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09. オーストラ・ルシェル_2

「……さて、どうしたものかしら?」


わたくしは狩猟場の手前、見事な庭園に広げられた観覧場のパラソル席の1つで今しがた引いたばかりの紙を手に呟いた。


狩猟大会は少し前に始まりの鐘が鳴ったばかり。


わたくしも、先ほど一番いい獲物をとってくると意気揚々と出ていくミラー様をヒロインと一緒に見送ってきた。そのすぐ近くで、デッドリー様は相変わらず供をつけずに淑女の熱い視線をものともせず静かにひとりで出ていった。


そして殿方が獲物を競い合う一方で、淑女方は各自に配られるヒントをもとに会場内に隠された彩色卵を探すゲームに参加するのだ。


どちらにも大抵主催者がなにかしら景品を用意しており、特にルシェル家は毎回参加者が本気で競い合うほどの豪華な品物を用意しているのが常だった。


そして、こちらもゲーム内においても発生するイベントでもある。もちろん、わたくしも暗躍する。


お宝探しに参加するヒロインに嫌がらせをするために、クジをすり替えるのだ。


手の中にある見慣れた文面。


狩猟場を抜けて、崖の方に導かれるヒント。


面白いことに、その嫌がらせのクジを今回、わたくしが引いた。当然ながら用意したのはわたくしではない。


「……どう解釈したら良いのかしらね」


ゲームではヒロインはヒントに示されたとおりに疑いもせず突き進み、崖から足を踏み外して落ちかける。それを一人変な方向に向かったヒロインを訝しんで後を追ってきた攻略対象に助けてもらう、というストーリーだ。


念のため、アーシアさんのクジを確認させてもらったところ、彼女のは普通のヒントだった。


つまり、この不穏な一件に彼女は巻き込まれていないらしい。


間違えて、ではなくわたくしを狙ってということだとするならば、どう行動すべきだろう。


一応建前上、わたくしはこれが偽物であるのを知らないことになっている。


とはいえ、ヒロインならまだしも、悪役令嬢がピンチに陥っても誰も助けになど来るはずがない。


「みすみす罠にはまりに行く必要はないわよね。無視するに限るわ」


適当にその辺を歩き回って、時間がつぶれたら帰ってこよう。


そう考え、さてどこに行こうかと思案していたところ、


「アストリード嬢は参加しないのかな?」


ひとり出遅れているわたくしを心配してだろう。オーストラ様が急いでやってきた。


ご当主とは異なり、優しい彼は生き物を狩るというのが苦手で、大会には参加していないのだ。


探し物をしながらも、すれ違う淑女たちが隙あらば彼に声をかけるタイミングをうかがっているのが、空気から伝わってくる。


「……今から参ろうかと。ルシェル様は、お宝さがしにはご参加なさいませんの?」


「実はどうしようか迷ってるところなんだ。本音を言うと、銃の音も苦手だから時間まで屋敷はなれの温室にでも籠っていたいのだけど。男のくせに軟弱すぎるかな」


「まぁ、苦手に男も女もございませんもの。お気持ち、よく分かりますわ」


「当家が主催しているのに、後継者は腑抜けだなんて思わないの?」


「思いませんわ。信じていただけます?」


「うん、信じるよ。ありがとう」


ふわりと微笑んで、彼は答えてくれる。


周りから、ほう、とため息が漏れるのが聞こえた。


「あっ、君も参加するなら、ここで引き留めてはいけないよね。ごめんね、時間を奪ってしまって。でも、話ができてよかったよ」


「わたくしこそ、お会いできて嬉しかったです」


特に急いではいないので彼を見送ってから、もうそろそろ、とクジを手にし席を離れる。


何とはなしに紙を開いて、思わず2度見してしまった。


前庭を抜けて屋敷へ向かう文面だ。


おかしい。内容が違う。


「どういうことかしら? わたくし、見間違えたのかしら? 夢でも見ていた?」


そう思いかけ、さっき彼が来た時にテーブルの上に置いたままにして応対したことを思い出した。オーストラ様も同じように自ら引いたものをテーブルに置いていた。


「まさか、オーストラ様ったら間違えて持って行ってしまわれたのでは……!?」


もう、オーストラ様ったら天然なんだからっ☆


などとそのようなことを言っている場合ではない。大変だ。


彼は狩猟に出たことがないはずだから、地図のヒントがおかしいことに気が付かないかもしれない。


「いいえ、猟銃の音が苦手ならそれこそ猟場は避けるはずよ」


大丈夫よ。きっと。


「……でも、オーストラ様は素直なお方だわ」


もし、万が一、紙に書かれている通りに進んでしまったら――、


「連れ戻さなくては……!!」

誤字脱字のご報告、本当に助かっております。

ありがとうございます。

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