12
しばらくは、穏やかな日々が続いていた。
たとえ、それが上辺だけの平穏だったとしても。
ほんの少し、何かが予期せぬ動きをしただけで、あっさりと崩れ落ちるものだったとしても。
いったい、サクラにどうすることができただろうか。
苛立っている。それは、自分自身でも十二分に理解していた。だが、苛立ちの理由は分かっていないかった。日々は、いつもどおり過ぎていくだけで、何がどうという訳ではない。
ただ、心が常にザワザワと騒いで落ち着かず、それがカイを苛立たせていた。
「結局、件の魔獣は完全に見失ったみたいです」
シキの報告は、カイの意味の分からない苛立ちを、瞬時に意味のあるものへと変化させた。
「…見失った?」
不機嫌を隠しもせずに問い質せば、シキはのんびりと頷いた。
書面に目を通しながら、要点を話していく。
「サラの遺体が見つかったイルドの森から、幾つか村を襲って、コーダの谷まで移動したのは分かったのですが、そこからパッタリ」
シキはお手上げというように、報告書を放った。
「相当な大物だと言ってなかったか?」
カイは書類を手に取ることさえしなかった。見つかったという報告以外、カイには必要ない。剣の使い手は、魔獣を断つのが役目であり、探索は担っていないのだから。
「そうなんです・・・そんなのが、どこに隠れているんだか、全く足取りが掴めません」
カイは、舌打ちした。
苛立つ。どうしてか。もちろん魔獣が見つからないことは腹立たしいことに違いない。
だが、何がこんなに苛立つのか。
「とにかく探せ。見つからなけば、俺は動けん」
ソファに体を投げ出した。
いっそ、剣を振るえば、多少なりともこの苛立ちは消えるだろうか。
シキが、じっとカイを見つめている。
「なんだ?」
苛々を引きずったまま、不機嫌に問えば、「いえ…別に」空惚けた返事。
いつもの軽口もなく、シキは黙って次の書類を手にした。
カイは、ため息をついた。
分かっている。
皆が、何かおかしいと感じていながら、それに気がつかない振りをしている。
カイの行動を、疑問の眼差しで遠巻きに見つめながら、誰もが口を閉ざす。
それが、なお、カイを苛立たせるのだ。
扉を叩く音さえ腹立たしく、ノックを無視していると、シキが肩を竦めて扉を開いた。
そちらを見ずとも、気配で訪問者は知れた。
「カイ様、お客様です」
タキの声。
カイは、タキを見遣った。
並ぶと、何一つ違いはないのに、まったく似ていない二人が、カイを見ている。困った様子を隠さないシキとは相反するように、タキは笑みを浮かべている。
再び、苛立ち。
カイに何か言う者がいるならば、それは微笑む男。
「お客様は、客間にいらっしゃいます」
だが、タキもまた何も言わず。
カイへと、静かに頭を垂れた。
客は、招かれざる女だった。
カイは、適当にあしらって追い返さなかったタキにまたもや苛立ちを募らせ、同時にこれが最近のカイの行動に対する抗議なのだろうと察していた。
美しい女は、それを余すことなく誇るドレスを身につけ、隙なく化粧の施された顔に婉然と微笑みを乗せている。
カイと向き合うと、優雅に膝を折り、挨拶をしてみせた。
「お久しぶりです。殿下」
カイはそれを黙殺した。
女は、サクラを妻とする以前には、最もその座に近いと言われていた者だった。
「サクラ様?」
はっと気がつくと、ホタルの顔が目の前にあった。
「ご気分がお悪いのですか?」
心配そうに覗き込んでくる幼なじみに微笑んで、首を振る。
「大丈夫」
言うと、ホタルの眉間にシワが寄った。サクラは、そこに指を伸ばして擦った。
サクラの指先が指示するままに、ホタルは眉を緩めはしたものの、その顔から完全に心配を取り除くことはしなかった。サクラ自身、今の自分の状態を見て、ホタルがまったく心配しない訳がないと承知している。だから、それ以上は何も言わなかった。
