まずは見方を騙す!! #7
城を飛び出したレイは羽を休めることなく、王国アラガンタの上空を羽ばたき続ける。
俺はレイに抱えられながら、突き刺された剣から手を離す事なくただこう聞くしか出来なかった。
「レイ…お前は敵なのか?」
「いいえ。しばらくそのままでお願い致します。」
「そうか。ごめん…」
レイは何も答えず飛び続けた。
しばらくするとレイは山奥へと降りた。羽を降ろしたレイは俺を抱えたまま倒れ込んでしまい。俺はすぐさまレイに呼びかけた。
「レイ! 大丈夫か? 悪い俺が剣なんか刺さなきゃ…」
「大丈夫です。私は魔獣ですよ。流石にこの距離を飛んだので疲れてしまっただけです。」
そう言うとレイはすっと立ち上がり、腹に刺さった剣を抜き取った。
「え…」
抜き取った衝撃で腹から血がドバドバ溢れ出したが、レイは気にする様子もなく剣を地面に突き刺した。
「え…。レイそんな無理をしたら…」
「この程度なんともありません。」
「え…え…なんともって…それは、どうかと…」
(魔獣とはとういうものなのか? 剣程度では意味がないのか?)
「でも、かなり血が出てるし…なんともって事は…」
「魔王様が魔力を込めての一撃ならたしかにダメージになっていましたが、私達ハーピーにはただの攻撃など、大した意味は持ちません。」
「……」
俺は少なくともレイを刺した事を空中の間、物凄く後悔をしていたというのに…
「それにしても魔王様。あまり状況は良くありません。」
「そうだ、ハイトあいつは何で俺たちを裏切ったんだ?」
「なんの事です?」
「は?」
レイは目を丸くして俺に問いかけて来た。
「だから、俺の姿に変身して魔王に成り代わったじゃないか!」
俺が少し怒気混じりで返すとレイは更に丸まった目を数回パチパチとさせ
「魔王様…ハイトから今後の事をお聞きになったのでは?」
「は? 何にも聞いてないよ!」
俺が返すとレイは深くため息をつき。
「ハイトめ…全く仕事の出来ない…」
「仕事…? なんのこと? あれが裏切りじゃないなら何で俺たちは逃げたんだよ?」
レイは俺をスッと見つめる。腹の傷は既にふさがりかけていた。
「魔王様よくお聞きなって下さい! 私とハイトは魔王様をお守りするために今回このような手段にでました!」
「え?」
「何故なら魔王様。あのままお城に残られて居た場合、魔王様は殺されていた可能性が高かったです!」
「へ…殺されていたって…どういう」
「それは、魔王の力が発動していないからです!」
「魔王の力…」
レイは順序をおって話をしてくれた。
通常魔王の子として生を受けた者は魔力がない状態で生まれるらしい。
それは、大昔からの事で。代々新たな魔王として継承された後、魔王の力が継がれるというものらしい。
つまり俺に魔力が無かったのは、そういう事なんだろう。
通常新魔王として継承された場合は力を父から譲り受け、継承後2週間以内に力が発動するらしいが、俺にはその兆候が全く見られなかった。
「つまり俺は失敗作ってことなのか…」
「いいえ。それはありえません。ありえるとするなら。前魔王様が力を継承をされなかったという事でしょう。」
「なんで? 父さんは俺に力をくれなかったんだ?」
「それはわかりません…」
「そっか。でも、なんで今回俺たちは逃げるはめになったんだ?」
「今回、方方に放たれた六魔神が同時期に2獣も討たれたからです。」
レイは真剣な口調で俺に伝えるが、いまいちその重大性にピント来ない。
「いいですか。元々魔王様の世襲制について知っているのは、魔王国内アラガンタでも極わずかの魔物・魔獣のみです。それらの物のは殆どが魔王様の下僕として活躍していた魔獣達ですが、中には裏切った者たちもいると伺います。」
「…うん、そ、それで?」
「通常六魔神に何かあれば魔王身に何らかの知らせが入り、力を支援する事が魔王様には出来るのです。それが無かった。つまり、魔王に現在それをなす力が無い。あるいは弱まっている。それが知れ渡ってしまいました。」
「それってマズイ…よな?」
俺は恐る恐るレイに聞き返した。
レイはなんとも言いづらそうに返す。
「…かなり問題かと。さっきも申しましたが、アラガンタの中には魔王様の力を欲する物もおります。そして、各国の勇者団の中にもこの世襲制に関して存じている物もいる可能性が…」
「そんな…」
「何より六魔神は元々国を従えていた猛者達。先代魔王様達が戦で平伏せた物達です。この事が知れ渡れば必ず。魔王様を…」
「でも、弱くなった魔王なんて方っておけば問題ないじゃん?」
俺は暗くなるレイにあっけらかんとして聞いたが…
「魔王の力…それは魔王の血。つまり魔王様の命を奪い、食す事で手に入ります…」
「く…食われるってこと?」
レイはゆっくり頷いた。
「故に私とハイトは魔王様を逃がす為、魔王の力健在だと少なくとも、城内だけにでも知らせるべく、芝居を打ったのです。」
「そういう事だったのか…」
「敵を騙す前にまずは見方からです。」
「俺は…結局これからどうなるの?」
俺がこの先の見えない恐怖で頭を抱えるとレイはスッと通った声で
「魔王の血が流れているからには、魔王様は魔王の力を引き出せます! 目覚めさせるのです! 魔王の力を!」
「え! 本当か! じゃあ…」
俺が喜び安堵しようとした瞬間、レイはそれを遮った
「そのために魔王様。 コレから冒険に出て力をつけましょう私がお守りします。」
魔王の俺が冒険の旅に出るのか…
つづく
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章:まずは見方を騙す
終了しました。
次回は
章:魔王の俺が冒険の旅へ
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