一族の結束
グラムリー家の屋敷のありさまを想像するには、ウィルハルトの台所を支配する混沌が建物全体に及んだ状態を考えるだけでよかった。ペンキの剥げた柱廊、手すりの壊れたベランダ、色あせた南部連合旗が窓を覆い、だらしない恰好をした男たちがショットガンやウィンチェスターのライフルを手にテラスをぶらつく。
「くそくらえだ!」
屋敷の二階。沼に開いたベランダから老人の怒鳴り声がきこえる。
「ニューヨークにいるお前の親玉の腐れイタ公にそう言っておけ。くそ、くら、え! ってな」
ホレイショ・グラムリーは噛み煙草のカスを床に吐き捨てた。白髪も顎鬚もぐしゃぐしゃになっていて、文字通り怒髪天を突かんとしている。
白いスーツのめかしこんだ客はどうしようもないと言った調子で首をふった。
「お互いにいい話だと思うんですがね。町の密造酒ビジネスを譲っていただければ、十万ドル。キャッシュで支払うというのに」
「いいか、イタ公。そこの沼にはワニがいる。最近、変わったもんが食いたいらしいからイタリアン・ソーセージをごちそうしてやってもいいんだぞ」
「では、ソーセージの材料になる前に退散するとしましょう。ですが、覚えておいてください。ドン・バルローネは自分の提案に対して、くそくらえとこたえたことをよくは思わないですからね」
「失せやがれ!」
ニューヨークからやってきた男がいなくなると、ホレイショは早速、息子たちに指示を飛ばした。
「ピート。使えるやつを集めて、市外からの森沿いの道を見張れ。やつらの酒を積んだトラックを見つけたら、かまうこたねえ、運転手ごと蜂の巣にしてやれ。エヴァンはマイケルを連れて、森のなかの酒場をまわって、バルローネから酒を買った店は焼いてやると知らせにいけ。キャロルはここだ。屋敷の守りを固めろ。イタ公どもがきても返り討ちできるようにしておけ。フランシスはどこにいる?」
ちょうどタイミングの悪いときにフランシスがやってきた。ジャンから取り上げた一万ドル札の束を抱えて。
「父ちゃん、見てくれよ。一万ドル札だよ。全部で五十万ドルあるんだ」
ホレイショは札を一枚ひったくると、顔をゆがめて、杖でフランシスの顔をぶん殴った。
「こいつは手品用の偽物だ。サーモン・チェイスがあかんべえしてんだろが! この馬鹿が! こっちがニューヨークのイタ公相手に戦争おっぱじめようとしてるのに、てめえは手品で遊んでたのかよ!」
ホレイショに杖でめちゃくちゃに殴られながら、フランシスは訳も分からないまま泣きじゃくり謝った。他の兄弟たちはこの知恵の遅れ気味なフランシスが殴られるのをにやにや見ている。
「今すぐ戦争だ! イタ公を血祭りに上げろ! 行け!」
息子たちが樹海の縄張りへと散っていくなか、フランシスだけはしくしく泣きながら、ガレージに行った。そして、家族からマヌケ扱いされるフランシスの唯一の特技である車いじりで自分を慰めた。