ホタルは、何か言いたげな顔をしたものの、黙って次の仕事に取り掛かることにしたらしい。
ホタルのキビキビした動きと裏腹に、それをボーっと眺めるサクラの方は、体も気分も重かった。
最近、あまり体調が良くない。
食事も喉を通らないことが少なくないし、外に出る気力もなく部屋にこもりがちで、大きな窓の近くにラグを敷き、外を眺めるだけの日々が続いている。
この暑さのせいだ。
サクラは、肘掛に体を預けた。
オードル家から、馬に乗ってしまえば一日の距離なのに、どうしてここの暑さはこんなに厳しいのだろう。差し込む日差しは容赦なく、窓から吹く風は生暖かくて、サクラを全く慰めはしなかった。
「奥方様、大丈夫ですか?」
声に顔を上げると、マアサがいた。
母のような手の平が額に触れる。優しげな顔に、心配の表情が揺れている。
「やはり、一度お医者様に見ていただきましょう。・・・月のものも、まだでございましょう?」
後半の言葉は、脇に控えるホタルに確認するようだった。
ホタルが戸惑うように頷くと、マアサの視線はサクラへと戻った。
「よろしいですね?」
サクラは、マアサを見つめた。
懐妊はありえない。そう一言言えば良いのだ。
そうすれば、訳知りの侍女は分かってくれるだろう。
ここへ来て数ヶ月が過ぎようという今となっても、サクラがカイとは契っていないということを。
マアサがサクラの側に仕えていた頃から、何も変わっていないということを。
本当に・・・何も変わっていなければ良いのに。
「今はお客様がいらっしゃるので・・・お帰りになられましたら、すぐにカイ様にお許しをいただきましょう」
頷いた。
何も言わないのは、ホタルがいたからだ。ホタルは、カイとサクラが形だけの夫婦だとは、夢にも思っていないだろう。これ以上、ホタルに心配はかけたくない。
だから、サクラはマアサの申し出を承諾した。
いずれ、医者が診れば懐妊の疑いはあっけなく晴れるのだから。
「何か、飲み物を準備しましょう。ホタル」
マアサがホタルを呼び、部屋を出て行く。
サクラは目を閉じた。
何もかも、暑さのせい。それ以外は何もない。そう思いたい。
「お客様は女性です」
部屋に戻ってきたホタルが、突然そう言った。サクラは振り返った。
ホタルは厳しい顔で、サクラを見つめている。
「ホタル?」
「マアサさんが、サクラ様をお部屋から出さないようにと。カイ様のお客様に会わせたくないのでしょう」
サクラは、ホタルを見つめた。
何が言いたいのか。
ホタルは、サクラの傍らに膝をついた。
遠耳を持つ娘は瞳を閉じ、何かに集中し始める。
「カサールの姫君・・・アカネ様」
縁遠い有力な同盟国の名前が、その口から発せられた。
ホタルは、聞いているのだ。
客人と・・・カイの会話を。
サクラは、首を振った。眩暈がするほど。
「会うのは、サクラ様とご結婚されて以来初めてのようです」
「ホタル!」
止めようとホタルに触れた途端、聞いたことのない女性の声が、サクラの頭に響いた。
「奥方様のお噂は伺っております・・・会わせては頂けないのでしょうね」
サクラは、小さく息を飲んだ。
ホタルは、サクラを自らの領域に引きずり込んだのだ。
小さい頃には、何度かふざけて行ったことのある同調。それは、言ってみればお互いの信頼度を試す遊びだった。お互いの波長を合わせれば、ホタルの聞いているものが聞こえる。波長が合うことを、お互いに認めて楽しんでいた、それは他愛のない無邪気な遊び。
でも、これは違う。
これは遊びではない。
「ホタル・・・やめて」
呟くように懇願しながら、サクラにも分かっていた。
