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ヒヤリング

宜しくお願い致します。

         挿絵(By みてみん)

         ※「落ち着け私・・・わたし・・落ち着け。」





「先生?たかはし・・せんせい・・・」

誰かが呼んでいる、誰が呼んでいるのかしら・・・そんな事を考える。

「高橋先生。」

名前を呼ばれて、ハッとして我に返った。

眼鏡の奥から心配そうな顔をしてみつめている男の人、「神居さん」のお父様がじっと自分を見ている。。

「すいません。ちよっと考え事をしていたもので・・」

語尾の最後の方に行くにつれ小さくなる。

「大丈夫ですか?どこか具合でも・・」

「いえ・・あの大丈夫ですから。」

赤い顔を更に赤くしながら手をバタバタと自分の前で振る。

パーテーションで囲われた、職員室の一角で、高橋先生と神居忍かみいしのぶは向き合うようにソファーに座って話をしていた。

目の前にあるお茶を手に取り一口飲む。

「落ち着け私・・・わたし・・落ち着け。」

お茶が喉を通る感触を味わいながら自分に言い聞かせていた。


その日、朝から神居月菜さんのお父さんが、入校手続きの書類を持って学校に来る予定になっていた。

約束の時間迄余裕があり、一旦職員室を後にする。

用事を済ませ職員室へ戻ると、同僚から神居さんのお父様が来校されたので、応接へ通しておいたと言われた。

慌てて必要な書類を用意し、パーテーションで区切られた応接室へと向かう。

「失礼します。」

応接室に入ると、人が立ち上がった気配がした。

窓を背にして立ち上がった男性の顔は、後ろから差し込む陽光の所為で良く見えなかった。

「初めまして、神居月菜かみいつくなの父、神居忍です。この度はお手間をお掛けいたします。」

「月菜さんの担任の高橋楓たかはしかえでです。よろしくお願いします。」

お互いで頭を下げる。

「どうぞ、お座りください。」

「はい。失礼します。」

高橋先生は相手の胸元あたりを見ながら着席を勧めた。

書類を自分の前に置き、クリップボードを手にしながら顔を上げた。

「やだっ・・」

思わず左手を口に当て、声が漏れないようにした。

話には聞いていたが、若い・・・し・・カッコイイ・・

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

高橋先生はフリーズしてしまった。

「やだっ・・どストライク・・」

煩悩の楓が、赤面しながら両手で頬を押さえ、体をクネクネさせている。

「やだ・・どうしよう、だめだめ、今は仕事よ。しっかりして楓。」

現実の楓が折り合いをつけようとするが、煩悩の楓が物欲しそうにしている。

高橋先生はクリップボードを見るふりをしながら、神居忍を盗み見る。

太ももの上に揃えられている長くて、節々が太い指が目に入る。爪がきれいに揃えられていて好印象を受ける。視線が合うと恥ずかしそうに二重の切れ長の目を逸らす。薄いが柔らそうな唇、そのすぐ左下に黒子があり、その黒子とシャープな頬が相まって非常に色気のある表情を作り出している。

そしてオールバックにした髪から解れた髪が額にかかり、その髪を右手でかきあげる仕草に楓の心がキュンとなり折れそうになる。

「排卵しそう・・」

言っておくが、嫁入り前の娘が口にしていい言葉ではない。

楓の煩悩が体を捩らせながら、両手で自分の体を抱きしめていた。

「あの、先生・・・高橋先生?・・」

忍が心配したような表情をして、楓を見つめていた。

「あっ・・その、娘さんの月菜さんですが。」

何とか我に返った楓はヒヤリングに挑む。

「え?・・娘ですか?」

「えぇ、その娘さんは、お幾つの時に・・作られた・・」

思わず楓は無意識に変な質問を口走る。

「しまった~!楓!あんた何質問してるのよ!いつ作ったなんて何聞いてんのわたしー!」

現実の楓が、煩悩の楓に指を立てて怒りだす。ファ〇ク〇〇の形だ・・

「え・・いくつ・・はぁ・・その16か17歳だったと・・」

忍は狼狽しながら訝し気な顔する。

「何・・なんでそんな事聞いて来るんだ?必要なのか・・・仕込んだ歳・・マジですか・・学校怖いんですけど・・。」

忍は頭の中が真っ白になり、思考が停止しそうになるが、気を取り成し高橋先生に向き合う。

「いやーん!何聞いてんのあたし!しかも答えてくれたし!!!16?17歳って、早すぎない!?・・早熟なのね・・・もしかして奥さんの青田刈り?いやいやそんな事じゃなくって・・まさかの・個・人・レ・ッ・ス・ン・・・いやぁぁん♡」

煩悩の楓が16歳に反応して体をクネクネさせている・・・もう救えないかもしれない。

「ごっ・・ごめんなさい。カ・・神居さん。その聞きたいのは、その奥様がお幾つの時に・・」

いやー!あたし何聞いてるのー!顔を真っ赤にして、現実もクネクネし始める。

「えぇ・・あのぉ・・23・・才だったと・・」

「えー!7歳も下・・青い体験?よね。よね。」

もう、煩悩の楓か、本体の楓なのか区別がつかなくなっているようだ・・

「奥様が他界されて、月菜さんとお二人で暮らしているとの事ですが、その、あの・・えっと、・・再婚の予定とか・・こ・・恋人がいらっしゃるとか、とか。その。」

「え?あの・・それも答えなければ・・その。」

「え!えぇ。・・っそれは、今後の月菜さんの、家庭環境に変化を伴うといいますか、・・なので・・もし、そのご予定とか・・情報収集といいますか・・傾向と対策といいますか・・」

「情報収集?傾向と対策?ですか・・」

「え!いや情報収ではなく傾向とかではなく、・・・その事前に知っていれば学校としても対応もその・・ケアーといいますか・対策といいますか・・・ハハ。」

・・・・高橋楓たかはしかえで、27歳独身の暴走は止まらない・・・いや、止まれない。


窓の外からチィチィとメジロの鳴き声が聞こえて来る。


他の教員が持ってきてくれたお茶を手に取り、ズズッーと一口飲む。

「ふ~・・・」

忍と高橋先生がそろって一息つく。

「・・・・・・・」

忍と高橋先生はそろって頭の中で呟いた。


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