大人な買い物
宜しくお願いします。
※「さすがにねぇ・・少しは大人っぽくして買い物しないと・・」
土曜日の昼下がり、神居忍はリハビリの石塚先生と病院の食堂で向き合っていた。
お互いの目の前にはアイスコーヒーの入ったグラスが並んで汗をかいていた。
「石塚先生、単刀直入に言いますね。」
忍はそう言うと石塚先生を見つめた。
土曜の午後からお休みだと言っていた石塚先生に、態々時間を取ってもらった。
いつもの白い制服とは違う私服が、この石塚先生を別人に見せていた。
薄い水色のノースリーブのワンピースがとても似合っている。
「兄は他界しています。」
「え?!」
石塚先生は、両手を合わせるようにして口を隠し驚く。
「神居先輩・・・・亡くなられていたんですか。」
「はい・・・もう十年以上経ちます。」
「そんな・・・・」
石塚先生は信じられないというように首を振りながら俯く。両手を祈るようにしてテーブルの上に置いた。
その手が震えていた。
テーブルのアイスコーヒーの氷が崩れる。
暫く俯いていた石塚先生は、自分の横の椅子に置いてあるバックから、ハンカチを取り出し目元へと運ぶ。
肩が震えていた。
「すいません・・・知りませんでした。」
涙声の石塚先生。
絞り出すように言葉を続ける。
「先輩は、なんで・・・ご病気・・ですか。」
「・・・・・・・・・」
忍は石塚先生の姿を見て、どう答えたものか思案する。
ゆっくりと食堂の窓の外に視線を向ける、緑に萌える山々をゆっくり眺め、視線を石塚先生に戻した。
食堂のテーブルにポツンと取り残された忍、目の前にはアイスコーヒーのグラスが二つ。
既に氷は解け、コーヒーの濃い色は無くなっていた。
忍は自分の横の椅子に立て掛けてある松葉杖を手に取り立ち上がる。
テーブルに残ったグラスのストローに口紅が付いているのを見つめた。
石塚先生の泣き腫らした瞳が思い出された。
「兄貴・・・」
松葉杖をつきながら、グラスに背を向け食堂を後にした。
日曜日、月菜はこの地方にあるローカル電車に揺られていた。
目的はこの地方の中心地、県庁所在地・・・では無く、新幹線が止まる県庁所在地より開けた地区に来ていた。
白の襟付きの半袖シャツに、ミニのデニムスカート、それに某有名スポーツメーカーのリュックをワンショルダーにして肩に掛けている。
改札を出ると、目の前に土方麗羅が白いノースリーブのワンピースに大きめの麦わら帽子を目深にかぶり立っていた。
「おはよー、麗羅、待った?」
麗羅は手をふって笑顔で迎える。
「わたしも今来たとこだよ。」
「最後は和美か・・」
二人は、改札に視線を向けた。
人ごみの中から慌てて向かってくる人影が見えた。
「あっ、和美。」
月菜と麗羅の声が重なる。
二人して顔を見合わせ笑う。
三上和美が慌てて改札口から出てきた。
「ごめ~ん、二人とも。」
Aラインの花柄のミニスカートに、ノースリーブシャツが大人っぽい。
小さなショルダーバックも大人な感じだ。
「和美も大人って感じでかっこいい。」
月菜がファッションを褒める。
和美が月菜と麗羅を真顔で見る。
「だって・・・今日の目的は大人な下着を買うんでしょ。」
当然!とばかりに胸を張る。
「さすがにねぇ・・少しは大人っぽくして買い物しないと・・」
月菜は自分の恰好をマジマジと見つめて・・・
「子供・・・ポイかな。」
ちょっと涙目で和美と麗羅に聞いた。
「え!あっ・・あ、の、その、そんな事ないよ・・ねぇ、」
「麗羅!」
「和美!」
和美が慌てて麗羅の名を呼び同意を求め・・・
麗羅が慌てて和美の名を呼び同意を求め・・・
「うっぅ・・・・」
その二人を見て落ち込む月菜だった。




