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初めてカイの腕の中で目覚めた時、感じたのは違和感だった。

知らない部屋と知らないベッド。そして、知らない温もり。

その後、数えきれないほどの朝が繰り返されて、その目覚めは既に慣れ親しんだものになっていたのだけれど。

今朝は、それともまた違う親密さを感じながら、沈み込んでいた意識が浮上する。

「起きたか?」

夕べ何度も耳元で囁いた甘さをそのまま含んだ声が、まるで自分の声のように近くに聞こえる。

体が重い。もう少し、動きたくない。

気分は悪い訳ではないけれど、だけど、頭に深い霧がかかっていて。

「そろそろ…限界なんだが」

声が言う意味が、分からない。

「な…に?」

今日、初めて出した声は少し枯れていた。

「サクラ」

こめかみに触れたのは唇。

肩を辿るのは指先。

昨夜、教え込まれたそれを、サクラの肌は素直なわななきで受け入れる。

「…ん…」

悪戯に触れてくるカイに、サクラはようよう重たいまぶたを上げた。

眩しい光に邪魔されて、何も見えない。再び、まぶたを閉じ、光に慣れてから、ゆっくりと開いた。

目の前に、カイがいた。

覗き込むように見つめられて。

肩が竦んだのは…瞳が昨夜と一緒だったからだ。

金と黒。彩りの鮮やかさが、今も熱い。

「サクラ」

朝になっているはずなのに。

夜を纏ったまま、カイが名前を呼んだ。

求められるまま唇を合わせる。舌先に促されて、そっと開ければ、すぐに入り込まれる。

際限なく深まるそれは、朝の挨拶としては、度が過ぎている。

「…っカイ様…」

偶然触れてしまったカイに、欲望の証を見つける。

シーツの下で、何も身につけていない体に手の平が這い始め、ようやくサクラはカイの意図に気づいた。

「また、戻るのか?」

体を離そうともがくサクラを、カイは簡単に押さえ込む。

「夕べはちゃんと「様」なしで呼べていたのにな」

カイの言葉がくぐもって耳に届いたのは、彼の唇が既にサクラの肌を辿りはじめたからだ。

「…っや…離して…」

こんな明るい中でなんて絶対に無理。夕べだって、恥ずかしいことばかりだった。

だけど、暗さに勇気づけられて、必死に受け入れたのだから。

なんとか逃げようと身体を捩ると、カイは案外あっさり離してくれる。

だが、全身から、まだ荒々しい気配がにじみ出ている。

サクラはリネンを抱きしめて、ベッドの端まで後ずさった。

サクラがシーツを独り占めしてしまったせいで、カイの体が晒される。求めるものが明らかなそれ。

もう、なにもかもが恥ずかしく、サクラはシーツに顔を埋めた。

「…サクラ」

ベッドが揺れる。カイが近づいてくる。

「もう朝なのに」

訴える。小さな笑い声。

「そうだな」

足元の布地が取り除かれる。

足先に柔らかな感触が押し当てられて、恐る恐る覗き見れば。

かしづき口づけるカイがいる。

「カイ様!」

驚いて足を引こうとすれば、足首が捕われる。

「…っ誰か来たら」

カイは足の甲から捕らえた足首、そしてすねから膝へとゆっくり口づけ、「今日はここには誰も来ない」ようやく答えた。

「なぜ?」

知られたくない体の疼きを隠すように、すぐ問い返す。

カイは、またサクラに唇を触れた。膝からその先へと近づいていく。

サクラは、シーツに顔を埋め、体を震わす。

「俺がそう命じたからだろうな」

命じた?

誰に、どうやって?

問いを口にはできない。

変わりに、耳を塞ぎたいような掠れた吐息が零れた。

「サクラ」

腿の柔らかな肌に、カイの髪が触れる。

「まだ、足りない」

カイが軽くシーツを引っ張った。

「お前が…欲しくて」

白い生地が落ちて、サクラの色付いた肌がカイへと晒される。

「これでは…俺は休めない」

目の前に、言葉のとおり、まだ飢えの収まらない瞳を持った男がいる。

怖かった筈の瞳。

だが、今は違う意味の慄きだけがサクラを走る。

「…サクラ…」

愛しているとの囁きに、サクラは無駄な抵抗をやめてカイへと身を預けた。

現れた肌に唇を寄せながら、カイは呟く。

「お前には与えられるばかりだ」

カイは不思議なことを言う。

与えるのは、カイの方だろう。

優しさも、気遣いも。ドレスも宝石も。

常に、カイの方こそが与えてきたではないか。

サクラは何も持っていない。

カイに与えられるものなど、この身と心ぐらいだ。

「ドレスも宝石も…地位も権力もいらないならば、俺はお前に何をしてやれる?」

そんなことを問われるとは思いもしなかった。

サクラは何もいらないと答えかけて。

「カイ」

欲しいものがあった。

カイにしか与えられないもの。サクラが欲しくてたまらないもの。

「貴方が好きです」

たくましい体を抱きしめ、かつて一度と声にしなかった気持を形にする。

サクラの指先が、カイの筋肉に走る緊張を感じ取る。

「だから…」

愛して欲しい。

ただの鞘ではないと。

サクラが欲しいのだと。

そして、側に置いて。

そうしたら。

逃げない。

立ち向かうから。

貴方への想いと、貴方からの想い。それが私の剣と盾になる。

「煽るなと俺は言わなかったか?」

カイが、サクラをベッドに押し付ける。

「…そんなものなら…いくらでも与えよう」

サクラは微笑んだ。

手を伸ばす。抱きしめる。求めるだけ、与えるから。

求めるだけ、与えて欲しい。

それだけで良いのです。

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