大人のジェラシー
宜しくお願いします。
※初めての時に喜んでもらおうと思い少しセクシーな物を探し求めた。
窓の外、視線を下げた先には沢山の人が行き交っていた。
窓に沿うように作られたカウンターに座り、アイスティーの入ったグラスをストローで軽く混ぜる。
地元から少し離れたショッピングセンターの4階にある喫茶店、買い物を終えた楓は考え事をしながら窓の外を見ていた。
まさか下着売り場で、自分のクラスの生徒と鉢合わせするとは思っていなかった。
しかもその中に恋人の娘がいるとは・・・・。
月菜とはこの間の病院での事もあり、多少気まずくもあり、その辺りをバレない様にしながら3人と接したつもりだった。
でも様子を見ていて、ちょっと何処かで意地悪をしてやりたい気持ちもあったのも事実。
特に月菜に対しては病院での事も有り、ちょっと意地悪な発言をしてしまい、他の2人には悪いことをしたなと後悔していた。
自分が買い物をしていたランジェリーショップは、どちらかと言えば大人が購買層の店だ。
そこに高校生の3人が現れたので、ちょっと察してしまった所がある。
病院で楓の前から去る時に言った月菜の捨て台詞。
「そうそう、高橋先生・・・私と忍は同じ屋根の下に住んでいるのを忘れています?先生おっしゃいましたよね・・恋愛は自由だと。」
その言葉から月菜が忍との関係を進めようとしてるのは明らかだ、お祖母さんから聞いた自分の出生の事実、「血のつながりのない親子」、これを知った月菜はタガが外れたように父、忍に迫っているらしい。
当の忍は実の娘と思っているから、先に進むことは無いと信じている、それでも少し心配している自分がいるのも事実。
月菜の忍対する態度、忍が告白されキスされてしまった事は、その当時どのように判断していいか悩み、所詮一過性の事と考え、時が解決してくれると軽く考えていたらしい。
特に忍が事故にあってからの、月菜の度重なる大胆な行動には、体が不自由な状態で抗うことが出来なくて困ったと言っていた。
そして、お祖母さんから聞いた真実を聴いてからは余計に大胆な行動に出ることが増えたと忍は零していた。
いくら子供とはいえ、高校生は女性として生きることにまったく問題が無い。
その気になればどうにでもなるだろ。
だからちょっと意地悪をしてしまった、高校生と大人の女性の差を言葉と態度で見せつけたかった。
本当は黒のランジェリーだけ買い求めるつもりだった。
忍が退院した時に、そして•••、初めての時に喜んでもらおうと思い、少しセクシーな物を探し求めた。
そしてランジェリーショップで、月菜達にばったり会った。
病院での事や、忍に対しての月菜の言動が頭に浮かび、つい意地悪をしてしまった。
「貴方達くらいの体形なら、まだ〇〇の方が良いかもね。」
自分で言った意図は明白だった。
そして最初に店を訪れた時に、黒のランジェリー以外に、候補にしていたのが薄緑色のランジェリーだった。
マネキンが着けていたこのランジェリーを見たときは、忍がこれを見たら引いてしまうのでは無いかと思い候補から外し、別のデザインの物にしようと考えていた。
何故ならそのランジェリーのショーツは大事な部分にスリットが入っており、所謂「オープンクロッチショーツ」だったからだ。
でも月菜を見てそんな考えは吹き飛んだ。「忍は私の男、月菜には渡さない。」
「じゃあ、先生はこれで帰るね、気を付けてかえるのよ、3人とも。」
私は3人に微笑むと、黒のランジェリーと薄緑色のランジェリーを持ちその場を後にした。
「はぁ・・・」
ちょっと大人気なかったかなと、楓はため息をつく。
相手(子供)の体形を揶揄して、尚且つセクシーなランジェリーを買う大人の女性(余裕)を見せつけるなんて。
カランとアイスティーの氷が解けて音が鳴る。
「私・・・月菜に嫉妬してる・・・まさか・・ねぇ。」
会社を休日出勤した下田陽詩は、車の中から交差点の赤信号を見つめていた。
交差点を夏の制服に身を包んだ女子高生が数人、楽しそうにおしゃべりをしながら渡っている。
信号が赤から青に変わり、アクセルを踏み込む。
交差点の女子高生を見て思い出す苦い記憶。
「神居の娘、月菜です、初めまして。」
射るような目線を向けてきた忍の娘。
ベッドに座る忍にこれ見よがしに抱つき、顔の傷を指先で舐めるように触れた娘。
視線は陽詩に向けたまま、「どうだ」とばかりに薄っすらと笑みを浮かべ、まるで恋人のように忍にしな垂れ掛かる姿。
そして、私なんか眼中にないとばかりに吐いた言葉。
「お心遣いありがとうございます。 お・ば・さ・ま」
今思い出しても腹が立つ、あれが本当に忍の娘なの?ナニ、何なの、あの小娘、無茶苦茶腹が立つ。
陽詩はアクセルを思わずベタ踏みする。
忍と結ばれれば必ず付いてくるグリコのおまけ、このままだと娘の陽菜乃が上手く姉妹としてやっていけるか不安が残る。
いやそれだけでは無い、私とあの子の関係も上手く行かないと困る、親子として上手くいかないのは問題が大きい、忍とのお付き合い(結婚)への大きなハードルとなっていた。
陽詩はふと冷静になる。
「そうだ、お義母にどんな子だかそれと無く聞いてみよう。」
ハンドルを握りながら名案が浮かんだ。
どうせ攻略しなければならない壁、それなら情報を仕入れるのが先、そう思うと同時に車のアクセルも緩む。
「そうだ!妹にも今の女子高校生がどんな感じなのか聞いてみよ。」
家にはリアル女子高生を知る、力強い味方が居るのに気が付いた。
自分自身で納得した陽詩は、笑みを浮かべながら家路を急ぐのだった。(法定速度で)