそ最大の防御、なんていう手垢と手汗、ついでに言えば皮脂と血肉塗れの脳筋染みた台詞を吐くつもりはねえが、先手を取らねえと勝てねえのも事実だ。他の個体は当てにならねえ。つーかアイツが厄介過ぎる。勝率は1割……いやそれ以下だな)
「ッたく何で自分じゃねえ自分の為に命賭けなきゃなんねえんだよ」
熟考を終え首に手を回して一瞬顔を下に向けると、背後から歪な影が伸びていることに気付いた。
咄嗟に振り返り跳び退くと、前方には男の真っ黒い影に染まった背中があった。
夕陽が完全に沈み、仄かに赤らむ西の空を、男は口端を吊り上げて眺めている。
「ドうヤらタイムリミットラしイ」
「あァ——?」
「オレ達ノ、イやオレの負けラしイ、トいウ訳だ」
彼方に見える鐘塔を眺めながら、やレやレとため息混じりに言った。
その芝居がかった素振りに心底から吐き気がしたが、ハーフエルフは代わりにペッと血を吐いた。
「知ッてイるか? 豹トは獰猛ダが、思いノ外狡猾ダ。こノ幕引キは、オ前が現れタ時かラ、ハたマたあノ豹人ト交戦ヲ始めタ時カら、決まっテイタことなのカも知れなイ。
だガそれコそ真なル強サなノだロう。強かさト強情さコそ、生命総体ガ導き出しタ、生存競争ヲ生キ残ル上デの最適解ダかラな。
……しカし、ハは。コうモ容易ニ出し抜カれルとハ、道化ノ面目丸潰レだナ」
ダが、愚者たるオレにハ実ニ相応しイ幕引きデもあル、と男は愉しげに語った。
二言目辺りで言葉の意味を察し、ハーフエルフは深く嘆息し携帯を拾い上げた。
それ以降は聞きたくないと言わんばかりに腰を下ろし、ぽりぽりと無造作に頭を掻く。
代表個体(仮)の態度の真意を察したのか、或いは戦意を喪失したのか、何かしらの形で《オリジナル》から中止が告げられたのか、或いはもっと別の要因か、ともあれ《群体》は男への攻撃を中止した。
戦闘に於ける優劣は決めかねるが、結果を鑑みれば勝敗は明らかである。
男は任務を遂行できなかった。
対して豹人は排外にこそ失敗したものの少年の回収に成功した。
であるならば、これは豹人の勝利と言えよう。
だというのに、男は口の両端を吊り上げ、飄々と笑っている。
それはさながら屈辱も敗北も痛みも全て道楽だと言う道楽主義者の在り方であった。
しかし道楽主義者とは良くも悪くも人間味に満ちた者を指す言葉。その歪んだ男を形容するにはあまり適切でない。
だが、これ以外に表現のしようがなかった。言語化叶わぬその不気味さと異様性こそ、男の象徴なのだから。
「ケッ。てめえと語らうつもりなんざねえよ」
「責務ヲ完全ニ放棄したオレが言ウのも筋違イだガ、追ワなイのか?」
会話する意思はないと告げられたはずだが、男はそんなことお構いなしに問うて来た。
黙りこくったハーフエルフに催促をしない代わりに撤収もしない。
背を曲げた男は帽子の中から取り出したトランプをくるくると筒状に巻き、その口を咥えてもう一方の端を指で軽く触れた。
それを咥えたまま大きく息を吸うと、先端がチリチリと発火した。
ある程度まで吸うと、男は小さく咳き込んだ。
口内の煙が呼気と共に排出され、男は懲りずにまた大きく吸う。
咳き込んでは吸いを繰り返すその様は、なんとも不恰好だった。
筒の長さが残り僅かになったところで、男はそれを飲み込んだ。
男がまた帽子からトランプを取り出すのを察し、ハーフエルフは煙を吐くが如く大きくため息をして、気怠げに頭を掻いた。
「……てめえが焦点当ててんのは、あのどデカい鐘塔だろ?」
「御察しノ通りなァ」
「なら構わねえ。オレの仕事も此処で打ち切りだ」
ハーフエルフは短く瞑目し、殺意を収めた。
その荒んだ双眸は未だ凶器を思わせる眼光を備えているが、それは元々のものだ。つまりその退廃的且つ厭世的な鉛色の瞳こそ、彼の性を端的に表している。
「此処デ見えタのモ何カの縁ダ。存分ニ語らイたイとこロだガ、しカし、ドうやラあンまリ時間ガ無イらシい」
ジャージの血痕が染み付いた部分を、あーあ最悪だ、と言いたげに引っ張っていたハーフエルフは徐に顔を上げた。
歪んだ男は吐いた煙を指先で弄りながら、ハーフエルフの似顔絵を虚空に作っていた。
「要るか?」と問う視線に対し、「ンなわけねえだろ」と吐き捨てるように視線を逸らす。
「オレの当て推量ガ正シけレば、オ前ニこノ話は塵程も関係なイ。字義通リ他人事なンだかラな。
