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43話 賢者の説得

本作【私は偽聖女らしいので、宮廷を出て隣国で暮らします】の書籍版は全国書店にて本日発売です!


本文には全体に改稿を入れ、書籍版限定の書き下ろし章も追加させていただきました。


イラストもとても素敵ですので、ぜひ書籍版も読んでいただけると嬉しいです。


さらにコミカライズについての続報です。


本作のコミカライズがなんと、KADOKAWAの漫画雑誌「月刊コミック電撃大王」にて連載されることが決定しました!


書籍版の帯にコミカライズ版のティアラが描かれていますので、そちらもぜひチェックしていただけますと何よりです。


本日発売の書籍版を、どうかよろしくお願いいたします!

「深紅の稲妻が精霊を呑む……か。精霊の魔力量は人間を遙かに超えている。そのような精霊さえ抗えぬほどの事象とは、得体が知れん」


 ウィルとシェリーによる情報の共有が済んだ後、ジャレッド公は「どうしたものか」と眉間を揉む。


「大公様、お願いします!」


「聖女様と一緒に精霊郷に行かせてください!」


「むぅ……」


 双子の猛烈な訴え。


 しかしジャレッド公は渋るような気配が濃い。


「ジャレッド、今は聖女の力を借りてでも事態を解決するべきではないか? 当然、これは主にシルス精霊国の問題であり、最終的な決定権は大公であるジャレッドに……」


「待て。待つのだ、クリフォード。こちらとて聖女の協力を拒みたいわけではない。だが……そもそも、精霊門自体が人間を拒む性質を持つ。こちらが如何ともし難く思っているのはそこなのだ」


「……何?」


「……説明するぞ。まず知っての通り、精霊郷には基本的に人間は立ち入れない。人間の立ち入りを精霊王が拒んでいるためというのもある。しかしそれ以上に、精霊門が人間を内部へ招き入れるのは、年始のみなのだ。故に、我ら大公の一族……ウルクス家の者といえども、年始にのみ精霊王の許しを得て精霊郷に入り、謁見できる程度。精霊門というもの自体がそもそも、そういう仕組みのものなのだ。加えて現在、精霊門は漆黒の渦が巻き、尋常な状態ではない。聖女がこちらに到着しても、どうにかなるものか……」


「そんな……」


 ウィルは絶望といった表情で俯き、シェリーも同様だ。


 でも、そんなことで諦めるわけにはいかない。


「精霊門だって、もしかしたら私の……」


 力でどうにか、と言いかけた、その時。


「あー、あー。失礼失礼、私からもいいですかね」


 わざとらしく声を大きくして、リンジーさんが手を挙げた。


 そのまま、誰かが何かを言う前に、ささっと魔法石の前までやってきた。


「むっ? そなたは……」


「私はリンジー。リンジー・ダイアスと申します。以後お見知りおきを、ジャレッド公」


 大らかに、大げさに一礼したリンジーさんに、ジャレッド公は「そなたが」と魔法石に少しだけ顔を近づけた。


「噂は聞いている。かの大賢者であるハリソンの子孫にして、真の後継者とさえ呼ばれた、あらゆる魔術を使いこなす達人であるとも。現在は魔導の表舞台からは姿を消したと聞いていたが……」


「隠居しつつ気ままに研究生活ですよ。面倒は嫌いな性質でしてね。……さて。話を戻しますよ、精霊門の方にね。ひとまずジャレッド公としては聖女ティアラがそちらへ向かうこと自体は許可していただけると?」


「当然。緊急事態ゆえに、こちらもあらゆる手を尽くしたい所存だ。元帝国の聖女をシルス精霊国に入れるとは……などという声が配下から上がったとしても、全力で抑えてみせよう。とはいえ、先ほども話したように……」


「精霊門が問題であると」


 ジャレッド公は無言で深く頷いた。


 途端、リンジーさんがパチンと指を鳴らし、不敵に笑った。


「問題ないですよ。所詮、精霊門も魔導の一種。精霊郷と外界とを繋ぐ空間術の一種であるはずです。それならさっさと解析して穴を開けるなりして、突破してしまえばいいんですから」


 あまりにもあっさりと言い放ったリンジーさんに、ジャレッド公が「その言葉、誠か?」と尋ねた。


「出来ないことは言わない主義ですからねぇ。それにかつて精霊郷に踏み入ったらしい大賢者の残した記録を見ても、いけそうな気はしますよ。なので精霊郷の突破についてはお任せください」


「ほう、それではぜひとも……!」


 希望が見え、小さく笑みを浮かべたジャレッド公に、リンジーさんは食い気味に「ただし」と続けた。


「精霊の双子の話、カリルとか言う精霊の言伝からして、精霊門を通った後、精霊郷を救うには聖女の力が必須。しかし精霊郷は現在、内部の状況が不明であり、なおかつ精霊すら抗えない超常的な力が跋扈している。となれば聖女を守る護衛は必要ですよね?」


「当然であるとも。こちらも護衛として、精霊国に三名しか存在しない、特等の魔術師を……」


「それはありがたいですが、彼らの戦力で精霊すら抗えない事象に確実に対応できますか? お言葉ですが、彼らでは精霊門の突破さえできないのが現状とお見受けしますが」


「……それは……」


 ジャレッド公は口籠もるように言い淀んだ。


 それを好機と見たのか、リンジーさんは素早く続けた。


「ですがこちらにはいますよ。確実に聖女を守り切れる最強の守護者が」


「……その者は?」


「王国の誇る最強の竜騎士。アレックス・ルウ・エクバルト第一王子。ご存知と思いますが、先日、輝星教会と帝国の公爵がやらかして解き放った魔族を討ったのも王子です。精霊を軽々と超える力を持ち、二百年前もたったの七体で大陸を落としかけたうちの一柱を、真正面から撃破したわけですから。聖女の守護は彼以外には務まらないでしょう」


