恋バナ
繁忙期の為、更新が遅れます。
宜しくお願いします。
洗面台の前に立たせた娘の髪の毛をドライヤーの風がなびかせる。
鏡に映る陽菜乃の後ろに立ち、娘の髪の毛をドライヤー片手に手櫛で乾かす。
神居忍の見舞い行き、帰宅して娘とお風呂に入った所だ。
娘は鏡に映る母をじっと見つめていた。
「ねぇ、ママ」
鏡の中の娘と視線が合う。
「なに。陽菜乃。」
「ママ、なんかきれい。」
「え?」
目を丸くする陽詩、ドライヤーを持つ手が止まる。
「ママ、凄く笑顔。」
「そう?・・・」
「うん・・・だって、ママずっと悲しそうな顔してた。」
陽詩はその言葉に愕然とした。
手に持っていたドライヤーを洗面台に置き、後ろから娘を抱きしめる。
そして、娘の髪の毛を撫でながら鏡越しの娘に笑いかけた。
「ママ、そんなに悲しそうな顔してた?」
娘は目を上に向け、考え込むようにした。
「・・・ママ、ずっと・・・悲しそうな顔をしてた・・」
「・・・ごめんね、陽菜乃・・・いやな思いさせちゃったね。」
娘に心配させた自分を責める。
「ううん、でも今のママキレイ、大好き!」
忍の事故、達也の件・・・ここの所自分でも気が付かないうちに表情や態度に出ていたのだろう。
親として最低だ、娘に心配を掛けるなんて。
陽詩は娘の頬に、自分の頬を合わせた。
「ごめんね・・・陽菜乃。」
そう言うと娘を抱え上げ、娘に笑顔を向けた。
娘が布団に潜りこむのを確認した陽詩は、リビングに向かう。
「陽菜乃は寝たの。」
陽詩はリビングの椅子に座り、缶ビールを飲んでいる妹の楓に軽く頷いた。
楓は片足を椅子の上に乗せ、テーブルの上にある袋から直接口に菓子を運ぶ。
黒のショートパンツのルームウェアーを着た妹を見て顔を顰めた。
椅子に上げた片足のショートパンツの裾から下着が見えている。
「楓、なんてみっともない格好してるの、下着見えてるわよ。」
言いながら、陽詩は自身も冷蔵庫からビールを取り出し、楓の前に座った。
プルトップを開ける音が響く。
「別に良いじゃない、家なんだし、女同士だし。」
楓が唇を尖らせながら文句を言う。
「そんなんじゃ何時まで経ってもお嫁に行けないわよ。」
陽詩はビールを一口流し込む、うん、お風呂上りは美味しい。
目の前の楓はキョトンとした顔をして、徐々に悪い顔になる。
「あれ?下田陽詩さん、何をおしゃられますか。」
「な・・・なによ、その言い方。」
楓は勝ち誇ったような悪い笑顔を浮かべ、ビールを一気に飲むと缶をテーブルに叩きつける様に置いた。
「(* ̄▽ ̄)フフフッ♪・・・私、彼氏が出来ました~♡♡♡」
「え!」
陽詩が目を大きく開く。
「しかも、しかもですよ!両親も一応公認してます~!」
「あんた・・いつのまに。」
驚愕の表情を浮かべる陽詩。
「お姉ちゃんにも話さなきゃと思ってたんだけどね、お姉ちゃん・・・色々あったからさ。」
「・・・・・・・」
気まずい沈黙が流れる。
陽詩は暫くすると興味深々に楓を見る。
「それで、どんな人なの?」
楓は上げていた足を下ろすと、両肘をテーブルの上に置き顎を乗せた。
「ちょっと、あれなんだけどね。」
「あれって?」
「7歳上で、バツイチ子持ちなんだけどね。」
「え!貴方大丈夫なの?騙されてるんじゃないの!」
「騙されるって?何が。」
陽詩は目の前に座る楓に食ってかかるように、前のめりになりながら真剣な顔をする。
「そんな、バツイチ子持ちなんて、過去に何があったか分からないじゃない。」
「お姉ちゃん・・・それ自爆。」
ハッと気が付いたように陽詩は椅子の背もたれに寄りかかった。
「ごめん・・・・」
「いいよ、別に・・・でも安心して、一応両親にも話したし、まだ会わせてないけどその内ね・・」
「そう・・・・でもどこで知り合ったの。」
姉が小首を傾げる。
