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カイが出立してから、サクラを待っていたのは、想像以上に不安な時間だった。

今、この瞬間にも、カイは魔獣と対峠しているかもしれない。剣はどうなるのだろう。本当にカイの元に届くのだろうか。カイは剣を手にすることができるのだろうか。

不安、不安、とても心配。

とは言え、無力な自分に何かできる筈はなく、みっともなくうろたえることだけはやめようと、空を見上げることがせいぜいだ。

「まだ、何も起きてません」

背後でホタルが呟いた。

振り返ると、ホタルが目を閉じ、耳を澄ましている。

「本当に?まだ、殿下には何も起きてない?」

意気込んで聞いてから、サクラは気がついてホタルを止めた。

「ホタル…ごめんね。聞かないでいいわ」

ホタルは遠耳の持ち主だ。

普段は、力を抑えているが、それでもこの隣の部屋の会話ぐらいなら、常に聞こえているという。

力を放てば、かなり遠くの、例えばはるかかなたの国の会話を、聞きたいことを探り当てて聞くことができるらしい。

だが、そこまでするには、相当な集中力が必要で、過去には卒倒したこともあった。しかも、母親から受け継いだその力を、ホタルはとても嫌っている。

「でも…お知りになりたいのでしょう」

サクラは首を振った。

聞いたところで、何かできる訳ではない。

カイが言ったとおり、サクラはここで待つしかないのだから。

「きっと殿下は、大丈夫だもの」

戦いの状況をホタルに聞かせるのも嫌だった。戦場がどんなものか、サクラも知らない。だが、決して気分の良い場所ではないはずだ。

「ね?」

ホタルは、肩の力を抜いて、緊張を解いた。

「分かりました。聞きません」

聞かなくても大丈夫。サクラは自身に言い聞かす。

だって、殿下は・・・「カイ様は大丈夫ですよね。だって、キリングシークの軍神様ですもの」サクラの思考に重なるように、ホタルが言う。

それに、笑いを零しながらサクラは頷いた。



突然だった。

カイのいない3日目の夜。

サクラは、湯浴みを終えて、髪をホタルに拭いてもらっていた。

最初は、フワリと髪が揺らいだだけ。

どこからか、すき間風が入っているのかと、サクラもホタルも窓に目を向けた。

次の瞬間。

激しく渦を巻く風が、サクラの周りで起こった。

「サクラ様!」

ホタルが悲鳴のように、サクラを呼ぶが、風に掻き消されてサクラには届かなかった。

風は更に激しくサクラを巻き込む。

濡れた髪が、風に大きく掻き乱され、舞い上がる。

薄い夜着が、バタバタとはためく。

だが、それは一瞬。

パタリ、と風は止み乱れた髪だけが、名残を残す。

サクラは、呆然と宙を見つめた。

「サクラ様?」

ドンドンと、激しいノックがあり「失礼します」と、マアサとタキが部屋に入ってくる。

「ホタル、貴方の声が聞こえたので。いったい…」

「剣が…殿下に呼ばれました」

タキの問いを遮るように、サクラは呟いた。

「今、剣は殿下のお手元に」

手を胸に当てた。

いつもそこに剣があることを意識している訳ではない。

だが、今、ここに剣がないことは、わかった。

剣が呼ばれた。

それは、カイが剣を呼ぶ状況にあるということ。

どうかご無事で。

気がつけば、そう祈っていた。

どうか、ご無事にお戻りください、と。

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