これは、同調なのだ。片方が一方的に行うことなど、できない。それはつまり、これは、サクラが望んだことなのだ。聞きたいと、サクラが望んだから、差し出してきたホタルに、こうも簡単に同調してしまった。
「貴方のお噂も流れてきております。剣の選んだ娘を妻にしたものの・・・やはり並の娘では軍神は満足なさらないようだ、と」
美しい声だった。
そして、とても理性的で知的な・・・どこか、姉を思い出させる声。
「お気をつけなさいませ。いくらお相手を選んだつもりでも、不思議とどこからか聞こえてくるものですわ」
頭が痛い。ガンガンと内から殴られているようだ。
何も、ショックを受けるべき内容ではないのに。
何もかも承知のことだ。
女の言う噂が、サクラの耳に入ることはなくても。周りがどれほど、サクラに気を遣ってくれたとしても。
気配でそれと分かることもある。
残念なことに、サクラはそれほど愚鈍でも、純粋でもなかった。
男の中に、女の気配を感じることができてしまうほどには、世の中の理を心得ていた。
だが、何も気がつかないことにしていたのだ。そうすれば、何も変わらない筈だったから。
「・・・私が今日ここに参りましたのは・・・皇帝がそのように望まれたからです。私に正妃という立場でなくとも、殿下のお側に侍る気はないかと、そうお尋ねになられました。私は・・・」
一瞬の間。
「私はそれでも貴方のお側に仕えたいとお答え致しました」
この方は、美しいのだろう。
見たことのない女性の美しさを、サクラは確信した。美しい者特有の、自信と誇りが言葉の端々に溢れている。それは、姉の持つものであり、妹の持つものであり、そして、サクラには決して持ち得ないもの。
「私をお側に置いては下さいませんか?」
美しく聡い大国の姫君。
その方が、自ら訪れ、カイの側に侍りたいと請う。
それが、いかほど意味のある行動なのか。皇帝の後押しと、その美しさと誇り高さを以ってしても、彼女がどれだけ覚悟を決めて訪れたのかを思った。
それは、カイの心を動かすのだろうか。
「妻は一人で十分だ」
カイの声が響いた。
サクラが聞いたことのない、冷たい硬い声だった。
「妻として十分ではないからこその、貴方の所業ではございませんか」
答える声には、怯みとそれを奮い立たせるかのように、僅かながらも荒々しさが混じった。
「妻として十分ならば、貴方が他の女性を召される必要などない筈。それでは、私は納得できかねます」
少しの沈黙。声は女性が続けた。
「その娘・・・貴方の、本当の妻なのですか?私には、そう思えないのです」
サクラはとっさにホタルを見た。
ホタルは目を閉じたまま、意識を会話に集中させている。
「私の考えが誤っていないならば・・・貴方はお間違えになった。確かに剣は貴方の半身のようなもの。それをお側に置きたいお気持ちは理解できます…正妃であれば、誰からも護ることもできましょう・・・ですが・・・妻として、女性として扱えぬならば、そうすべきではなかった。それでは、あまりにその娘が哀れです」
サクラを哀れむのか。
気高く、聡く・・・そして、慈悲さえ持ちえる女性。
こういう方こそが、この地位にと望まれていたのだ。
どうして、ここに私はいるのだろう。違う。そんなことではない。ここにいることは、カイが望んだことだ。鞘としてここにあれば良い。それだけで良い。
どうしてと問うべきは、この心。
なぜ、こんなに苦しいのか。辛いのか。
そんな感傷はいらないのだ。ただ、ここに鞘として存在することを望まれているのだから。
「帰れ」
カイの声は静かだ。
「鞘がそんなに必要でしょうか?鞘の存在自体、その価値を疑われております!軍神に鞘は必要かと・・・貴方とて!」
女の声に、激しさが混じった。
「貴方とて、鞘が不要と思ったことがおありでは!?」
サクラは身震いした。
考えを打ち砕くような言葉に、目の前が歪む。
鞘はいらない?
