表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/94

姉と妹、祖母と孫

宜しくお願いします。

駐車場に車を止める、自宅から1分足らずの場所に借りた舗装されていない駐車場だ。

助手席に置いてあるトートバックを肩に掛け車を降りる。

ドアを閉めロックを掛けた、少し高めの機械音と共にハザードが二回点灯する。

それを見届けた楓は踵を返して歩き出した、ふわりと花柄のワンピースが揺れる。

忍のお見舞いの帰り、面会時間ギリギリまで忍の側に居た。

月明りが高橋楓を浮かび上がらせる、少し物思いにふけながらゆっくりと歩く。

「恋人どうし・・・だから・・・して・・あげる。」

楓は立ち止まり、両手で頬を挟む。

「私・・・なんて大胆な事したんだろ・・・嫌われたり・・・しないよね。」

その後の行為を思い出し、更に顔を赤くする。

恋人同士がたどる順番、ABC・・Aは愛情、Bは信頼、Cはコミュニケーション。

表現的には一昔前だが、言葉にするとこれが一番わかりやすい。

でも楓が赤面する本当のABCは、Aはキス、Bはぺッティング、Cはセックス。

楓は自分の顔が緩んでいるのを自覚して、何とか普通に戻そうとする。

「自分から・・・誘っちゃった。」

自から忍の手を握り、自分の一番恥かしい場所へ導いた・・そして、忍に触れた、お互いが触れあい相手を求めた。もどかしい、この時ばかりは忍を守る包帯やギブスが憎らしいく思えた、肌に触れた手の温もり・・・指の・・・ここまで(B)だったけど・・・二人で幸せな時間を過ごした。

思い出すと顔が爆発しそうだった、二人の行為は恥ずかしくて口に出来ない。

「でも・・・良かった。」

ポツリと口にする、楓はお互いの体に触れ一歩も二歩も前進したような安堵感を抱いていた。

「うふ、この先は忍が退院してから・・・でも、忍も色々大変だから、また行かなくちゃ。」

楓はスキップしたくなる程、浮かれていた。


「いやっ!」

自宅に向かう道を歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

田舎の暗い夜道、後少しで自宅が見える距離、遠くの街灯の光が人影を浮かび上がらせていた。

「お姉ちゃん?」

楓は走り出した、直ぐにその人影が誰だかわかった。

お姉ちゃんの彼氏が、(本人は否定しているが)姉に襲い掛かっていた。

楓は走りながら、持っていたトートバックを振り上げた。

「なにやってるの!!」

怒号と共に姉を襲っている彼氏の頭に振り下ろした。

ノートパソコンの入ったバックで叩かれた彼氏が姉から離れる、何度もバックを振り上げ叩きつける、ドシッ!ドシッ!とバックが彼氏に当たるたびに鈍い音を立てた・

「この変態男!痴漢!」

「何をしてる!!」

大声が響き、その声と共に父が彼氏に躍り掛かった、そして馬乗りになり彼氏を殴り始めた。

楓は肩で息をしながらその様子を黙ってみていた。姉が彼氏の側に立ち何かを言っている。

「お姉ちゃん、家に入ろ・・・ここはお父さんに任せて。」

楓は姉に声を掛け、その震える肩を抱きしめた。




「月菜ちゃん、ありがとね。」

「おばあちゃん、お礼を言わなきゃなんないのはコッチ。」

神居家の実家、忍が事故に遭ってから約1か月留守にしていた、忍が歩けるようになるまで月菜と一緒にG県のアパートに住む予定だ。

事故当時、少しの荷物だけ抱えて来たが、入院も長引きそうなので一度家に戻り、自分の着替えと家の様子の確認も含めて一時帰宅していた。

月菜は父の命令で、お祖母ちゃんの荷物持ちとして一緒に来ている。

セミの鳴く声が夕日に赤く染まる庭に薄く響いている。

居間の窓が開け放たれ、蚊取り線香の煙が漂う。

縁側にパジャマ姿で座る美佐子の隣に、同じくパジャマ姿の月菜が座っていた。

二人の間にはスイカがお皿に並べられていた。

月菜がスイカに齧り付く、水分をたっぷりと含んだ音が聞こえる、美味しそうな音だ。

その孫を笑顔を浮かべながら見つめる。

「おいしい?月菜。」

月菜は口にスイカを沢山ほおばりながら頷く。

「月菜・・・聞いて良い?」

月菜はその二重の丸い目を、お祖母ちゃんに向けて無言の了承をする、まだ口の中はスイカでいっぱいなのだ。

「月菜・・・あなた、本当に忍の事が好きなの。」

お祖母ちゃんに向けていた視線を庭に移しスイカを飲み込む、すこし思案するような表情をして、またお祖母ちゃんを見た。

「お祖母ちゃん、私ね、パパがお母さんの話をするじゃない、そうするとパパ・・・遠い目をして凄く優しい顔をするんだ。」

美佐子は黙って続きを待った。

「それでね、最初はやっぱりお母さんの事愛してたんだな・・て、普通に思ってた。だってほら・・・私、お母さんの顔、写真でしか知らないから。」

月菜は縁側で足をぶらぶらと揺らし、遠くを見つめるように庭を見た。

「お母さんてどんな人だったのか、パパから聞くのが大好きだったの・・・良くパパに甘えながら聞いたな・・・」

「・・・・・・・・」

「でもね、それも小学生まで・・・中学になって、色々知ってさ・・・そのお父さんとお母さんの年齢差とか、お母さんが私を生んだ歳とか・・・なんか、ほら、中学生にもなると・・色々知識が増えるでしょ・・・うちはちょっと特殊なんだ・・って。」


