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小娘、おばさま。

繁忙期の為、更新が滞る事があります。

宜しくお願いします。

月菜は一昨日お祖母ちゃんから聞いた話を思い出していた。

「貴方が・・・貴方が忍を愛してしまったのは、本当の親子じゃないからなの・・私はそう思っている。」

「え?・・・・・」

最初はお祖母ちゃんが何を言っているのか分からなかった。

お祖母ちゃんの話を聞いているうちに段々クリアーになっていく感情。そして赤の他人と承知しながら父親として育ててくれた忍への気持ち。お祖母ちゃんが全て話してくれた事に感謝していた。

もっと大人になってから知らされたら自分はどうしただろう。

そんな事を考えながら、学校から病院へと歩く。

部活動を終えたその足で、父忍の入院している病院へと向かっている。夏の虫の音の中に、時折秋の虫の音が聞こえる。

自分の母月葉は、忍の兄啓二さんと結ばれた。自分は連れ子で血のつながりは無い、そして母が死の間際に決断した忍、母への愛情では無く、月菜の行く末を案じた母を安心させる為に自分の人生を棒に振らせた。

忍は母の愛情を欲したわけでは無い、その体を掻き抱いたわけでは無い、ただ単に月菜の幸せの為に決断をして結婚をした。形だけの結婚。

月菜は立ち止まった、夏の終わりの太陽が月菜に照り付ける。

学校指定のショルダーバックを掛けた肩が震える、俯く月菜の足元に雨粒のようにポツ、ポツと涙が落ちる。

「パパ・・・・・ごめんなさい。ごめんなさい・・・」

月菜はその場でしゃがみ込むと両手で顔を抑えた。

ヒグラシの音が月菜の嗚咽と重なる・・・・・歩道にしゃがみ込む月菜を無視するように、車が数台通り過ぎて行った。


病院に着いた月菜は洗面所で顔を洗っていた。水道の蛇口から勢いよく水が出ている。

バシャバシャと両手で水を受け止め、顔を洗う。キュツと音と共に栓を閉めた。

ショルダーバックからタオルと取り出すと、ゴシゴシと顔を拭いた。

鏡に映る自分を見つめる。目を細めると両手で自分の頬を挟む様に思いっきり叩いた。

「よし!」

少し垂れた目を大きく見開き笑顔を浮かべる、微笑む唇に八重歯が見える。

月菜は決めていた、いや覚悟を決めていた。自分のこの気持ちを、この感情を、そして自分の全てを忍に捧げ、忍が私の為に失った時間を取り戻す。

もう、血のつながりが無いと知った自分に怖いものなどない。堂々と忍を愛していると言える、誰にも憚ることなくそして遠慮なんかしない。

「私は忍が好き、忍を愛している。もう誰にも渡さない。」

月菜は踵を返す、鏡に映る後ろ姿は堂々としていた。



お祖母ちゃんから聞いていた病室に向かう、個室から大部屋に移った事も聞いた。

足のけん引も取れた事も聞いた、剣道部の夏練やお祖母ちゃんとの女子会で1週間ほど見舞いにこれなかった。

自然と心が軽くなったせいか、足取りも軽くなったような気がする。

病室の出入り口から中に入ると、忍がベットに居るのが見えた。

「パパ、ここに移ったんだ。」

病室に居る患者の視線が一斉に月菜に注がれる。月菜は一瞬戸惑ったが視線を忍のベットに向けた。

誰?

月菜の表情が曇る、ゆっくりとショルダーバックを肩に担ぎ直し、忍のベットに向けて歩む。

視線は忍のベット横のパイプ椅子に座る大人の女性。

「どこかで見た顔。」思考巡らせ何処で見たか考える。

思い出した、忍の会社で会った女。泣きじゃくりながら忍に抱きついていた時に最後に現れた女。

近づく月菜に気が付いた女は立ち上がった、月菜は女を射るように見つめ続ける。

ベットに上半身を起こしている忍を無視して月菜は女に会釈をした。

「神居の娘、月菜です。始めまして。」

右頬の口角を軽く上げ、八重歯が光る。目は半目で睨むよう。

女も立ち上がり会釈をする。

「娘さんですか?私下田陽詩と言います、お父さんとは会社の同僚で何時もお世話になってるんですよ。」

そんな情報いらない。その女はどこかの余裕をかましたように大人の色気を前面に出している。

「パパ!」

「こ、こら月菜!」

月葉は挨拶した陽詩を無視するように、半身を起こしている忍に抱きついた。

「顔の傷、お祖母ちゃんが言ってたけど大丈夫。」

抱きついたまま左手で忍の右目の傷を上から撫でるようにする。そして、ちらりと陽詩に視線を向けながら微笑む。


「何・・・この子。」

陽詩は娘だと言う月葉を見て一瞬で敵だと感じた。陽詩の目の前で忍に抱きつき、傷跡を舐めるように触る。本当に親子?何・・・しかも、「どうだ」とばかりにチラリと視線を寄越すその態度。

「明日から毎日お見舞いにこれるからねぇ。し・の・ぶ・君。」

ムカーッ!なんか腹立つはこの小娘、忍に言いながら視線は私に向けるってどういう事よ。

「こら、月菜!お客さんの前で止めなさい。」

忍が娘に注意しているが一向に止める気が無いように見える。

「あれ?それは。」

小机の上に置かれたケーキを乗せていた皿を小娘が指さす。

「それ、下田さんがケーキを持って来てくれたんだ。」

小娘がニヤリと笑い、忍に抱きつくのをやめて陽詩の正面に立つ。

「お心遣いありがとうございます。お・ば・さ・ま。」

ゆっくりと、笑みを浮かべながら月菜が頭を下げた。

「お・ば・さ・ま。」頭に四文字がリフレインする、なにこの小娘、頭来る娘ね!

忍と結ばれるとこれがおまけで来るの?くっ・・・・・ここは攻略しなければいけないようね、まずは冷静にならないと。


忍は頭を抱えていた。

「頼むから安静にさせてくれ・・・」

母美佐子の笑い声がこだましていた・・・・・恐るべし美佐子。




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