軍神に鞘が不要ならば。常に刃を晒し、その存在を誇示することこそを望まれているのならば。
では、私は。
私は何故、ここにいるの?
「喚くな。サクラは俺のものだ。サクラのことは俺が決める」
「申し訳ございません・・・鞘を亡き者にしようなどとは、キリングシークはもちろん、私共も考えてはおりません・・・ですが、妻としての価値がない以上、いずれ…」
「アカネ、帰れ」
カイが止めた。
明らかな不興を含んだ声。女は、しばし沈黙を守った。
しかし「私、貴方のお側に参りたいのです。いろいろ申し上げましたが、望みは…それだけなのです」
縋るような弱々しさを含んだ懇願がサクラが聞いた最後だった。
サクラの目の前が真っ暗になる。不意に音が止んだ。
「サクラ様!」
現実の声。
ホタルが、サクラを見ている。ホタルは泣きそうな…否、涙が頬を伝う。
「・・・ホタル」
「サクラ様・・・ごめんなさい」
詫びに首を振る。ホタルに手を伸ばそうとするのに、体が強張って動けない。
「いいの。ホタルは、悪くない」
悪いのは私だ。
サクラは自分に言い聞かせるように呟いた。
私が情けないから。
弱いから、こんなことをホタルにさせてしまう。
「大丈夫。私は大丈夫だから…ね、ホタル」
ホタルは顔を上げ、サクラを見つめた。
「サクラ様は、泣かないのですか」
次から次へと落ちる涙。
ホタルの涙は、サクラのために流れている。
サクラの涙は。
「泣くことなんて、何もないわ」
サクラは泣かない。
泣くわけにはいかない。
泣くことは、現実を嘆くことになる。
鞘でしかないという現実。
妻にはなりえないという現実。
少なくとも、カイは鞘を不要とは言わなかったではないか。
ならば、何も変わらない。
カイの。使い手の。軍神の。
望むまま、ここにあれば良い。
それは、嘆くべきことではない。受け入れて、納得して、サクラはここにいるのではないか。
「サクラ様はたくさん傷ついているのに?…だって、サクラ様は」
「ホタル!」
聞きたくなくて、きつく名前を呼んだ。
もう無駄なのかもしれない。
受け入れたはずのこと。納得したはずのこと。全てが崩れ始めて、新しい何かが蠢き始めてしまっているのかもしれない。
でも、まだ、それは知りたくない。
ホタルは唇を噛み締めた。
はらはらと、流れる涙が、サクラを慰める。
「ホタル、ありがとう」
ホタルは少しサクラを見つめ、やがて「顔、洗ってきます」と、笑って立ち上がった。
誰にも。
誰にも、気づかれなくなかった想い。自分自身、気づきたくなかった想い。
それが確実に形を成していく。
止めることも、壊す術もないまま。
サクラは、それから眼を逸らすしかない。
ホタルが戻らない。
随分、時間が経って、自分自身も落ち着いた頃、サクラは気がついて、廊下を覗いた。
「ホタル?」
控え目な声で呼んでみる。がらんとした空間から、返事はなく。
「ホタルは、しばらく戻らない」
頭に直接響くのではない、現実の声が背後から聞こえる。
予想外の声に必要以上の反応で振り返ると、寝室との入口を塞ぐようにカイが立っていた。
会話を盗み聞きした後ろめたさで、その顔を直視することはできない。
「ホタルはシキに預けてある」
何故、ホタルがシキの所に?