美佐子は昔、両親の戸籍の入籍日と、自分の年齢が合わないのは何故かと月菜に聞かれ、言葉を濁した事があるのを思い出していた。

その後月菜に母の妊娠が発覚した時は、忍の年齢が若すぎた事を理由に一人前に働けるようになってから籍を入れたと話しをした。


「・・・・中学の2年の時かな、剣道の試合に負けて悔しくて泣いて、家でも泣いていたらパパが優しく慰めてくれて、私・・・パパに抱きついて大泣きして・・またお母さんの剣道の話をせがんで・・・そしたら、パパが凄く優しい顔になって・・・お母さんの話しを愛おしそうに話して・・・・それが、それが何だか悔しくて・・・私よりお母さんが大切なんだって。」


月葉さんが亡くなり、忍が月葉さんの実家に月菜と行った事は聞いていた。

そのおかげで角田家と今も付き合いがある。

月菜が剣道を始めたのを月葉さんのご両親が知って、月葉さんが使っていた剣道の防具一式と竹刀、それと学生時代の月葉さんの試合のビデオが送られて来たと聞いていた。

忍は何時か来る日の為に、そのビデオを何回も見たのだろう。


「でも、忍はお母さんと愛し合ったから貴方が居るのよ。」

孫に嘘をつかなければならない事に心が痛む。


「わかってる。でも私に向ける優しい笑顔と、お母さんの話をしたときに、まるで隣にお母さんが居るんじゃないかと思うような優しい笑顔が・・・私の時と全然違うの、それが悔しかった、その感情が嫉妬なのも分かってた。」


月菜はぷらぷらさせている自分の足を見つめている・・・月菜の足が止まる。


「・・・高校生になる頃には、完全に自覚していたと思う、自分の成長と共に、パパに対する気持ちまで大きくなって、本当は忘れなきゃ、親子なんだから、こんなの駄目なんだって、考えない様に剣道に打ち込んで、でも、でもね、一人になるとパパの事を考ちゃって。」


月菜はスイカを一つ取ると齧り付く、モシャモシャと口を動かし、プッと種を飛ばした。


「最近ね、気がついたんだ・・・パパの周りには沢山女性が居て、私なんかが太刀打ちできないような大人の女性だって事に・・・そしたら、そしたらもう抑えられなくなっちゃた・・結局、お母さんにも、パパの周りの女性にも嫉妬していたんだ・・・私が一番じゃなきゃ嫌だって・・・・そして、パパの事を・・本当に愛しているって気が付いたの。」


美佐子は孫の言葉に戸惑っていた、こんなにもハッキリと父親を愛していると言って退ける真っ直ぐな気持ちに。

いま孫は苦しんでいるはずだ、父親との恋なんて世間的にも許され無いのは言わなくても分かっているのだろう。

それでも愛していると口にする。美佐子はこの子を楽にさせてやりたいと思った。

本当の事を教えてやればこの子はもっと明るく、何の懸念も無く真っ直ぐにこの恋に進むことが出来るだろう。

美佐子は傍らに座る孫の頭を撫でた。

「お祖母ちゃん、くすぐったい。」

月菜が頭を縮こませながら笑う。

「月菜ちゃん・・・・・・貴方、お父さんに自分の本当の気持ちを伝えたの。」

美佐子は迷ったが思い切って聞くことにした、返答によっては息子とこの件について話さなければならないと思った。

美佐子は一人の女性として月菜にも幸せになってもらいたい、本当の事を教えて月菜の恋愛を成就させてやりたいとも思う。

「うん・・・事故に遭う前に、愛してるって言っちゃった。」

月菜が顔を真っ赤にして俯きながら答えた。

「それでね・・・お祖母ちゃん、これ、内緒ね・・・パパに、パパにね、キスしちゃった。」

最後は小声になりながら、真っ赤な月菜がモジモジしていた。

「まっ。」

美佐子は口に手を当て驚いた、しかし自分自身を落ち着かせ月菜を優しく見つめた。

「月菜ちゃん・・・お祖母ちゃんは、いつでも貴方の味方だからね。」

「ありがとう、お祖母ちゃん。」

月菜は祖母の腕に頭を寄せて、甘えるようにしがみ付いた。

美佐子は月菜の答えに狼狽していた、既に父親に告白してキスまでしている。

息子の忍を思い出し、「あの子も悩んでいるはずよね、こんな事誰にも相談できないでしょうし・・」とにかくG県に戻ったら機会を見て、息子と話そうと思った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