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45話 空の旅路

読者の皆様、いつもありがとうございます。


本日発売の月刊コミック電撃大王のカラーページに新連載のお知らせが載っています。


まりむぅ先生による本作のコミカライズが、来月発売の3月号より連載開始となります!


とても綺麗で素敵に仕上げていただいていますので、ぜひ読んでいただけますと嬉しいです。


今月発売した小説書籍と共に、よろしくお願いします。

「……さて、こうして僕の服装を変えてみたのだけれど……」


 少し経ち、クライヴは服装を変えて現れた。


 全身は黒を基調とした、王城の使用人のようにも見える衣服を纏っている。


 顔には目元のみを覆う、ドミノマスクのような仮面を付けていた。


 さらに腰の左側、風になびく上着の下にちらりと見えたのは、魔術を扱うための杖。


 ただしそれは、アレックスの提案通り、クライヴの持っていた杖とは別のものに変えられている。


 おまけに腰の右側には小ぶりな剣が鞘ごとベルトに刺さっていた。


 ……なんというか、これは……。


「無駄に目立つな。特に目元を隠しているそれ」


 恐らくこの場にいる誰もが思っていたことを、アレックスは遠慮なく指摘した。


「しかも魔術強化用の杖に加え、帯剣までするとは。使用人なのか魔術師なのか騎士なのか、よく分からん出で立ちになっているぞ」


「し……仕方がないだろうっ! 僕もちょっとダサ……ごちゃごちゃしている気はしていたよ、でもっ!」


 クライヴが抗議するように視線を向けた先では、風精霊の双子が首を傾げていた。


「えっ、そうかな?」


「せっかく選んであげたのに」


「「似合っているのになぁ~」」


 双子は頬を膨らませ、ジトっとした視線をクライヴに向ける。


 どうやら彼の装いの選択は、主に風精霊の双子主導で行われたらしいと察せた。


 リンジーさんはクライヴの後ろで「くくっ……」と笑いを堪えている。


 クライヴは再び黙り込んでしまった。


「ちなみに、目元を隠したものの、余計に怪しさが増してしまっている……それが?」


「……そうだよ。アレックスが察している通り、魔力が体外に漏れ出ないようにする魔道具さ。リンジーさんが見つけてくれたんだ」


「城の魔道具保管庫からささっとね。中々に良い物が揃っていたじゃないか」


 リンジーさんが褒めると、アレックスは「まぁな」と胸を張った。


「帝国の宮廷ほどでないにせよ、それなりの品ばかりのはずだ。帝国に留学へ行く前にも、城の魔術師たちに、よい品があれば定期的に買い足すようにと言い含めておいたから」


「ちなみに、その心は?」


「城で活用するために決まっている。……と言いたいところだが。正直、俺が試して楽しみたかったという思いもあった。とはいえクライヴの身に着けている品のように、魔力のない俺には活用できないものも、残念ながら多くあったがな」


