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09. オーストラ・ルシェル_3

ゲームをやりこんでいてよかった。


走りながらそう思う。


そうでなければ文面を覚えておらず、たどり着けなかったかもしれない。


邪魔になるため、嘘をついて侍女は置いてきた。


屋敷を背に、記憶を頼りに目標に向かってひたすら突き進む。


時々、遠くからターン、ターンと響いて届くのは猟銃の発砲音なのだろう。


それに混じって馬のひづめの音が聞こえた。


つづいて木々の間から見えたのは見覚えのある姿。


漆黒の髪に炎の目、間違いなく――、


「閣下、止まってください!」


飛び出したわたくしの姿に、前足を掲げ甲高いいななきを上げ、少し手前で馬が急停止する。馬上から低く怒鳴り声が降り注いだ。


「何を考えている! 馬の前に突然飛び出すなど……いや、その前に、なぜこの場をうろついている! 撃たれたいのか!?」


「オーストラ様をご覧になりまして?!」


わたくしのひどく焦った様子に彼もおかしいと気がついたようで、トーンをおさえ、


「……いや、みていない。大体、あいつは狩猟には参加していな――」


「もっと前に通り過ぎていたということかしら? だとするなら急がないと!」


流石、賢いオーストラ様。彼は最短ルートで正解に向かっているらしい。


お礼もそこそこに再び駆けだそうとしたわたくしを、彼が呼び止める。


「待て! お前まさか、その格好でここを歩き回るつもりか!?」


「そうですが何か?! わたくし、急いでおりますの!」


舞踏会ほどではないとは言え、確かに走りまわるには適さないドレスだが、そういうことを言っている場合ではない。


早くしないと彼が崖から落ちてしまうかもしれないのだ。


「そんな羽をつけてうろうろしては、獲物と間違えて撃たれるぞ。……手を出せ、馬に乗れば少なくとも獣と間違えられることはないだろう」


返事も待たずに彼はわたくしをつかんで馬上に引き上げる。着飾った人ひとりをまるで小動物のように身軽に扱う彼の逞しさに驚かされた。


落ちないよう彼の腕が回り、わたくしを固定する。鎧をつけているわけでもないのに、背中に当たる随分と固い肉体に再び驚く。


「鞍にしっかりと掴まっていろ。オーストラを探しているのだな? あてはあるのか?」


あちらに、とわたくしが指さした方向に馬首をめぐらし、手綱をふるう。


馬上で剣をふるうからとはいえ、片手でも器用に手綱を繰るのはさすがとしか言いようがない。


2人を乗せているとは思えない身軽さで馬が駆ける。


わたくしは安堵の息を吐く。


よかった。これなら間に合いそうだ。

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