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37話 双子と王都とお年頃

前回から間が空きました、亀更新ですみません……!

 ウィルとシェリーを連れ、王都を案内しつつ歩き回る。


 二人は小さな手で私の手をきゅっと握り、王都の人混みの中、はぐれないようにしていた。


 それに案内と言っても、前にアレックスが連れて行ってくれた図書館に入ってみたり、お店の位置を教えて回るくらいなものだったけれど、二人は目を輝かせていた。


「こんなに大きな建物が並んでいるなんて、びっくりした……!」


「それに人を乗せた竜も飛んでいるよ、ウィル……!」


 建物や竜騎士を見回してはしゃぐ二人に、私はこう問いかけた。


「そういえばウィルやシェリーがいた精霊郷はどんな場所なの?」


 聞いてみれば、双子は顔を見合わせてから、


「森と草原と小川のある暖かい場所かな」


「あっ、でも山も湖もあります! 皆の家はこの街のより、ちょっと小さいけど」


 ──なるほど。精霊郷は自然豊かな辺境、みたいなイメージでいいのかな。


 レリス帝国にいた頃、聖女としての仕事で緑豊かな辺境へ向かったのを思い出す。


 ちょうどウィルやシェリーが語ったような長閑な景色だった。


「緑の多そうな素敵な場所だね。私もそういうところで育ちたかったかも」


「……? 聖女様って都会育ちじゃないの?」


 どこか不思議そうにしているウィル。


「実は違うの。私の出身は辺境の寒村。食べ物を得るのも大変な場所でね……。皆、苦労して暮らしていたんだ」


 あまり面白い話でもないので、笑いつつ誤魔化すように言ってみれば、シェリーは「そうなんだ……」と零す。


「ちなみに聖女様。私たち、生まれてこの方、精霊国から出たことがなかったから分からないんだけど。寒いところの食事ってどんな……」


 ……くぅぅ。


 興味津々といった面持ちのシェリーが話している最中、お腹から小さな音が聞こえた。


 シェリーはお腹に手を当てて顔を赤くしていた。


「シェリー。お腹が減ったのか? せっかく聖女様が街を案内してくれているのに。堪え性がな……」


 ……くぅぅ。


 話している最中、ウィルのお腹も小さく鳴った。


 ウィルは「……ごめんなさい」と黙り込んでしまう。


 二人揃ってお腹を鳴らしていることについて、あれっ、もう夕食の時間帯だっけ、と思いつつ街中の時計を見てみる。


 しかし時計は昼と夕方の中間ほどの、中途半端な時間帯だ。


 でもそれも当然だろう、私たちがリンジーさんのお店にいた時は昼下がりくらいだったから。


 あれからさほど時間も経っていないはずだ。


 ならどうして二人はこんなにも空腹そうにして……あっ。


 ここで私はとんでもないことに気付いてしまった。


「二人ともごめんね。今更だけど、話を聞いた限りだと、よく考えたら昼食も食べていなかったよね……」


 魔道具店にいた時はウィルとシェリーの話が衝撃的すぎて、そこまで思考が回っていなかった。


 多分、アレックスもリンジーさんもだ。


 けれど子供がお腹を空かせているのはいいことではない、間違いなく。


「この辺りだと……よし。二人とも、今からパン屋さんに行かない?」


 そう提案してみれば、少し恥ずかしげにしていた二人は顔を上げた。


「えっ、聖女様、いいの……!?」


「でも私たち、お金……」


「そんなのいいから! 気にしなくていいよ」


「でも……」


「子供が心配することじゃありません」


 そう言い切れば、ウィルもシェリーも閉口し、顔を見合わせた。


 ──子供の頃、聖女の力に目覚める前の私にも、こんなふうに言ってくれる大人がいたらな……。


 なんて思いつつ、いいや、だからこそ私が二人にああやって言ってあげられてよかったと思い直した。


 それに私の懐事情については、正直、子供二人にいくらパンを買ってあげても問題ないくらいには暖かだった。


 何故なら……前に治癒した竜の治療費などと言い、アレックスから直接、お小遣いというには多すぎるお金を渡されていたからだ。


 私としては十分以上の衣食住を提供して貰っているので「別にいいよ、そんな!」と断ろうと試みたものの「ならば魔族を撃退した際の報酬だ」と押し切られてしまった。


 さらに「王国で活動するならこの国の貨幣は必要だし、聖女様が……そう。東洋で言うところの一文無しでは格好がつかない」とまで言われてしまった。


 あれらはお金が欲しくてやったことではないので、それでお金を貰うのは良心が咎める部分があったものの、こうしてウィルとシェリーのためになるなら良い使い方であると思う。


