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04. ミラー・マイエン_4

調べた中で、現在子爵に脅されている最中の者が、ひとり見つかった。


その人は女性で、子どもを医者にみせるためにどうしてもお金が必要だったらしい。


だが、借りた途端、借金は転がるように法定外の利子をつけて膨れ上がり、最早利子分を返すのすら苦労するほどの額となったものを、1枚たりとてまけることなく貴族らしき人物が取りたてに来る。


それが今日。


そう連絡を受けて、やってきたのは中央都からさほど遠くない小さな町だった。


今は、約束の時間になるまで近所の家を借りて窓から見張っている段階であり、わたくしは証人としてミラー様が現行犯で捕まえるのを見届ける役だった。


本来なら警備隊を使うところだけれど、彼がどうしても大事にはしたくないというので、意向を尊重した結果、こういう形となったのだ。


目立たぬよう護衛の騎士数名というのはがいささか気がかりではあるものの、赤獅子と名にし負う一族なのだから、万が一何かあったとしても彼の腕で乗り切れるだろう。


「本当に当人がいらっしゃるのかしら。ご夫人やご令嬢というオチではございませんわよね」


「2人は数日前からエーゲン伯爵の舞踏会に招待されていて、今そっちに行ってるよ」


7大貴族の1人、かなりのやり手として有名な貴族の名前があがる。


伯爵主催の夜会ともなれば、そうとう参加する方も張り切っているはず。どれほどのお金がそこに費やされたことか。


「――……来た!」


陽が沈み、少しずつ闇がそのテリトリーを広げ始める。


約束の時間を大分と過ぎ、もう今日は来ないのではないかしらと思い始めた頃、1台の馬車がやってきた。


身元を隠すためだろう、何の印も入っていない粗末な馬車だった。


そこから降りて来たのは、フードを目深にかぶった一人の人間。


ここからでは表情はうかがい知れないが、マントの下に隠れている体形は随分と小柄に思える。


「子爵にしては少し小さくはございませんこと?」


「オレもそう思う。いったい誰なんだ? 協力者か?」


まぁ、捕まえてみればわかることか、とミラー様が続ける。


家を出て、声が聞こえる距離にまで近づく。ここからでは角度のせいで顔が分からない。


控えめなノックの音が響き、手はず通り、ミラー様が用意した金貨の袋が受け渡される。


「……たしかに」


中を確かめ、不審者が声を発した。


子爵ではない。どうきいても、女性の声だった。


やっぱり、子爵のご夫人かご令嬢ではないのかしら?


逆上した被害者に危害を加えられる危険性はあるが、余程信用のおける人間か身近な人物でなければ、大金を受け取りに行かせるわけがない。


そのまま持ち逃げされるのがオチだからだ。


「……嘘だ……」


茫然としたつぶやきに、思考が中断される。


「ミラー様?」


彼は一心に、金貨の袋を重そうに受け取っている人物を見つめている。


フードの影から、ちらりと顔が見えた。


やはり女性ではあるが、知らない顔だ。


だが、それを目にした途端、彼がいよいよ固まった。


わたくしたちの目の前で女性は馬車に乗り込み、去っていってしまう。


捕まえると息まいていたのはどこへいったのか、もはや彼はわたくしの存在も忘れたようにただそれを立ち尽くして見送っている。


声をかけるも届いていないようだった。


彼のかすれた声がかろうじて聞こえた。


「……なんで……義姉さんが……?」

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