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01. プロローグ_1
甘やかな香りの、肩のあたりから柔らかく広がった髪の少女を腕に閉じ込め、わたくしは眠っていた。
少女もまた伸ばした腕をわたくしに巻き付け、縋るようにして寝入っている。
ん……、と鼻にかかったような声を上げ、少女が目をさます。長いまつげの奥からこちらを見つめるのはストロベリーピンクの瞳。淡い青色の髪と相まって、すべてが砂糖菓子のように甘い。
「……おはようございます、ユーラシア様」
頬を染め、きゃっ、と小さく叫んで恥ずかしそうにわたくしの夜着に顔をうずめる。
「……アーシ……アさん……?」
やってしまったわ……。
ユーラシア・アストリード、16歳。
よりにもよって、この世界が前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと気が付いたその日、物語が始まるその晩の夜会で、攻略対象たちと出会う直前の主人公を悪役令嬢のわたくしがお持ち帰りしてしまった。
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