先輩・・・・
短いですが更新しました。
その瞳が揺れて涙が溢れ出していた。
「えっ・・・今なんて。」
閑静な住宅街にあるマンション。
リビングダイニングで父、母、妹と一緒に食卓を囲っていた。
どこにでもある一般的な家庭。
専業主婦の母、会社員の父、そして中学生の妹の4人暮らし。
石塚薫は、茶碗を手に持ったまま父を見ていた。
「だから、来年アメリカへの海外赴任が決まってね。」
母が父に代わって話す。
「家族全員来年からアメリカで生活します。」
薫は言葉が出なかった。
妹はアメリカに行けることを素直に喜んでいる。
父と母は当然未成年の子供たちを日本に残す選択肢は無く、全員一緒にアメリカに行くことを決めている。
薫は頭を整理しながら質問した。
「・・・・アメリカって・・・何年位。」
仕事で行くのだから一年やそこらで日本に戻ってこられるとは無いと薫も思っている。
「最低で5年という話だ。」
父はおかずの魚に箸をつけながら答える。
頭の中が真っ白になった、今までの高校生活、友達や部活動、そこから全て切り離される。
そして、大切な啓二先輩。
5年間・・・気が遠くなる年数。
今の様に20年前は、携帯電話など子供に持たせてくれなかったし、インターネットも家庭にそんなに普及していなかった。
アメリカと日本の遠距離恋愛。
子供の自分には自由に行き来する力もない。
「ごちそうさま。」
薫はそう言うと自室に向かう。
「あら?もういいの。」
母の言葉も耳に入らない。
「お姉ちゃんの残したおかずもらうね。」
妹の無邪気な声も響かない。
自室に入った薫はベッドに倒れこむ。
「先輩・・・」
ベッドに仰向けになり、蛍光灯の明かりが目に入る。
「先輩・・・そんなのやだ・・・。」
その瞳が揺れて涙が溢れ出していた。