ダが、詳細ガ分かラなイ以上、語ッておクに越しタことハなイダろウ。
そレに、関係ガ無くトも興味ヲ持つノが、人ノ性といウやつダ。
共感ヤ同調、自己投影ヤ感情移入、こレらガなケれバ人は創作に陶酔し、フィクションに心酔すルことナんテ出来なイ。
違ウか?」
例の如く、ハーフエルフからの返事はない。
男は煙草擬きを指でトントンと軽く叩き、灰を手に持った帽子の中に落とした。
「人類史ハ今、幾許か目のターニングポイントヲ迎えテいル。佳境ニ入っタ、そウ言イ換えテも構ワなイ。
三度に亘る世界大戦、血で血ヲ洗い血デ地を染めタ人間種と亜人種の思想戦争、凄惨且つ壮絶ナ血戦。それガ決着を迎エたのハついニ世紀前。
つマり人間種ガ地上かラ根絶(偽)さレて約二世紀が経っタ。世界の敵でアる人間種の根絶(仮)ヲ達成し、世界ないシ地上にハ平和が訪レてハッピーエンド……とハなラない」
「“エンドロール”は未ダ流れなイ」と男は言った。
空に煙で描かれた絵が、一人でに動き始めた。
舞台の上に立つ演者やそれを見守る観客達は棒人間として描かれ、煙の濃淡により影や奥行きが再現されている。
そして演目が終了したらしく、舞台の幕は閉じ、観客達は各々出口へと向かっていく。
しかし男は、立てた人差し指でそれらの上に大きくばつ印を付け、こう続けた。
「人類ニは解決しテはナらナいパラドックス、命題が存在しタ。
そレは、停滞トは悪なノか否ナのか、ダ。
前進ト停滞、真逆にあルこレらコそ二律背反ヲ、ツまリは人類ノ本質ヲ端的に示しテいル。
しカし人類は大戦期の最中ニそノ答えを出してシまッた。しかモ人類は、そノ禁忌たル命題にフィーリングで結論を出シた。
かクしテ、生存競争カら逸脱しテいた人類は、再ビそれニ回帰しタ。人類ノ紡ぐ歴史ハ戦争ノ歴史ト類義でなク同義トなッた訳ダ」
停滞とは悪か否か、答えは「解なし」である。
平和を停滞とするならば、停滞は善であろう。
しかし平和と停滞は決してイコールでは結ばれない。
だが「ならば悪である」と背理法的に結論を出せないのもまた事実なのだ。
停滞と前進の折衷こそ、人類の理想である。緩やかなインフレーションが国家にとっての理想であるのと同じだ。
停滞と前進、これらは生命の、人の根底にある。決して切り離してはならない本質である。
忌むべきは停滞でなく怠惰だ。これらを同一視し、性急且つ浅慮、そして強引に結論を出してしまったこと、これが人類の大過と言えよう。
「科学と魔法、人間種と亜人種、停滞と前進、イエスとノー、人類は二元論ガ大好きダ。
ダから固執スる。だカら一歩も前ニ進まなイ。
同じ所を延々トぐるぐるグルグル廻っテいるこトに気付ケなイ。袋小路ニ入っテいルことニ気付ケなイ」
吐いた煙が集まり、風船のように肥大化する。
風船は亜人種と人間種を簡略化して表した棒人間を包み、その中に閉じ込めた。
それに全く気付かない棒人間2人は殺し合いを続けているが、片方の棒人間が不意にハッとした。
その間隙を突かれ、人間種の棒人間は死亡。
対する亜人種の棒人間は自分が囚われていることも知らず、一人芝居を延々と続けている。
「オレ個人トしテは、そレも人類ノ愛嬌トしテ愛でルべキだト思うンだが、連中ハそれヲ快ク思っテいなイらしイ。
中ニは人間種を崇拝するとち狂った奴もいるが、連中の大半ハ冷静といウより冷酷だ。
でなケれバ隷人種ヲ人体実験ニ使わンさ。人間種ヲ変革ノ狼煙ニ利用する。これガ魔術自由国総体トしテの展望ダ」
腐敗しかけていた人間種の棒人間がチリチリと発火し煙を上げ始めた。
その煙は袋中に充満し、亜人種の棒人間は息が苦しくなって漸く自分の置かれている状況を把握する。
酸欠に悶え、膝を地に付ける。
次の段階では上半身を支えることも厳しくなり、地に斃れ両手で首を押さえた。
限界を迎え、いよいよ走馬灯が脳裏を駆け始めたところで袋はパァン!! と弾けた。
「オ前なら、単体デそれヲ体現可能ダろウ。世界ヲ土台かラひッくり返す、そンな絵空事モ、しかしオ前になラ実現デきルかもしレなイ。
だカら悪魔及ビ契約者はオ前に預けル。新約神秘夜会副議長トしテ、お前には期待している——」
誰も居ない路地にではなく、遠い鐘塔に向けて告げ、四散する煙を帽子に収めた男は鐘塔に背を向けた———




