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本当の事。

また繁忙期に入るので更新が少し遅れます。

宜しくお願いします。

「貴方が・・・貴方が忍を愛してしまったのは、本当の親子じゃないからなの・・私はそう思っている。」

「え?・・・・・」


月菜は今の祖母の言葉を反芻する。

「お祖母ちゃん・・・・」

「ただこれだけは信じて、私も忍も貴方の事を本当の家族と思っているから。」

「・・・・お祖母ちゃん・・・本当の親子じゃないって、どう言う事なの。」

ポチャ・・・湯船に天井から水滴が落ちる。

美佐子は自分の言葉で固くなっている月菜を体全部で包み込んだ。


月菜のお母さん、月葉さんはね、月菜は覚えてないかもしれないけれど、私の息子、長男の啓二と最初は出会ったの・・・啓二は大学生だったわ。

啓二が月葉さんに恋したのね、二人は付き合い始めたの・・・

啓二は月葉さんと結婚したいと言ってきてね、二人で挨拶に来たのだけれど、お父さんに大反対されてね、私もその場に居たのだけれどどうにも出来なくてね。


月菜は黙って話を聞いていた。


結婚の反対の理由は、啓二がまだ成人したばかりだった事、そして月菜・・・貴方はもう生まれていたの。

月葉さんは前の旦那さんとのお子さん、つまり貴方を一人で育てていた。

それでも啓二は私達の反対を押し切って結婚したの。

小さなアパートだったけど、啓二と月葉さん、そして月菜、幸せに暮らしていたわ。


月菜の肩が震えている。

美佐子は月菜を強く抱きしめる。

「ごねんね・・・こんな話で・・・もう、辞める?」

月菜の心情を考えると、ここで一旦話しを終わらせた方が良いのではないかと思った。

「・・・・お祖母ちゃん、大丈夫。」

健気に答える孫に涙腺が緩む。

「わかったわ・・・」


二人で暮らし始めて3年位だったかしら、啓二がね・・・・仕事中の事故で亡くなったの。


お祖母ちゃんの声が震えて聞こえた・・・月菜は自分を抱きしめていてくれる祖母の腕を優しく掴む。


不幸って続くのね・・・・それから何とか立ち直ろうと月葉さんは頑張っていたわ。

でもね、啓二が亡くなって何年か経ったころだった・・今度は月葉さんが病気になったの。

月菜の記憶の中の母は、自分を優しく抱っこしてくれる・・そんなイメージしか残っていない。


貴方のお母さんは末期ガンだったの、月葉さんは自分が亡くなった後の貴方の行く末を心配していたわ。

それこそ、自分の親族に貴方の事をお願いして回ったみたい、それでも全部に断られたらしいの・・細かい理由までは分からないけれど。

そして、最後の最後に神居家・・・私達の所に頼って来たの。

でも結婚を反対していたお父さんが首を縦に振るわけもなく、私も忍も何回も何回も家で育てようと説得したけど駄目だった。

ある日、私とお父さんと喧嘩してね・・・忍が間に入ってお父さんに手を上げてね・・

「俺が独断でやる・・・」

そう言ってもう、この話は二度としなかったわ。


月菜は父忍の話を初めて聞いた、そんな事情が自分に合ったなんて・・信じられなかった。


月葉さんが入院する何週間か前だったかしら・・・・・忍も考えたのでしょうね。

今考えても忍の選択肢は褒められたものでは無いと思うけど・・・でも貴方を見ていると正解だったのかも・・・そう思えるわ・・・これで良かったのかも・・って。


祖母の頬の温もりに涙が流れて来た・・・

「お祖母ちゃん・・・泣いているの。」

「ごめんね・・・月菜、辛い話しをして・・」


忍はね・・・大学卒業と同時に月葉さんと籍を入れたの。

最初は月葉さんも拒絶したらしいけど、最後は忍に説得されて婚姻届けにサインしたらしいわ。

貴方を無事に育てる為・・・頼るしかなかったのよ・・・忍に。

その後直ぐに、月葉さんは入院して・・・・間も無く亡くなったわ。

後は貴方の記憶のとおり・・・忍は貴方と親子として生活を始めたの・・。

でもね・・貴方が大きくなるにつれ色々な疑問が浮かぶようになるでしょ・・だから忍から相談を受けてね、貴方が疑問に思う前に嘘で塗り固めてしまおうって・・そして貴方が成人したら本当の事を話そうって。

でも・・・それも無理があったわね・・・貴方が忍に魅かれるなんて・・・まさかよね。



沈黙が続いた。

忍と母は年の差があり、ちょっとややっこしい家族だと思っていた・・いや思わされていた。

自分と父はなんの血の繋がりもない赤の他人、周りの大人たちが全て嘘を付いてまで隠し通していた。

それは・・・全部自分を育てる為・・・真実を隠して私に本当の家族じゃないと負い目を感じさせない為。

何よりパパは、娘を案じて亡くなっていった母の為に、自分の人生を棒にふってしまっていた。


月菜の瞳から涙が溢れる。


パパはどんなに辛かっただろ、自分の兄と結婚した母の連れ子・・・全くの赤の他人を自分の子供として育ててくれたのだ。

パパにも、もしかしたら好きな人が居たのではないか、若い頃は遊びたかったのではないか、やりたい事を押さえつけて来たのではないか、自分を育てる為に15年も自分の人生を犠牲にしている・・・そんなの自分なら耐えられない。

月菜の嗚咽が漏れる・・

「うっあ・・・あっ・・うわぁあ・・ぱぱ・・・ひっく・」

「月菜・・・今迄ごめんね・・嘘をついていて・・」

「おばあぁちゃん・・・・」

月葉は湯船で祖母に振り返り、抱きつき泣きじゃくる。

「おばぁちゃん・・ううっ・・ヒック・・・おばあちゃ・・・ん」

美佐子に強く抱きつく月菜の背中を優しく撫でる。

「わたし・・うっ・・わたしを育てる・・・うぁあ・・為・・ありがとぅ・・ぅあ」

「月菜・・・・」

美佐子の涙も止まらない・・・

「ごねんね、ごめんね・・・辛い話だよね・・・ごめんね。」


美佐子は月菜を慰めながら考えていた。

月菜に事実を話してしまったが本当に良かったのだろうか。

全てを話したわけでは無い、全てを話せば月菜が傷つくのが目に見えていたからだ。

話したことによって、月菜がどのような行動を起こすのか暫く見守ろう。

美佐子は泣きじゃくる月菜を力強く抱きしめた。




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