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4話 聖女の去った宮廷

 ティアラが去った直後、レリス帝国の宮廷にて。


 まだ聖女が去ったことを多くの人が知らないその場所では、少しばかりの問題が起きようとしていた。


「失敬、急患だ! 通してくれ!」


 レリス帝国を守護する兵士たちが馬を走らせて現れ、宮廷の前で馬から降りた。


 彼らは負傷した仲間を背負っており、痛々しい呻き声が周囲へ漏れる。


「東の街道の警備任務で仲間が魔物にやられた! 聖女様のお力をお借りしたい!」


 彼らは東の街道を守る警備兵であったが、魔物──神秘の力である魔力により凶暴化した獣──に襲われたのだ。


 魔物の膂力は凄まじく、訓練された帝国兵を優に上回る。


 故に隣国との戦争が終わった後も、負傷した兵士が聖女ティアラの癒しを求めて宮廷へやってくることは多々あった。


 これも、当代の聖女は一般の兵にも癒しを与える真の聖女である……そんな噂話が兵士たちの間に流れているためであり、それは事実であった。


 ……ティアラが宮廷を去るまでは。


「聖女様か……少し待て」


 負傷者を背負った街道の警備兵に対し、宮廷の近衛兵はティアラを呼びに急いで宮廷内へ戻る。


 だが……。


「負傷者がいるようね。ならば任せなさい」


「なっ……イザベル様!?」


 聖女ティアラの代わりに現れたのは、帝国の第二皇女であるイザベルであった。


 彼女は杖状の治癒の魔道具──内蔵魔力を糧に特定の働きをする道具──を手に、負傷した兵士の元へ向かう。


 この時、イザベルは次のように考えていた。


 ──ふふっ。平民聖女の力が何よ。今は昔と違い魔道具も進歩したもの。兵士の治癒程度、宮廷の技師が生み出した魔道具で十分。少しからかった程度で宮廷を飛び出した、あんな小娘の力を借りるまでもないわ。何よりあの子が出て行って清々したものね。


 そしてイザベルは魔道具を起動させ、兵士を癒しにかかったのだが……。


「……イ、イザベル様……? 治癒の方は……?」


 そのように兵士が困惑するほど、全く傷は塞がっていなかった。


 周囲の兵士たちも訝しんだ様子でイザベルを見つめている。


「なっ……そんな!? 魔道具はしっかり起動しているのに……!?」


 顔を青くして困惑するイザベルに、その様を見て「聖女様はどこだ!?」「仲間の命がかかっているんだぞ!?」と近衛兵に掴みかかる街道の警備兵たち。


 ……兵士たちは知らない。


 既にティアラはイザベルや貴族によって宮廷を追い出されていることを。


 ……さらにイザベルも知らない。


 聖女の治癒の力とは、聖女自身がその場に存在しているだけで周囲に影響を及ぼすことを。


 つまりは宮廷の技師が作った治癒の魔道具は、ティアラが宮廷にいた時には彼女の恩恵を受け、試験段階でも十分以上の効果を発揮していたのだ。


 けれどティアラが宮廷を去って「治癒の力」全般が弱体化した今、宮廷の技師が作った治癒の魔道具も使い物にならなくなってしまったのだ。


 そもそも治癒の力は魔道具に置き換えて扱えるほど、単純なものではなかった。


 ……魔力のロスを限りなくゼロにして治癒の力を扱えた、真の聖女かつ歴代一の聖女であったティアラ。


 その力は誰もが想像していなかったところまで及び、帝国や宮廷を支えていた。


 しかしながら治癒を一手に引き受けていた聖女ティアラはもういない。


 こうしてティアラの追放が原因となり、レリス帝国が次第に国力を衰えさせていくことを……帝国の人間たちはまだ誰も知らなかったし、予想すらできていなかった。


ここまでが短編の範囲になります。

次回から連載版のオリジナル部分になります!

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