「パン屋さんはすぐ近くにあるから、もうちょっと我慢してね」


 そうして私はウィルとシェリーを連れ、前にアレックスに連れて行ってもらったパン屋に向かった。


 お店に入ると店主であるお爺さんはこちらを覚えていたようで、前と同じ二階のテラス席に通してくれた。


 そこから王都の街並みを眺めれば、精霊の双子は揃って「「わあ……!」」と声を上げた。


 また、パンについては一階であれこれと買おうとしたものの、店主さんが「おすすめの品を盛り合わせてお持ちいたしますよ。お連れの方も空腹な様子ですし」と言ってくれたので、その好意に甘えることにした。


 そのまま少し待てば、店員の方──多分、店主であるお爺さんの身内の方だと思う──が、大皿に山ほど盛ったパンを持って来てくれた。


「お待たせいたしました、ごゆっくりどうぞ」


 焼きたてと思しきパンからはバターの香りがして、食欲をそそられるようだった。


「良い匂い……!」


「これがこの国の食べ物……!」


 様々な形や種類のパンを前にして、ウィルもシェリーも満面の笑みだ。


 二人はパンを手にして、一口。


 すると頬を弛緩させ、幸せそうな表情となる。


 そのまま次々に口に運んでいき、パンの山はみるみるうちに二人のお腹に収まっていく。


 相当お腹が減っていたのだろう。


 連れてきてよかったなと思いつつ、私も一つ手に取って口に運ぶ。


 ……うん、塩気もちょうどよく、焼きたて特有の甘みもある。


 とてもおいしい。


「聖女様! ここのパンおいしい! 精霊郷にもこんなにおいしいパン屋さんないかも!」


「いいお店でしょ? ここはアレックス……魔道具店にもいたお兄さんのお気に入りのお店でもあってね。彼に教えてもらって、前に一緒に来たりしたんだ」


 ウィルにそう答えれば、シェリーは少し考えるような仕草をしてから、


「あの、聖女様」


 私はちょうどパンを口に運んでいた最中だったので「んっ?」と短く応じると。


「アレックス王子と聖女様って本当はお付き合いしているの?」


「……っ!?」


 危ない、思わず吹き出しそうになった。


 子供というのはどうしてこう、突拍子もないことを言い出すのだろうか。


 周囲の目もあるので誤解を解きたいけれど、まずはパンを飲み込んでからと思っていると、双子の間で会話が続く。


「何言っているんだよシェリー。王子様は聖女様を友って呼んでいただろ?」


「ウィルこそ鈍いわね。一国の王子様と聖女様が、小さな隠れ家的なお店に、二人で仲良く来ていたのよ? これはもうデートよ! それに二人の仲は二人だけの秘密で、だから表向きには友達ってことで通していたりとか……!」


 シェリーはそう言いつつ、何を想像したのか「きゃっ!」と頬に手を当てていた。


 ……この子、結構おませさんなのかもしれない。


 もしくはそういう方向でときめいてしまう年頃なのか。


 なお、兄であるウィルは妹の考察を聞いて納得してしまったのか「おお、秘密の関係ってやつね……」とか、何故か憧れの眼差しを向けてきた。


「俺、そういう秘密みたいなのが好きだ! 聖女様! 俺、応援しているから!」


「ま、待って二人とも……! 違うから、誤解を解く機会をちょうだい……!」


 話を聞いていた他のお客さんも「あらあら」とこちらに微笑みを向けてくる。


 ──いけない! これはソフィア様の時みたいに誤解されてしまう……! 何よりそんな噂が立ったらアレックスを困らせちゃう……!


 パンを無事に飲み込んだ私は、盛り上がりつつあるウィルとシェリーに誤解であると頑張って伝えた。


 結局どうにか誤解は解けたものの、それは夕暮れ時になってからだった。

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