「うん、学校の生徒のお父さん・・・ちょっと色々あってね、私の立場上色々あるから先にお父さんとお母さんには話ししたんだ。」
「そう・・・楓が幸せになるなら良いんじゃない。でも、どうやってお付き合いする事に・・」
「・・・私の一目惚れ。」
その言葉に陽詩はポカンと口を開けた。
「・・・・・そう、一目惚れね。」
暫く二人で恋バナをしながらビールを飲んだ、500mの缶が二人で6本、テーブルに立っている。
楓は酔った頭で、何かを思い出したように姉に問い質した。
「お姉ちゃんさぁ、最近会社に行くときお洒落するようになったよね。」
「そお・・・」
姉も酔っているようだ、楓は陽詩に向け指を突きつける。
「だってさぁ、前まで髪は気にしないは、化粧はほぼしてないわ、服装はおばさんだし、それがなに?・・・・急にお洒落になって。」
「そっ・・・そんな事無いわよ!」
陽詩は動揺したように、ビールを飲んで誤魔化す、その様子を見ていた楓はまたいやらしい顔をした。
「・・・ふふ・・私知ってるんだから。」
「何が・・・」
「あんな・・あんな、エロい下着を何枚も買ってるの。」
「なっ!」
陽詩は動揺し真っ赤な顔をした。
楓は姉を追い詰める様に更に言及する。
「あの下着、お洒落して出ていくときに着けてるよね。」
楓の目がいやらしい。
「今日、会社休んでどこ行ってたのかな・・・今日は何色のエロいの着けたの?」
「楓!!!」
姉は顔を真っ赤にして、妹を睨みつけた。
「彼氏・・・喜んだでしょ!」
「そっ、そんなんじゃないわよ!!!」
「まぁ・・・いいけどね。」
急に楓が、声のトーンを押さえた。
「お姉ちゃん、好きな人・・・やっぱり出来たの?」
妹の真っ直ぐな視線を受けて押し黙る。
「楓・・・あなたの言うとおりだった。」
ポツリ、ポツリと姉が話す。
「あなたに言われて・・・最初の彼を忘れろって・・・でも、気が付いたの・・・まだ彼を求めてるって。」
「そう・・・でも、どこにいるか分かるの?」
楓は溜息をつきながら姉に聞く、別れた元彼なんて何処に居るかも分らないし、相手も結婚して家庭を築いている可能性もある、姉に諦めろと言うしかないと思った。
「・・・偶然、本当に偶然に会ったの・・・」
「え・・・・・・・・・・本当?」
楓はそんな事があるのかと内心驚いていた。
「・・・・それで。」
「偶然会って・・・最初はそんな事思わなかったんだけど・・・貴方に言われて、まだ彼の事が好きだと気付いて・・・」
「その人、結婚は?」
姉は言葉の代わりに首を横に振った。
「そう・・・良かったわね。」
「・・・そうでもない、今付き合っている人が居るって言われた。」
「・・・・・どうするの。」
「貴方をまだ愛してる・・・彼女がいても諦めないって・・・そう言っちゃった・・」
「お姉ちゃん・・・大胆、でもそれって辛くない、相手に好きな人が居るんだよ。」
陽詩は俯く。
「・・・・辛くないわけない、でも、もう後悔したくないの・・・」
「・・・・・お姉ちゃん、それで良いの。」
「・・・だから、だから奪ってやった。」
姉が顔を上げた、何か勝ち誇ったような表情。
「彼の・・・彼の唇を奪った。」
「はぁ?」
楓は姉の強さにあきれた、女は結婚して子をなすと強くなると言うけれど、バツイチの姉は火を抱いた女なのかもしれない、失礼な言い方かもしれないが「男とは」を熟知している女の情欲に並みの男が耐えられるはずがない。
楓は姉の元彼と今の彼女に同情するしかなかった。
「それで・・・これからどうするの。」
「・・・・かならず、振り向かせる・・・私は彼が欲しい。」
「やだ・・・・彼が欲しいって・・・お姉ちゃんH過ぎ。」
酔っているとは言え姉の言動にビックリする楓。
「でも、やっぱり姉妹よね・・・姉も肉食とはねぇ。」
くすっ。
姉妹で笑う、二人とも幸せを願う、姉は妹の妹は姉の幸せを・・・愛縁機縁、どう絡まって行くのだろう。