カイに問い掛けを許す気配はなく、サクラもまた、それを声にすることはできない。
カイは寝室の扉を閉めると、サクラへと近付き、サクラが開けた廊下への扉も閉めた。
閉じられた扉とカイの間で、身動きが取れなくなる。
「アカネとの話を、聞いていたのか?」
それは確認だった。
何をどれほど知っているのかは分からない。
だが、カイは分かっている。
サクラは、はっとした。
「それで、ホタルはシキ様に叱責されているのですか?あれはホタルが悪い訳では・・・」
「俺の質問に答えろ」
サクラの言葉は、カイの静かな命令に遮られた。
「・・・聞いてました」
正直に答える。
叱責でも、侮蔑でも、甘んじて受ける。何より、自分自身が一番恥じているのだから。
だが、カイはどちらも口にしなかった。
「サクラ」
思いがけず、優しい声で名を呼ばれる。
先ほど、頭に響いた声と同じとは思えないほど、柔らかい声。
逞しい腕が伸びる。
それは、背に回り、サクラを目の前の広い胸に引き寄せた。
「大丈夫だ」
囁くように注ぎ込まれる言葉。
サクラは、それに震えるように反応した体を嫌悪するのに。
カイは、さらに強い力で抱き寄せる。
「何も心配はいらない」
心配?
何を?
私が何を心配するというのか。
我が身?
見せ掛けの地位?
どれも、サクラが心配したところで、どうとなるものではない。
どれも、カイの考え一つでどうとでもなるものではないか。
「誰にも何もさせない」
それは、使い手が鞘に誓ったことだ。
使い手は、剣がそこにある限り鞘を護ると、そう誓った。
剣は、サクラの中にいる。
貴方が不要と思わないならば、私は、まだ、貴方の剣の鞘だ。
「サクラ」
大きな手の平に顔を上げるよう促される。
嫌。
一体、どんな顔をしているのか。
「何故、そんな顔をする?」
問い。
知らない。
知りたくない。
何も、もう。
「サクラ」
どうして。
抱きしめるの?
こんな腕はいらないのに。
「大丈夫だ」
優しく囁くように。
額に、頬に触れる唇。
形ばかりの妻に。
鞘であるだけの娘に。
なぜ?
「サクラ・・・お前は何も心配せず、俺の傍らにあれば良い」
そうして、貴方の誓いは、護られるのだろう。
魔も人も、私を傷つけない。
ただ、貴方が。
軍神が、誓いの束縛を裁ち切り、私を傷つける。
いや、違うのだ。
私が勝手に、自らを傷つけるのだ。
自らを省みず、貴方の優しさを誤解し、その腕を間違える。
どんなに私が愚かな者であるかを、まざまざと見せ付けられて、私は勝手に嘆くのだ。
「離して下さい」
サクラは手の平をカイの胸に置いた。
腕を伸ばしながら、一歩後ずされば、あっさりとカイから離れた。
「大丈夫です。ちゃんとここにいます」
こんなに簡単なのだ。
この腕から、逃げるのは。
今まで、何を戸惑っていたのだろう。
この腕は、逃げれば、追わないのだから。
「何も心配しておりません。私が剣の鞘である以上、ここにいるしかないのですもの…そして殿下は、鞘である私を護って下さるのでしょう?」
カイが眉を潜める。
俯いたままのサクラはそれに気が付くことなく、言葉を続けた。
「大丈夫です。何も気にしません。不安もありません。ですから」
息を吸う。
そして、言葉を吐く。
「私自身のことなど、お捨て置き下さい」
それは、初めて口にする拒否。カイを拒む言葉。
「妻という立場は、鞘ゆえと重々承知してます。さして役に立たぬ身にも関わらず、十分すぎるほど、殿下にはお気遣いをいただいております。これ以上、何も望むものはありません…どうか」
もう。
これ以上、いらない。
慰めの抱擁も、憐れみのキスも。
鞘である私が必要ならば。
そうであれと望むならば。
「わかった」
一言。
カイは、静かに答えた。
表情はない。
金と黒が、ただサクラを見つめ、やがて背を向けた。
カイが出ていく。
サクラは立ち尽くしていた。
涙はやはり出なかった。