 それからリンジーさんは「アレッ……王子、こちらへ」とアレックスを呼んだ。


 ……普段のトーンで呼びかけていたものの、すぐに声を硬くしたのは、流石と言うべきだろうか。


 魔法石の前には既に私たちも立っているので、少しだけ密集する形になってしまう。


 けれどそんなことも気にせず、アレックスは魔法石に映るジャレッド公の前へと出た。


「お久しぶりです。ジャレッド公」


「アレックス王子、立派になられたな。若い頃のクリフォードを思い出す。して、王子が魔族を討った話は精霊国にも届いているが……改めて、王子の意思を聞こう。力を貸していただけるか否か、何より王子の意思を第一にしたい」


 するとアレックスは「喜んで」と即答した。


「ティアラは聖女である前に大切な友。友が成したいと願うことを、俺も一緒に成したいのです。ティアラが行くと言うのなら、俺が彼女を支えて守り、共に精霊郷を元に戻します」


 私たちの頼れる王子様は、迷いなく、凜々しく言ってくれた。


 ……アレックスの真っ直ぐな意思に、少し照れるような、嬉しいような、そんな温かな気持ちにさせられた。


「というわけで。こちらは王国最強の竜騎士を、騎竜と聖剣二本のオマケ付きで同伴させたく思います。王子への意思確認が済んだジャレッド公の方はよろしいと思いますので、最後にクリフォード陛下はいかがですか?」


 リンジーさんに話を振られたクリフォードは「よい」とアレックスのように即答した。


「息子が心配ではないといえば嘘になる。しかしアレックスなら確実に無事に戻ってくるであろう。逆にアレックスをどうにか出来る存在がいるなら見てみたいほどだ」


「父上、それは言い過ぎと思いますが……」


「無論、冗談である」


 場の空気が硬いので、本当に冗談なのか、もしくは半分ほど本音なのか、いまいち判別できないのが残念なところだった。


「とはいえ王子を送り出すのだから、他の竜騎士も六騎ほど同伴させたいが、構わないかジャレッド?」


「問題ない。他国であれば、竜騎士を六……いいや、王子を含め七騎も送ると言われれば、嫌な顔をするだろうが。こちらは構わん。寧ろそれで精霊郷を取り戻せるなら、それ以上のことはない。……面倒をかけるな、クリフォード」


「構わんよ。私たちの仲ではないか。それでは、本日中にでも向かわせよう」


「承知した。王子、聖女、賢者の御三方の到着を心よりお待ちしている」


 そこまでジャレッド公が話した時、ぷつりと魔石通信が切れた。


 魔石通信を繋いでいた魔術師のかたを見れば、顔に汗を滲ませ、肩で息をしていた。


 どうやら限界が来てしまったようだ。


「お前もすまなかったな。無理をさせた」


「い、いいえ……。こ、この程度、なんということは……」


 それから魔術師のかたは騎士の肩を借りて、王の間から退室していった。


 私といえば、無事にシルス精霊国行きが決まり、一安心という思いだった。


「これでウィルやシェリーのためにも、精霊国に行ける……」


「だからといって、滅多なことを言うもんじゃないよティアラ」


 ほっとしていると、少し怒った様子のリンジーさんに詰め寄られてしまう。


「ええと、滅多なことって……」


「精霊門を自分の力でどうにかって言いかけただろう?」


「それは……」


「全く、私が急いで話に割り込んだからよかったものの。あんなの軽率に言うものじゃないよ。前に魔族の異空間を無効化した時だって、傍目から見たらティアラ、死にかけているんじゃないかってほど疲弊していたんだから。あんな負担が馬鹿にならない力、進んで使うものじゃない。……まあ、精霊郷を元に戻すのはティアラ頼みかもだけど……それでもだよ」


 何故リンジーさんが、さっきはあれほど強引に、わざとらしく話に割り込んできたのか。


 全ては私を心配してのことだったのだ。


 それを思うと……。


「……ティアラ、何を笑っているんだい?」


「いいえ、その……。変かもしれませんが、ちょっと嬉しいなって思って」


「……?」


「私、こうやって本気で心配してもらったこと、ほとんどなかったので。怒っていただけるのも少し嬉しいんです」


 故郷では孤児だったし、帝国では国を回すための駒のような扱いだったから。


 するとリンジーさんはぎょっとしたような、もしくは呆れたような表情で、ビシッと固まった。


 それから数秒ほどして動き出し、俯いて「ん~っ!」と唸ってから、私の両肩にぽんと手を置いた。


「全く……全く全く、この子ったら……! は~~~~~全く……。良い子すぎて困るよっ! 何さ、怒ってもらえるのが嬉しいって!? そもそも、どーして帝国の連中はこんな気の良い子に……! なんか帝国の連中に対して無性に腹が立ってきた……っ!」


 リンジーさんは話しながら、そのままの姿勢で悶えていた。


 ……これは一体、どういう感情の現れなのだろう。


 そうして、しばらく悶え続けた後。


「アレックスも似たようなこと、前に言っていた気がするけどさ。ともかくティアラはもう少し、自分を労りな。聖女の力、汎用性も高くて万能ではあるけどさ。あの疲弊の仕方はやっぱり普通じゃないからね。もっと慎重に使った方がいいよ」


 リンジーさんは心配しながら念押しするように、そう言ってくれたのだった。


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