母の嫉妬・・・
繁忙期つき、更新が遅れると思います。
宜しくお願いします。
どんよりとした雨雲が垂れこめている。忍は窓の外に広がる雨雲を見つめていた。
病室の大きな窓にポッポッと雨がぶつかり幾つもの筋を作り流れる、遠くでピカッと光り暫くしてからゴロゴロと雷が鳴り始めた。
午後2時を過ぎた頃だろうか、母美佐子がベットの横の丸椅子に座り忍に話し掛けて来た。
「忍・・・・ちょっといいかしら。」
母が神妙な顔をして話し掛けて来た。
昨日、月菜と自宅から着替を持ってG県に戻ってきた母はTシャツにジーンズという若い格好で忍の世話をしに病院に来ていた。
「何・・・母さん。」
忍は首だけを母に向けた。
「・・・忍、実はね・・・月菜から聞いたの。」
「月菜?」
「ええ・・・貴方は・・忍はどう考えてるのかなって・・」
忍は母が何を言っているのか不思議そうな顔をする。母は忍をじっと見つめて、何か思案をしているようだ。
「貴方・・・月菜の気持ち、知ってるんでしょ・・」
忍は母の顔を見つめ溜息をついた。
「・・・月菜がしゃべったの。」
「ええ・・・・」
「そう・・・月菜が。」
母は真面目な顔をして忍を見つめた。忍は天上に視線を向け口を開く。
「母さん・・・どうしたらいいのか、僕もどう接していいのか・・・」
美佐子は意を決したように、忍を見つめた。
「月菜から聞いたわ・・・貴方の事を愛してるって・・・そしてキスをしたって・・」
忍は天井を見つめたまま動かない。
「しのぶ・・・貴方、月菜ちゃんとそれ以上は・・・」
「母さん、僕たちは親子だよ・・・・ありえない。」
「忍・・・」
「ありえないよ・・・母さん。」
きっぱりと忍は否定した。
「・・・・そう、でも貴方たちは・・・本当の親子じゃない。」
美佐子もきっぱりと否定した。
「・・・・母さん。」
美佐子は忍に事実を突きつける。
「忍・・・・あの子・・・本気よ。」
「・・・母さん。」
「私も貴方と同じように、子供が親に対する親愛の愛情だろうと思ってた。」
「・・・・・僕もそう思ってた・・・」
「でも・・・あの子は貴方を、親やじゃ無くて男として愛してる・・・私も女だから分かるの。」
「・・・・・・・。」
忍は黙って母の言葉を聞くしかなかった。
「あの子は・・・月菜は苦しんでるわ・・・親に、父親に恋をしてそれを貫こうとしている。」
雨音が激しくなり始め、窓ガラスに当たる雨音が大きくなる、病室の二人を雷の閃光が陰影をつけ浮かび上がらせる。
ガラガラと雷が落ちる音が響き渡る。
「ねぇ・・・忍、あの子を・・・月菜を楽にさせてあげて・・。」
母は忍の手を祈るように握った。
唯一まともに動かせる左手に母の力が加わった。
「あの子に・・・本当の事を話そう、あの子に・・あの子を自由にさせてあげて。」
「でも・・母さん。」
「あの子を見ていて辛いの・・・恋しちゃいけない人に恋をして、いけないと分かってながら好きになってしまって・・・その気持ちを抑えられなくて・・みていて辛いの。」
母が、忍の手を握りながら涙を流す。
「でも・・・母さん。」
「お願い・・・忍、貴方が決めて私も同意してここまで来て・・・今更だけど・・・」
母、美佐子が忍を真っ直ぐに見た。
「あの子を楽にさせてあげて、貴方が月菜の気持ちに答える必要はないの、ただ・・あの子の恋の足枷だけ取ってやりたいの・・・堂々と貴方が好きだと言えるようにしてあげたいの・・・恋が実らなくても、こんな何かを抱えた恋じゃなく真っ直ぐな恋を・・胸を張って皆に言えるような恋にしてあげたい・・・」
「・・・・母さん・・・」
忍は母の言葉を反芻した、もう母に任せよう、月菜との親子関係が変わってしまうかもしれないが、もう潮時なのだろう・・・本当の事を話す良い機会なのかもしれない。
「・・・・母さん、もし、もし本当の事を話したら月菜は・・月菜は大丈夫だろうか。」
母は息子が言っている事に不思議そうな顔をした。
「忍・・・月菜と何年親子をやってるの?・・・あの子なら大丈夫、私が保証する。」
「母さん・・・・・」
「私から話をするわ・・・女同士だから、母さんに任せて。」
母は自分の胸に手を当て、得意そうに笑った。
忍はそんな母を見て笑顔を返し、「母さん・・・話しておくことがあるんだ。」
忍は母を見つめ、恋人「高橋楓」の事を話し始めた。
話を聞きながら色々な事に合点が行く、月菜の担任高橋先生に対する態度、月菜は高橋先生と忍の事に薄々気が付いていたのだろう。
美佐子は忍の話を聞きながら、忍に好意を寄せている女性が多い事に気が付く。
この間久しぶりに会った「下田陽詩」、忍に恋心を残していると美佐子に堂々と宣言していた。
我が息子ながら女性に縁がある・・そして父親を愛しているという孫の「神居月菜」。
そして今話を聞いた忍の恋人「高橋楓」
この3人全員を応援してやりたいが、気持と相手は息子が決める事。
そう言えば・・・まだ土俵に上がれていない一人を思い出す。
まだ、自分の気持ちを忍に伝えていない「下田陽詩」を・・・少し意地悪そうな顔をし、忍に今思い出したように言った。
「そうそう、この間忍の会社に行ったら懐かしい人に声を掛けられたの。」
「懐かしい人?」
「そう、懐かしい人・・・誰だと思う。」
忍は母の顔を見つめながら思案する。
「高橋陽詩ちゃんよ!貴方の昔の彼女、今貴方と同じ会社なんですって、なんで教えてくれなかったの、話しを聞いてビックリしちゃったわよ。」
忍は気まずそうな顔をした、なんで母が陽詩と・・・正直面倒にならなければいいなと忍は思った。
「陽詩ちゃん、貴方の事故を聞いてお見舞いに来たいって、別に構わないわよね忍。」
美佐子はニヤニヤしている。
「それは・・・」
「陽詩ちゃんと連絡先交換したから、連絡しておくね・・・いつでもどうぞって。」
忍は困惑していた、母も陽詩の事は一から十迄把握しているはずだ。
「母さん・・・・それは。」
「いいじゃない、もう昔の話だし・・・それに月菜に本当の話をするんでしょ、昔の事だって隠しておけないわよ、諦めなさい。」
美佐子はなんでこんな意地悪をしているのか自分でも不思議だった、でも何となく自分の気持ちもわかるような気がした。
「息子を他の女に取られる。」
母としてのちょっとした嫉妬・・・だから少し意地悪をした。
でも一番は息子に幸せになってもらいたい、これが美佐子の本音、母親のちょっとした復讐劇だ。
「母さん、母さん。」そう言って纏わりついて来た幼かった忍・・・そんな在りし日を思い出し、ちょっぴり舌をだして意地悪をする美佐子だった。