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聴こえる。  作者: AS
2/10

第2話

 子供の頃から勉強で苦労したことは無かった。どの教科も授業を一回聞けばテストで100点が取れた。中でも算数は誰にも負けないぐらいに得意だった。四則演算は1年生のときにマスターしてしまったし、6年生になる頃には既に中2で習う連立方程式を解いていた。無論、平等生を重んじる日本の小学校でそんなことは教えてくれなかったので、俺は自分で調べて勉強していた、当時は既にネット社会になっていたので、調べれば数学の解説サイトなど、小学生でも簡単に検索することができた。

 その後、地元である関西の有名な私立中学に進学した俺は、ひたすら勉強に打ち込んでいた。そんな俺が芸人を志したのは、俺が中3のときに放送された、M-1グランプリの決勝だった。その年の大会は、当時はほぼ無名で、特に期待されていなかったブラックマヨネーズが優勝するという、誰も予想しなかった結果に終わった。

 中学3年生の俺は、そのときのブラックマヨネーズの漫才を見て、初めて”腹筋が崩壊する”という経験をした。笑いすぎて平衡感覚を失ったのは、あれが初めてだった。2人の無名の男が、たった4分間、マイク1本を挟んで会話をするだけで、その日日本中を笑いの渦に巻き込んだのだ。

 その瞬間、俺は漫才師になることを決意した。俺もこんなふうに人を笑わせてみたい。そして俺ならそれができると、根拠こそ無いが確信していた。

 もちろん、俺を官僚か弁護士にしたかったらしい両親は猛反対したが、養成所に入るための入学金を飲食店と塾講師のアルバイトで稼ぎ切った俺の熱意を見て観念してくれた。俺はそのとき通っていた地元の国立大学を中退し、お笑いの養成所に通い始めた。西口とはそこで出会ったのだった。



「なあ。『ラブライブ!』って知ってる?」

「え? ああ、聞いたことはあるかな。アニメやろ? 見たことはないけど。何で?」

 今日はクロネッカーのネタ会議の日だった。月に2回、俺の近所の喫茶店で、俺の書いた台本を西口と共有する会議を行っている。会議と言っても、西口が俺のネタに目を通し、いくつか言い回しを自分が言いやすいものに変えるだけで、構成が変わることなどほぼ無いのだが。

「いや、この前谷本さんに飯奢ってもらった日。家帰ってテレビつけたらやっててさ。普段アニメとかほとんど見んねんけど、何かあれだけはじっくり見てもてんな。ほんでこの前第2話やってんけど、やっぱり何かじっと見てもて。これといってめちゃくちゃおもろいわけではないねんけど」

「へえ」

 西口は全く興味が無さそうに答えた。

「アニメのことやったら、小宮山の方が詳しいやろ」

「そうか。確かにそうやな」

 小宮山とは、俺たちと同期の芸人だった。アニメやゲームが大好きな、いわゆる”オタク”で、定期的に同じオタク芸人仲間とアニメについて語るトークライブを開いたりしていた。俺は、今度劇場で小宮山に会ったら、「ラブライブ!」について話してみようと思った。あいつとアニメの話などしたことが無かったから、少し楽しみでもあった。

 結局その日西口と話したことと言えばそれぐらいで、西口は自分の飲み食いした分の代金をテーブルに置くと、スマホに取り込んだ俺の台本を読みながら喫茶店を出て行った。物覚えの悪い西口は、何度も台本を読み返さないと全くネタを覚えられないのだった。

 俺も残っていたコーヒーを飲み干すと、レジで代金を払い、店を出て行った。帰路に着く俺の足取りは、心なしか軽かった。その理由を、俺は自覚していた。

 今日は、「ラブライブ!」第3話の放送日だった。


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