ちゃんと考えてね。
宜しくお願い致します。
また忍の母が、引っ掻きまわしそうです。
「もう、ごまかせないかもね。」
松葉杖をつきながら自分の病室に戻ると、母が周りの患者さんと楽しそうに話していた。
「母さん、来てたの。」
忍はゆっくりと母に近づいた。
母はゆったりとした水色のワンピースを着て、忍に近づいてきた。
「忍、ちょっといいかしら。」
そう言うと病室を後にする母に、忍も訝しみながら付いていく
病院の最上階にある食堂。
母の前にはクリームソーダ、忍の前にはホットコーヒーが置かれている。
クリームソーダのアイスと格闘している母を見る。
「母さん、用件は何。」
病室では無く、態々食堂まで来た意味があるはずだ。
母はアイスとの格闘を止め、忍を見る。
「忍、貴方と月菜ちゃんはどうなったの。」
真剣な顔で聞いてくる母に、忍は背筋を伸ばす。
「どう、といわれても月菜は娘なんだよね・・・正直、月菜にキスをされても赤ん坊とキスをしている感覚しかないんだ。」
忍は頭を振りながら続ける。
「母さんの言う通りに、月菜を拒絶しないようにはしているが、正直その・・・いろんな行為がエスカレートして困っているのが本当の所だよ。」
母はジッと忍を見る。
「そう、月菜ちゃんを一人の女性として見ることは出来ないのね。」
「無理があるよ、母さん。」
「そう、良い子だと思うんだど、気心も知れているしお嫁さんにはピッタリじゃない。」
「母さん!」
母の能天気な所が出てきた。
ストローに口を付けクリームソーダを飲む母。
人の話をまともに聞いているのかわからない、もしかしたらからかわれているのか?
ふ~と息をついた母が真顔になり、忍に顔を寄せる。
「あのね、この間、陽詩ちゃんから電話があったの。」
陽詩からの電話と聞き、顔をしかめる忍。
「陽詩ちゃんとうちの月菜、病院で会って何かあった?」
陽詩と月菜が会うようなタイミングを作ったのは母だ。
頭を抱える忍。
「母さんでしょ、二人が会うように仕向けたの。」
「あら、あら、そうだったかしら。やーね。歳かしら忘れぽくってね。」
美味しそうにクリームソーダを飲む母を睨む。
「そう、そう、それでね、月菜の事を聞いてきたのよ。」
「聞いてきた?」
忍は真剣な顔に戻る。
「そう、月菜の貴方に対する態度とかを遠回しにね・・・」
忍は陽詩と月菜が出会った時の事を思い出していた。
月菜の親子とは思えないスキンシップを見られている。
「もう、ごまかせないかもね。」
母が淡々と口にする。
「貴方と月菜の関係、月葉さんと、啓二と、貴方に何があったのか話すべきじゃない。」
「いや・・・」
「忍、貴方陽詩ちゃんにも愛されているのよね。」
何も言えなくなる忍。
「本当の事、話してあげたら・・・貴方との過去の事を後悔していたわよ。」
「・・・・考えておくよ、母さん。」
珈琲に手を伸ばす、手が空を切る、母が忍のコーヒーのソーサーを押して、忍の左目の前の方に珈琲を置く。
「その目の事もそうだけど、早くお嫁さんを決めてね、母さん心配であの世にも行けないわ。」
苦笑いを浮かべる忍。
「母さん、付き合えるのは一人だけだよ。母さんもわかってるだろ。」
「高橋先生、楓さんね。わかってるわよ。」
母は何故か唇を尖らす。
「陽詩ちゃんの事、ちゃんと考えてね。おかしなことになる前に話すのよ。」
「わかったよ、母さん。」
母が置いてくれた珈琲に手を伸ばす、一口すすると口内に苦みが広がった。