表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/31

始まりは闇

 空には月。

 細い細い、今にも空に飲み込まれそうな月。

 弱々しい光は、鬱蒼と生い茂る森になんとか降り注がんとしていたが、木々の合間をすり抜けるのは叶わず、消えてなくなる。

 故に、森の中は闇。


 だが、静寂ではない。

 闇の中では、何かが蠢く音や、不気味な鳴き声。時に争うような甲高い響きや、呻き声も起こった。


 そして、足音。

 静かに、乱れることなく、粛々と続く足音。

 または、呼吸音。

 ざわめく森の中、むしろ異質な、静かな、静か過ぎる音。

 音の根源は、人−−−男だった。

 男もまた、闇を纏う。

 フードを深々とかぶり、全身を漆黒のマントに包んでいる。

 昼間であれば、人が行き交うのであろう道を、一人で歩いている。


 不意に足音が止んだ。

 同時に、あれほどざわめいていた森が、ピタリと静まり返る。

 闇の中に、ふと2つの小さな光が浮かんだ。

 おぞましい、血のような真っ赤な光。

「待っていた」

 静寂を破ったのは、男の声。

 それを合図としたかのように、一気に森がざわめきを取り戻す。

 先ほどよりもそれは騒がしく、禍々しく−−−そして、どこか恐怖と歓喜を含んでいるように聞こえた。

 だが、それも闇に一筋の光が浮かんだ瞬間に、再び静けさに変わる。

 残ったのは、ハアハアと耳障りな獣の荒い呼吸音と、対するように静かな男の呼吸音だけ。

 光は男の構えた剣だった。

 自ら光を放つ剣に照らされて、フードの奥に隠されている男の面が僅かに現れる。

 もし、そこに男以外の人があったなら、その者はかの男の瞳に釘付けになっただろう。

 右の金、左の黒。

 だが、そこに人はない。

 男の前にあるのは、巨大な獣。

 おぞましい赤い光は魔獣の瞳だった。

 男は剣を獣に向けた。

 実に無造作な仕草で。

 獣が咆哮を上げ、男へと飛び掛る。

 細い光が闇に飲み込まれ。

 そして、瞬く間に姿を戻す。

 少しの翳りを帯びながら。

 ドサリと音がして、巨大な闇が地面へ倒れこむ。

 男が、剣を一振りすると、翳りが払われ、清冽な光が戻った。


 光をマントの中へと戻せば、そこには闇。

 男は歩き始めた。


 森はざわめきを戻す。

 あと、数時間。

 太陽が月にとって変わるその時まで、闇の支配は続くのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