枷
今回からアダルトな表現が続きます。
そのような表現に忌避感を覚ええる方は、このページより離れて下さい。
月菜の話は続く・・・
「先生と職員室で話をした時、もう抑えられなかった、パパを先生に取られちゃう、そう思ったの・・抑えてきた分もう我慢できなかった、学校を飛び出してパパを探した、パパを探して会社に行ったらパパの、パパの周りは大人ばかりで、男の人もお洒落でかっこよくて、女性もお洒落でかっこよくてきれいで・・・どう考えたって・・どう逆立ちしたってかてなぃ・・・・悲しくて・・涙が溢れて・・・そしたら、そしたらパパが見つけてくれて・・・・」
楓は月菜の手に自分の手を重ねた。
その手に月菜の涙が落ちる。
「こんな、こんな事、こんな感情は持ってはいけない、そう・・・分かっていたけど、止められなかったの・・・家に帰って・・パパの携帯が鳴って、高橋先生からの着信が見えたら・・携帯を投げ捨てて・・そう、私は・・・私はパパを抱きしめて、パパに馬乗りになって、パパを押さえつけて、むりやり・・無理やりキスをしちゃった・・パパに愛してるって告白した時の、パパの驚いた顔は今でも忘れない・・・」
月菜が顔を上げる、涙と鼻水でくちゅぐちゅになった顔を上げ・・・
「パパが・・・パパが忍が好きなの!愛してるの!こんなの・・こんな事間違っているのはわかってる、でも、でも気持ちも体ももう・・・止められない・・だって忍が好きだから!」
月菜が大きな声で叫んだ、周りの客も一斉に楓たちを見る。
「月菜さん。・・・・・・・」
困惑した楓は、名前を呼ぶことしか出来なかった。
「パパが事故にあって、パパが死んじゃったらどうしよう、パパがいなくなったらどうしよう・・・そう思ったら、もう会えなくなったら・・そう考えたら、もう・・自分をごまかすのは止めようと思った、自分の気持ちも、考えも、いなくなったら伝えられない、欲しいものも手に入らない。そう思った・・・パパへの私の気持ちは間違えじゃない。本当にパパ、忍くんを愛しているんだって改めて気が付いたの。」
楓は忍の事故で同じように苦しんだのを覚えている。
「忍の病院に駆けつけることが出来なかったもどかしさ、忍との交際を始めた矢先の事故、自分は関係者から外される切なさ、忍の安否も状態も何も知らされない悔しさ。忍に会いたい、一目でいいから会いたい、何度神様に、この世のものでない何かに縋ったか・・・忍が恋しい、触れたい、もう一度話したい・・・」
人を愛する気持ちに、月菜さんも私も違いは無い。
「そんな私の事を見ていたお祖母ちゃんに、私のパパに対する気持ちがバレてた。別に驚きもしないで応援までしてくれたの。そしたらね、おばあちゃんが「月菜ごめんね」そう言って、本当の事を教えてくれた・・・・私と忍は本当の親子じゃないって・・・本当の母の事、パパのお兄さんの事・・・そしてパパの事・・・」
月菜がまっすぐに目を向ける。
「おばあちゃんから聞いて、最初は戸惑った・・そして、私が苦しくて、苦しくて・・どうにもならなかった「親子」と言う枷がなくなった・・・そしてそれは喜びに変わったの・・堂々と隠れることなくパパを愛してると言えるようになった、そしてパパの心だけじゃなく体も全て受け入れられる事がうれしかった・・・」
「・・・・月菜さん、貴方・・・」
「高橋先生・・・・いえ、高橋楓さん。」
楓は月菜の告白を聞き、手の震えが止められなかった。
神居月菜は真直ぐの高橋楓を見つめた。
「高橋楓さん、学校では先生として尊重しますが、学校外では忖度しません。私は神居忍、パパを愛してます。貴方にはわたしません。」
強い口調で楓に言い放つ。
正直困惑していた、忍の娘が父親を愛していると公言した。
自分の正直な気持ちや心の揺れを包み隠さず楓に話し、忍への愛情を口にした。
親子だと思い、決して交わることが許されない関係と諦めながら、其れでも恋慕の情を抱き押し殺してきた、そして祖母から知らされた忍と月菜の親子関係の真実を聞き、月菜に希望と喜びが生まれてしまった。
でも、自分も神居忍を愛している、絶対に引く気は無い。
楓は大きく深呼吸をすると震える手を押さえつけ、月菜に向かい合う。
「月菜さん、忍さんと私は交際しています。いまさら貴方が入り込む余地はありません。私たちは大人の関係ですし、恋愛は自由ですから。」
それを聞いた月菜は、バン!と机を叩き立ち上がった。
そして、指先を楓に向けて声を荒げた。
「忍は絶対に貴方に渡さないから、パパとずっと一緒に居て、最初にパパを愛したのは私、貴方とパパの交際は絶対に認めないんだから!」
そう言うと月菜は踵を返し、食堂の出入り口に向かう・・・そして足を止めた。
視線をテーブルに座っている楓に向ける。
「そうそう、高橋楓先生・・・私と忍は同じ屋根の下に住んでいるのを忘れています?先生おっしゃいましたよね・・・恋愛は自由だと。」
「なっ・・・・」
「ふふっ・・・・・・先生、私これで帰りますから良くパパと話し合ってくださいね。」
なんと言う娘だろうか、少女から大人になるとはこういう事なのだろうか。
最初のいじらしさの欠片もない。
最後は負けたような気がして悔しかった。