「相変わらずの魔道具好きだねぇ。……これ、試しに着けてみるかい?」


 クライヴが自身の目元を覆うマスクを指差すと、アレックスは苦笑気味に、


「遠慮しておくよ。悪目立ちは一人で十分だ」


「ティアラ様、聞きましたか。これが第一王子の発言ですよ。仮にも隣国から遥々やって来た学友に対して!」


 クライヴが私に助けを求めてきたものの、直後にアレックスがさっさと言い放つ。


「今のクライヴは俺の『従者』だろう。先ほどの発言、忘れたわけではあるまい」


「こっ……この王子!? なんでこんな無駄に口達者なんだ……!?」


 戦慄くクライヴの肩を、リンジーさんがぽんと叩いた。


「大丈夫。いつもの話だよ」


 リンジーさんの手は握り込まれ、何故か親指がぐっと立っていた。


「まさか師匠に対してもこんな感じなのかい!? 相変わらず慣れた相手には容赦がないね。もしやティアラ様にも普段からこんな……」


「ことは絶対にないから安心しろ。お前と師匠だけだ」


 食い気味に否定したアレックスに、クライヴは「そ、そっか……」とタジタジだった。


「……さて。クライヴと遊……装いの確認はこの程度にしてだ」


「今、遊ぶって言いかけたよね?」


「ジャレッド公にも本日中に向かうと伝えた以上、そろそろ動き出す必要がある」


 クライヴの発言を華麗にスルーし、アレックスは「テオ」と短く呼ぶ。


 するとテオは「はっ」と姿勢を正した。


「こちらに戻る前に確認しましたが、既に竜騎士六騎、準備が整いつつあるとのことです。現在は王子たちの旅の支度を進め、デミスに鞍も取り付けています」


「よし。七体も竜がいれば全員乗せつつ荷物も持って行けるだろう。各々、他に準備するものがあれば今のうちに……」


「あっ、それなら少し待っておくれよ。城に連れて来られたのも急だったし、一度魔道具店に戻って必要なものを回収したい。精霊門の突破についての資料も持ち込みたいしさ」


「分かった。それなら師匠を待ってからの出発にしよう」


 ……このように話が纏まってから、のちほど。


 王城の馬車で魔道具店まで戻り、再び王城まで戻ってきたリンジーさんは結構な大荷物を背負いながら「ば、馬車に揺られ過ぎて腰が……!」と嘆いていた。


 私がリンジーさんの腰を治している最中、ウィルとシェリーは「だ、大丈夫かな、この賢者様……」と少しだけ不安そうにしていた。


 それから私たちは、クリフォード陛下やエトナさんたちにも見送られながら、シルス精霊国へと飛び立った。


 デミスの上にはアレックスと私──以前のように防寒具を着用している──が乗り、先頭をゆく。


 なんでもデミスは王城の竜の中で最も大きく力強いので、飛竜競以外では、他の竜が自然とデミスに先頭を譲ってしまうのだとか。


 アレックス曰く「群れの主のようなものだな」ということだった。


 ただ……。


「普段以上にデミスが速いな」


「そうだよね。前に飛んだ時よりずっと速い気がする」


「なのに吹き付けてくる風は中程度といったところ。これは……」


 アレックスが不思議そうに呟くと、後方から声が飛んできた。


「王子様に聖女様! それは俺たちが風を操って、竜が速く飛べるようにしているからだよー!」


「それに吹き付ける風で皆の体が冷えすぎないよう、少し暖かい風の衣を纏わせているの! これでも私たち、風の精霊だから!」


 ウィルとシェリーの元気な声。


 どうやら後方の竜に乗る風精霊の双子のお陰らしかった。


 アレックスは「ほう」とさらに驚いた様子で続ける。


「竜が飛翔し、風が後方に流れる中、こうして声を飛ばしてくるとは。気流を操っているのか、大気中の魔力に声を乗せ伝播させているのか。流石は精霊、興味深いな……」


 どうやらアレックスが唸るほど、双子の行っていることは凄いようだ。


 振り返れば、魔力を使っている影響か、ウィルとシェリーの体が若草色に輝いていた。


 ウィルとシェリーがこちらに手を振ってきたので、私は片手を小さく上げて手を振り返した。


 こうして片手を鞍から放しても落下しそうにならないのも、二人の力のお陰だろう。


 しかも、聞こえてくる声はウィルとシェリーのものだけではなかった。


「へえぇ。同じことを魔術でやろうとしたらいくつの術を起動すればいいのやら。子供でも精霊は精霊ってことだねぇ」


 しみじみと話すリンジーさんの方を見れば、やはり今も重そうな荷物を背負い続けていた。


 思えばあの荷物は重い重いと言いつつ、出発前も竜の背に括り付けることはせず、なくすわけにはいかないから自分で背負っていくと言い張っていた。


 あの、体力がないと自他共に認めるリンジーさんがだ。


「リンジーさん」


「んっ、ティアラの声だね。どうかしたかい?」


「今更ですけど、その大荷物って全部が精霊門を突破するための資料や魔道具なんですか?」


 それにしては量が多すぎる気もする。


 リンジーさんは「ちょっと色々とね~」と曖昧に笑った。


「打てる手は多いに越したことはないって話さ。これでも私、準備は抜かりなく行う性格でね。後は……そう、これこれ」


 言いつつ、リンジーさんは上着の下から一冊の魔導書を取り出した。


 赤色の表紙に金の装飾が施され、一枚の魔導符が貼られたその魔導書は、


「喋る魔導書……!」


「精霊門の突破は大賢者の資料も頼りだけど、こいつは大賢者が直接残した書物だからね。実はこいつが今回の鍵を握っている可能性もあって……」


 と、リンジーさんが私へと魔導書を掲げ、語る最中。


 ウィルが「あっ!」と声を上げた。


「リンジーさん! それ以上掲げると!」


「私たちが纏わせている風の衣の外に……!」


「えっ? ……うわっ!?」


 魔導書が吹き飛ばされそうになり、慌ててリンジーさんは両手を引っ込め、魔導書を抱きしめる。


 ──よかった。両手で持っていなかったら今頃落ちていたかも……。


 そのように私が安心し、アレックスも「気を付けてくれよ師匠」と笑みを浮かべて注意したところ。


 ……リンジーさんがぎょっとした表情になった。


「あの……リンジーさん?」


「し、しまった。今ので魔導符が……!?」


 よく見れば、魔導符が風に吹かれて空を舞っていた。


 もう遠く離れてしまい、取りに行くのは難しいかもしれない。


 また、リンジーさんに続いてぎょっとしていたのは、誰あろうアレックスだった。


「まさか、封印の魔導符が剥がれたのか!? ということは……!」


「ふわぁ……よく寝た。おいら、なんで寝ていたんだっけ。確か変なお札を賢者様に貼り付けられて……って! 何々、空飛んでる!? えっ、あれっ……どういう状況!?」


 封印の魔導符が剥がれ、普段通りに騒ぎ始めた魔導書。


 アレックスは頭痛を堪えるように額を抑えた。


「静かな空の旅が失われたか……師匠のおっちょこちょいめ……」


 その後、シルス精霊国に着くまで、魔導書はあれこれと騒ぎ続けていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

改めてになりますが、WEB版読者の皆様にも、ぜひ小説書籍を書店にてお買い上げいただけますと嬉しいです。

表現を含め、全体を読みやすく改稿し、小説書籍限定の書き下ろし章(3万字超え)もございます。

作品を長く続けていくためにも、何卒お願いいたします。

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