銃、銃、銃
パチパチと豆を炒るような銃声が入り組んだ樹海からリーフプレイスじゅうに響いている。
住人のうち、八十歳を超えるもののなかには南北戦争に従軍し、1864年の樹海の戦いに参加した古参兵がいた。
北軍と南軍は視界の利かない森のなかで撃ちまくり、熱い弾丸が枯れ木にぶつかるとメラメラ燃え出した。
逃げられるものは逃げたが、悲惨なのは戦場に転がった怪我人たちで、彼らは逃げることかなわず、助けを求め、生きたまま焼かれた。
八十を超えた老人たちはそのことを思い出した。痴呆で息子の名前も忘れた老人ですら、まるで焼け死ぬ戦友の絶叫がきこえるように耳を塞いだ。
いまや樹海のなかでは人を撃ち殺すくらいでは驚かれず、まだ死んでいない人間の頭皮を剥ぐとか、尻にダイナマイトを突っ込んで火をつけるくらいのことをしなければ、ひとかどの戦士として認められない雰囲気があった。
グッド・キラーズではそうした行為はあくまで有料オプションであり、基本プランには入っていない。
だから、ジャンまたはエミリィにでくわしたものは基本プラン以上の死に方は期待できない。ただ、撃たれるか斬り捨てられるだけ。
と、言っても、グッド・キラーズのオプションはそこまで高いわけでもない。
切り離した首を、生皮剥いで銀の皿にのせて、パセリで飾るのは二十ドルだ。
グラムリー一家は傭兵を狙い、傭兵はグラムリーを狙い、ジャンはその両方から狙われる。
生き残りのカギは弾をケチらないこと、そして、どんな銃にでくわしても文句を言わないことだ。
まず、ジャングル戦闘用に製造工程をいくつか省いたトンプソン機関銃の弾を撃ち尽くすと、だぶだぶのオーバーオールに体を突っ込んだ顔なし死体からクラグ・ヨルゲルセンのカービンを取り上げた。オーバーオールのポケットからバラバラの三〇・〇六弾をひと握りかっぱらうのを忘れない。
この銃は他のライフルみたいに五発ずつの挿弾子で一度に弾が込められず、銃の横に開いた蓋からチマチマ一発ずつ込めないといけない。威力に文句はないが、走りながらの装填は極めて難しい。相手の傭兵は明らかにクラグ・ヨルゲルセンの弱点を知っていて、弾を込めるためにジャンが立ち止まるのを待っていた。
が、ジャンはクラグ・ヨルゲルセンの弱点を知ったつもりの連中が立ち止まるのを待つことをエリスからちゃんと教えられている。『全人類対抗クラグ・ヨルゲルセン銃再装填大会』で全人類のうち0.0000001%の先頭グループに所属するジャンは弾をいくつもくわえて、一発発射しては一発込めてを走ったり、飛んだり、宙を舞ったりしながら射撃を休みなく続けたので、再装填の隙を待って、馬鹿面をさらす傭兵たちの命を次々刈り取った。
そのうち、弾が切れて、クラグ・ヨルゲルセンにバイバイすると、みんな大好きC96、別名ブルームハンドル、もっと分かりやすくモーゼル自動拳銃の名で通用する銃を斃した傭兵からホルスターごと奪い取った。
この大きすぎる自動拳銃はこれまた大きすぎる木製ホルスターとつなぐことでライフルのように構えることができる。本職には負けるが、こんな森のなかで、敵味方の彼岸が十メートルもない銃撃戦なら十分すぎるほどの集弾性と命中精度を誇るし、取り回しがきく。長すぎる銃身が茂みにひっかかって、おたおたしているあいだにくたばるドジはなしだ。さらにクラグ・ヨルゲルセンと違って、一発撃つごとに弾を込めて、ボルトを操作しなくてもいい。こちらはただ引き金を引くだけでいくらでも弾を発射できる。
一発だけ発射するつもりで、エヴァン・グラムリーの頭を狙って、引き金に触れたら、凄まじい発射速度で弾倉が空になり、ニ十発一斉発射の反動を受けかねたジャンはのけぞって倒れて、頭を思い切りブナの老木にぶつけた。痛さで悶絶しながら、彼はわめいた。
「ボロ・モデルだ、畜生!」
エリスから話にはきいていた。
ボロはボルシェヴィキのボロ。ロシアの革命家がこの銃を違法改造して、アホみたいな速度で発射できるモデルをつくり、それがアメリカ国内のコアな銃愛好家のあいだでボロ・モデルとして流通していると。
正直、実在していたとは思わなかった。そんなもの存在しても使えない、とエリスが言ったからだ。
そして、その通りでつかえなかった。
たとえ、大人が膝撃ちの正しい姿勢で撃ったとしても制御しきれない。分速二千発は訓練や創意工夫でなんとかなる域を超えている。
とはいっても、真っ二つに裂けたエヴァン・グラムリーを見ると、ボロ・モデルにも存在意義があるのかもしれないと思ってしまう。
だが、ショットガンも一緒に真っ二つになるのは困ったことだった。
近くに銃がない。
少なくとも、撃たれる危険を冒さずに取りに行ける銃がない。
「生き残るカギは――」
ジャンはポケットからPlaying Cardの箱を取り出した。
「原点回帰だ」