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溜息

         挿絵(By みてみん)

           「この前はクリームソーダだったか。」




唇を重ねる月菜と忍。

それ以上を求めるように、忍に触れようとする月菜を諭す。

「月菜の気持ちは分かった・・まさか娘に恋心を持たれるとは思わなかった。」

潤んだ瞳を忍に向ける月菜。

「でも、こういう事はもう止めなさい。」

月菜が首を振る。

「いやっ、だって忍が取られちゃう。」

「・・・・・・」

忍は溜息をつく。

「月菜、これから先の人生の方が長い、これから色々な人に出会うだろうし、恋に落ちるかもしれない。」

「そんなことないもん!」

月菜が強く抱き着いてくる。

「月菜、パパもすぐに結婚するわけじゃないし、高橋先生とお付き合いはしているけど、それだって先の事は分からない。」

「それに初めて話すけど、この間ここで会った下田陽詩さん、彼女と学生時代お付き合いしていたんだよ、でも別れてしまった。今彼女は結婚もしてお子さんもいる。」

「いいかい、月菜、この世の中に絶対なんてないんだ。」

月菜が黙って忍の言葉を聞いている。

「月菜、これは約束する、これからは君の事を一人の女性として見るように努力する。」

「そして時間が過ぎていく中で、月菜と僕が結ばれることもあるかもしれないし、全然違う人と結ばれるかもしれない。」

「月菜・・・体の関係だけで人は繋ぎ止められない・・わかってくれるね。」

ジッと見つめていた月菜が、コクンと頷いた。

「よし、いい子だ。」

忍は月菜の頭をポンポンと撫でた。

「また・・子ども扱い」

ベッドの掛布団の中に潜り不貞腐れる。

「あ・・・ごめん、」



「じゃあねパパ、夕方おばあちゃんが来るって言ってたから。」

手を振りながら笑顔で病室を出ていく月菜を見送りベッドに腰を掛けた。

「娘さんと喧嘩でもしたのかと思いましたよ。」

隣のベッドにいる中年男性が声を掛けて来た。

「えぇ、まぁ」

頭を掻きながら頷く忍。

「ちょっと怒ったような声が聞こえたものですから・・」

忍は赤くなる。

「いやぁ、女の子は思春期になると難しいですね。」

「そうですね、家はもう大学生になりましたからアレですけど高校生の時は口も利いてくれませんでしたよ。」

「はぁ・・」

「まだ、喧嘩が出来るんじゃ良いですね。」

中年男性はニコリと笑う。

「そんなもんでしょうか・・」

「そんなもんですよ。」

二人は目を合わせてクスッと笑った。



母がコーヒーフロートのアイスと格闘している。

「この前はクリームソーダだったか。」

母の姿を見て溜息をつく。

「母さん、昼前に月菜が来たよ。」

「そうね、学校から帰ったらあなたの所に行くって、貴方の着替えを持って出かけたもの。」

アイスに集中しながら答える母。

「母さん、ちょっと聞いて欲しいんだ。」

「聞いて欲しい?」

母はコーヒーフロートと戦うのを止めて、忍に視線を向ける。

忍は母に今日あった事と、自分の気持ちを話た。

母は目を丸くしながら、コーヒーフロートを飲みながら聞いていた。

「月菜ちゃん、そんな大胆な事をしたの。」

「あぁ、最初は驚いたよ。」

「貴方まさか・・」

「そんな、母さんが考えているような事はしてないよ。」

忍は一糸まとわぬ姿の月菜を思い出してた。

「それで、貴方はどうしたいの?」

忍は天井を見るように顔を上に向け息を大きく吸い込む。

「月菜と約束したよ、一人の女性として見る努力をするって。」

「ふ~ん。」

母はニヤリと笑う。

「なに母さん、その笑いは。」

「忍、退院したらまた月菜ちゃんと同じ屋根の下に暮らすことになるけど、大丈夫?」

「ああ・・それ・・どうしたもんかな。」

母はストローでコーヒーフロートをひと混ぜする。

「貴方、月菜ちゃんの勢いに流されちゃうんじゃない。」

「月菜にはそう言う事はするなと諭したけどね。」

溜息をつく忍。

「3人ともお嫁さんに出来たらよかったのにね。」

また、母が能天気な事言いだした。

忍は頭を抱える。

「私はあの3人なら誰がお嫁さんになってもいいわよ、早く孫の顔が見たいわ。」

「かぁさん!」

「いいじゃない、楽しみなんだから。」

母が頬っぺたを膨らます。

「はぁ・・まぁそんな状態だから、一応。」

忍はこの話はここまでとばかりに締めくくった。


忍は自分の頼んだコーヒーに手を伸ばす。

カップを持ち上げ一口すする。

「あら、目、だいぶ慣れて来たみたいね。」

「あぁ・・そうだね、リハビリの効果かな。」

忍は自分の口にした言葉で思い出した、母に聞こうと思っていた。

「母さん、兄さんが高校の時に石塚薫さんて名前、聞いたことある?」

「いしづか・・かおるさん、・・・」

母は指を顎に当て、何かを思い出そうとしてる。

「あっ!そうそう、薫ちゃん、啓二の初めての彼女!」

「知ってるの。」

「知ってるも何も、家にも遊びに来たことがあるわよ。」

石塚先生は啓二の事を「初恋の人」とは言っていたが、兄の彼女だったとは。

「そう、彼女が家族の仕事の関係でアメリカに行ってしまってね、啓二も何回か手紙を送ったみたいなんだけど、その内音信不通になって、啓二も諦めたみたいね、あの子落ち込みようは見てられなかったわ。」

「そうなんだ。」

母は遠くを見るような目をする。

「あれは・・いつだったかしら、デートに出た二人が遅くなっても家に帰ってこなくって、心配した彼女のご両親から電話があった事があってね、帰って来た二人は遅くなった理由を一切話さなかったの、先方のご両親に啓二は嫌われちゃつたみたいでね。」

そこで話を切った母が何を言いたいのか、何となく想像がついた。

「でも、なんで薫ちゃんの事、知ってるの。」

のぞき込むように忍を見る。

「ここの病院のリハビリの先生、僕の苗字を見てもしかしてと思って声を掛けたらしい。」

「あら・・貴方は人を引き寄せる何かをもってるのかもね。」

「そんなこと・・」

「まぁいいわ帰りにちょこっとリハビリ室覗いていくわ。」

「邪魔するなよ。」

「邪魔なんかしないわよ、ちょっと挨拶するだけ。」

「どうだか・・・」

母の性格を考えると絶対に何かやらかすはずだ。

「さて、夕飯の準備もあるから帰るね、それと退院の日までに何回か来るつもりだけど、迎えの時間とか決まったら連絡してね。」

母の後ろ姿を見送った忍は大きく溜息をついた。

・・・・今日はため息ばかりだな・・ハァ~




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