17. エピローグ
「ラシア、何が出てくるか分からない。お前はここで待っていても良いのだよ?」
「いいえ、一緒に参りますわ、お父様。わたくしとて7大貴族の1家、アストリードの娘なのですもの」
「そうだったね。すまない。子どもというのはあっという間に大きくなってしまうものなのだな。忘れていたよ。……それじゃあ、行こうか」
コンコルドの契約は終わりを迎え、いよいよ領地が戻ってくることになった。
正確には引継ぎやら何やらで、半年ほどの猶予が与えられているのだけれど、それが過ぎれば完全に、道路の塵一つに至るまで、我が国のものとなる。
早速領地の視察という名目で管理事務所となっていた元領主の屋敷を調べたところ、掘り返した地下からは大量の人の骨が見つかった。大小さまざまの。
大方の予想の通り、ヴァルター家の一族は死に絶えていたのだ。
それだけではない。
地下のレンガ、その内の一つを抜いたところ、中から古びた1冊の日記が出て来た。
それは、かつてのヴァルター家当主が記したものだった。
ある日突然、兵士が踏み入ってきたこと。なぜか、敵兵が7大貴族しか知らないはずの秘密の通路の存在を知っていたこと。あっという間に制圧され、まだ幼い子どもを含めた街の民全ての命と家族を人質に取られたこと。
悩んだ結果、命を救う道を選んだこと。
ただし、家族は引き離され、おそらくすべて殺されてしまっているだろうと震える文字で書かれていた。
さらに、コンコルドの半島を安い対価で貸し出す締結。これはおそらく、取り返されることを見越してのものであり、これが、この国を不幸に陥らせるものだと理解している。それを分かっていても、街に響く赤子の声を見殺しにはできなかったと苦悩がつづられていた。
毎晩仕事が終われば、地下の穴を掘るよう命じられ、それが最後に自分の墓穴になるであろうことは分かっている。そして、それがそう遠くない日であろうことも。
けれど、必ずやほかの領主たちが、いずれこの国とヴァルター家の名誉を取り戻してくれることを、私は固く信じている。
日記は最後に、そう、締めくくられていた。
涙が止まらなかった。
胸が痛い。
遺骨は丁寧に掘り出され、一つ一つ棺桶に収められ、コンコルド港の街を一望できる丘にみんな一緒に葬られた。
ヴァルター家の方たちへの国を挙げてのお葬式が改めて執り行われた。
彼らの名誉は回復し、今、議事堂には再びヴァルター家の肖像画が掲げられている。
お読みくださりありがとうございました。
本編はこれにて終了です。
おまけをつけて完結としますが、投稿が少し遅くなります。
詳細は活動報告をご参照ください。




