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それはきっと幻で
何もない。
死んだあとには何もない。
空は黒かったが、闇に閉ざされているわけではなかった。
塩のように白い地平がどこまでも広がっている。
一人ぼっちだ。
ジャンはたまらなく悲しくなった。
自分を憐れんだのではない。
仲間を、団長を、ナディアを思った。
みんなも同じような場所に一人で放り出されたのだと思うと、途方もなく悲しくなった。
もし、神がいるなら、お願いだ。
おれを地獄に落としてくれ。
そのかわり、みんなを天国へ導いてくれ。
ただ、おれは地獄に落ちるのにふさわしい人間になる。
あいつらを皆殺しにしてやる。
あいつら全員を。
…………。
全てが揺らいだ。血肉が、感覚が戻ってきた。
小唄がきこえた。
きいたことのない調べ。まるで遠い異国の唄だ。
息遣いの優しい、安らぎの唄。
「大丈夫」
声がきこえた。
「ここは安全よ。だから――」
まぶたを開く。黒い瞳の少女が優しげに微笑んでいた
「ナ、ディア……」
かすれた声でささやいた。
「眠りなさい」
口元にコップが寄せられる。ジャンは逆らうことなく、それを飲んだ。