04. ミラー・マイエン_3
「情報提供の方から伺ってまいりました」
オーストラ様からお話を伺った次の休日、もう何回目かわからない対策会議にて、仕入れた情報を彼に伝える。
子爵家では毎回夜会などに出席する度に宝石やドレスなどを買い揃えていたこと。
子爵が働いている様子は見えなかったこと。
時々、夜中に人目を忍ぶようにして出かけていくことがあったこと。
呆れるほどの生活っぷりだった。
「夜会前にはコンコルドの商人が連日出入りしていたそうですわ」
海に面した半島にある交易の盛んな街の名を挙げると、ミラー様は眉をひそめた。
「コンコルドとなると相当な高級品か……やっぱり収入をかなり超えてるな」
「証言を集めるにしても、限りがありますわよ。お上手なことに、騙す対象は大抵は彼に逆らえない下級の貴族や一般市民たちですわ。身分と言う時点で余程の証拠がない限り、法庁も子爵の言葉を無碍にはできないでしょう」
最近は近国に家を購入したとの噂もある。下手をすれば国外に高飛びする可能性すらあり、そうなるともう手が出せない。
わたくしの言葉に彼が考え込む。
「それにしても意外だったな」
「マ……ミラー様、どうかなさって?」
「手伝ってくれるとは言ったけど、正直、毎回キミが、こんなに真剣にいろいろと考えてくれるなんて思ってもいなかった。てっきり、ドレスと宝石と先生以外はワタクシ興味ございませんの~って感じだと」
一部声色を変えたのはわたくしの真似をしたつもりなのだろう。
その感想はあながち間違ってはいない。
少なくとも社交界での、まっとうな貴族の間でのわたくしの評価は決してかんばしいものではない。
全ては、侯爵令嬢という立場が故に黙認されているというだけのこと。
「あっ、それが悪いとは思ってないよ! それはそれでオレの中ではありだし。そういう物に囲まれてキラキラしてる女の子を見て、オレもいい気分にさせてもらうわけだし。女の子ってだけでもう正義でしょ!」
黙ってしまったわたくしを見て、彼は慌てている。
「つまり、助かってるってこと! キミのこともっと知りたい、もっと仲良くなりたいって思ったよ!」
そういうことはヒロインにだけ言えばいいものを。
悪役令嬢にまでリップサービスを行うとは彼の博愛主義はとことん範囲が広いらしい。
それでも、近頃は、まずわたくしを褒めそやして開始数分を無駄にするというお決まりの手順を踏まなくなった。
最初は言葉のレパートリーが尽きたのかもと考えていたけれど、並行してお義姉様のことも口にしなくなってきたところをみるに、単にこの件に真剣に身を入れるようになったということなのだろう
おそらく、妬みによる噂などではなく、決して見過ごせないような悪事に子爵が本当に加担していることが分かったからだと思う。だから今は、叔父を庇う彼女のことをあえて考えないようにしているのかもしれない。
もしくは、さっさと解決することが彼女にとっても結局は一番良いのだと判断した可能性もある。
机の上の資料に目をやる。
横領、詐欺に脅迫、想像していた以上に子爵の罪は重い。
表からは分からないよう幾重にも偽装して丁寧に隠されており、確信した疑いをもって当たらなければ、見破ることはできなかっただろう。
実際、ミラー様の指示で動いている人たちからは口さがない噂でしかなかったと思われると当初報告が上がった。わたくしですら、途中、自信がなくなったほどに。
それを深く調べ直すよう命じたのはミラー様だった。
夜会の時、わたくしからの指摘で動揺したあの顔は、決して事実無根とは言い難かった、と。
その結果がこれだった。
覆っていたヴェールを取り払ってしまいさえすればあとは簡単で、調べるほどにボロボロと出てくる。
それでも、今上がっている物を全て集めても子爵家から出ていく金額を下回るのだから、まだ相当の余罪があるとみて間違いない。
同時に、これ程であっても身分が一つの正義であるこの社会において、下位の被害者の証言のみというのは子爵自身の決定的な証拠としてやはり決め手に欠ける。
だとするなら、答えは一つだ。
ミラー様も同じ考えだったらしい。
わたくしの視線に気が付き真顔に戻り、言った。
「現場を押さえるしかないってことか」
04_1と2のタイトルを間違えていたので修正しました。




