表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/52

5話 王国への船旅

 どこまでも続く青い空に、柔らかに浮かぶ白い雲。


 日差しは暖かであり、その下の海を煌びやかに照らしている。


「うわぁ……! すっごく綺麗……!」


 生まれて初めて船に乗った私は、広大な海の景色を前に歓声を上げてしまった。


「同感だ。今日は波も穏やかで船旅にはちょうどいい。せっかくだから楽しんでくれ」


 そう言いつつ甲板まで出てきたのはアレックスだった。


 私は今、アレックスの故郷であるエクバルト王国へ船で向かっている最中なのだ。


 レリス帝国とエクバルト王国は海で隔てられている。


 厳密には地中海で隔てられているので陸路でも向かえるらしいけれど、大きく迂回する形になるので、船を使って直進した方がずっと早く、近いそうだ。


「しかしティアラが船酔いしない体質でよかった。波が穏やかでも酔う奴は酔うからな。船は初めてと言っていたから、少し心配していたんだ」


「それは大丈夫。私、体調不良にはかなり強いから。多分、船酔いも含めてね」


「……どういうことだ?」


 顎に手を当てて首を傾げたアレックス。


 私はせっかくなので話しておこうと思い、続ける。


「実は治癒の力に目覚めてから大きく体調を崩したことがないの。病気も含めてね。その、疲労感なんかは多かれ少なかれ感じるし、無理をすれば辛いしふらつくんだけど……強いて言うならそれくらいかな。船酔いが全然平気なのも多分、そういうことじゃないかなと」


 するとアレックスは「ふむ」と興味深そうにしつつ唸る。


「治癒の力に目覚めてからか……。憶測だが、ティアラの力は自己補完という形で、必要な時には無意識的にティアラ自身に働いているのかもしれないな。帝国で治癒の力を酷使しても体を壊さなかったのは、そういう部分もあったのかもしれない」


「つまりは自動でかぁ。……そういえば酷く疲れが溜まった時とか、魔力が勝手に減る代わりに体が楽になっていたような……?」


 そう呟けば、アレックスは「マジか……」と零した。


「ティアラ、今言った無意識下で力を働かせるって話。あれは本当に憶測のつもりだったんだが……。魔術を含め、人間が魔力を扱う際は凄まじい集中力を必要とする。人体を修復する治癒系統の力となればなおさらだ。それを自身限定とはいえ、本当に無意識下で……」


 ぶつぶつと話始めたアレックスに、私は「そんなに凄いの?」と思わず聞いた。


 するとアレックスはため息をついた。


「凄いなんてものじゃない。正に聖女、圧倒的に規格外だ。気付いていないだけで他にも、ティアラの力が無意識下で周囲に影響を及ぼしていたとしてもおかしくないほどだ。……全く。俺は何をしに帝国魔導学園に留学していたんだか。最初からティアラの研究をすればよかったのかもしれん……すまん、冗談だ。冗談だから引くな」


 ……後退っていると、アレックスは「本当に嘘だぞ」と笑いかけてきた。


 今更ながら、アレックスは魔力や魔術のような魔導に関しては興味津々な性質らしい。


 でなければ魔導学園に留学しないかと思いつつ、流石に研究対象にされるのは勘弁願いたかった。


「もう。……アレックスの話は難しいことばかりだね。せっかくの船旅なのに」


「そうだな。せっかくの船旅なんだからこんな小難しい話はすべきじゃなかった、すまん。今まで学園での学業や研究ばかりだったから、ついそういう方向に話が飛んでしまうんだ」


「学業や研究ばかりって……でも、その割にはかなり鍛えているよね?」


 そう、アレックスは学者肌な青年とは思えないほど、よく鍛えられた体をしている。


 今は私服で薄手のシャツを着ているので体つきがよく分かる。


 全身の筋肉が細く引き締まっていて、鋭い機能美を備えているような感じがした。


 薄っすらと手の甲や手首には傷跡があり、宮廷にいた兵士よりよほど鍛えているように思えた。


 ……ちなみに、私が今までアレックスを「王族や貴族の子息なのでは?」と思わなかった理由は、この鍛え抜かれた肉体と各所に付いた薄い傷跡にあった。


 アレックスは私の視線に気づいたのか、自身の腕を見つめた。


「ああ。これはエクバルト王家の習わしの、日々の鍛錬で出来た傷だな」


「王子様も体、鍛えるんだ?」


「一応な。エクバルト王家の祖は天神より聖剣を賜りし剣士だったそうだ。かつては魔物により荒されたエクバルトの地を二振りの剣で平定し、王国の礎を築いたと伝えられている」


「それでエクバルト王家の人はご先祖様に倣って体を鍛えているの?」


「その通り。それにエクバルト王家の紋章は民を守る白剣と魔を払う黒剣の二本だ。自然と王族にも剣技が求められ、年の始まりには王の剣舞を天神に捧げる習わしもある。俺も第一王子だからと、剣術の指南役には幼い頃から厳しく鍛えられたもんだ」


 私はアレックスの話に「そうなんだ……」と聞き入っていた。


 今まで帝国の宮廷の中に長くいたので、他国の話を聞くのは新鮮だったのだ。


「アレックス。もっとエクバルト王国について教えてくれる? 私、これから暮らす王国について色んなことを知りたい」


「おっ、構わないぞ。どうせ夕暮れ時まで海の上だしな。のんびり話すさ」


 アレックスは「ティアラが興味を持ってくれてよかったよ」と言い、話を続けてくれた。


 こうやって時間を気にせず誰かと話すのは久しぶりだったので、私はこの時間がとても楽しく、嬉しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