Three Lives
今回もアダルトな内容が含まれています。
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宜しくお願いします。
「もう、心配したんだから、もう、もう許さないんだから!もう離さないんだから!」
外の騒ぎを聞きつけた両親が、家から飛び出してきた。
陽詩が座り込み、楓が達也を荷物で叩いている。
二人の娘を見た父親が、何かを察したのか達也に躍り掛かる。
「何をしてる!!」
父親が達也に馬乗りになり拳で殴りつける、殴られる度に抵抗するように両手を上げる達也。
「娘に、娘に何をした!」
父の怒号と拳が止まらない、暫くすると抵抗するように上げていた腕がだらりと落ちて父にされるがままになっていく。
「ご・・めんなさぃ・・ごめん・・なさぃ・・ごめん・・なさぃ・・・なぐらな・・いで。」
達也の切れた唇から嗚咽が漏れる。
陽詩は立ち上がり、開けたパジャマを両手で抑えて達也を見下ろした。
「・・・・・もう二度と、私と陽菜乃に近づかないで!」
「ごめん・・なさい・・ごめんなさぃ・・・・もう、しません・・」
泣きながら謝罪する達也に嫌悪の目を向ける。
「お姉ちゃん、家に入ろ・・・ここはお父さんに任せて。」
楓が陽詩の肩を抱きしめる、陽詩は肩にまわされた楓の手を握りしめた。
「ありがと・・・楓。」
「しのぶ君、何かして欲しいことある。」
病院のベットで窓の外に目を向けていた忍に月菜が声を掛けて来た。
ゆっくりと月菜に顔を向ける、まだ頭と右目は包帯に包まれている。
「大丈夫だよ・・・・」
左目を細めながら笑みを浮かべ娘を見る、青いデニムのミニスカートに白いTシャツ、私服姿の娘を見るのは久しぶりのような気がした。
夏休みに入った月菜は毎日のように病院に来ており、甲斐甲斐しく世話をしている月菜の姿を見て、看護師さん達から「まるで恋人みたいね。」と揶揄われている。
母は月菜が夏休み入ったタイミングと「面会謝絶」が解かれた事もあり、一時実家に戻っていた。
「そう・・・」
残念そうな表情を浮かべて丸椅子に座り、ベットに置かれた忍の左手を両手で包むように握る。
忍の全身を見つめ「早く良くなってね・・・忍君」祈るように包んだ手に額を寄せた。
忍の左足はけん引されており、自分で自由に動くことは当分できない。右手は手首の辺りから数本のボルトが突き出したまま固定され、このボトルを抜く手術も後で待っている。そして体は左の鎖骨から肋骨を包むように包帯と固定具が巻かれており、動くと痛いのか忍が顔をしかめている。
体から繋がる管は一本だけになり・・・ゆっくりと点滴が落ちていた。
忍はゆっくりと月菜の手を握り返す。
ある程度動かせる左手も、手首から上は包帯で包まれていた。
「月菜、ここは完全看護だし、せっかくの夏休みなんだから友達と出かけたら?」
「いや・・・しのぶの側にいる。」
「つくな・・・」
月菜は頑なに顔を振って拒否する。
「パパ・・・私、パパが酷い事故に遭って、パパが死んじゃうって思ったら、もっとパパの側にいればよかった・・・もっとパパに甘えておけばよかった・・・・後悔したの・・・だから、だから側に居たいの・・・パパ・・・私は、貴方を一人の男性として好きだから・・・それでも・・・ここに居ちゃ駄目?・・・・いる理由にならない?・・」
一気に月菜が忍に対しての気持ちを口にする、忍は俺たちは親子なんだと、月菜の気持ちを完全に否定しようとした。
「でも、俺たちは親子なんだ・・・わかるだろ・・。」
聞いているのか?ゆっくりと、月菜が忍の手の甲にキスをする。
「・・・・変なのは分かってるから・・・でも・・もう、我慢しないって決めたの・・」
月菜はゆっくり忍を覗き込む。
「しのぶ・・・・」
月菜は髪の毛を耳にかけると、ゆっくりと忍と唇を交わす・・忍の頬を両手で優しく抑えて舌を絡ませる。
されるがままの忍、力で跳ね返す事が出来ない・・頭の中が真っ白になる。
「はっ・・・うっん。」
舌を絡めては離し、何度もキスをする・・・・月菜の吐息が漏れる。
ゆっくりと唇を離す・・・じっと月菜の目が忍を見つめる。
まるで、大人の女性のような恍惚とし表情を浮かべ・・・・・
「しのぶ・・・私の鼓動を感じて、こんなに貴方を思うと・・・」
月菜は忍の左手をゆっくりと、自分の胸に導いた。
忍の手に月菜の柔らかい肌の感触と、早鐘のような鼓動が伝わる。
「・・・すごいでしょ。」
「つくな・・・駄・・・」
月菜がまた、忍と唇を交わす・・・・「忍・・愛してる・・・もう、離れない。」
病室のカーテンから洩れる強い光が二人に降り注いでいた。
遠くでカナカナカナとヒグラシが鳴いている。
K市総合病院、午後の強い日差しが日傘を差す高橋楓の影を伸ばす。
クリーム色に白い花がデザインされたひざ丈のワンピース。
首元が大きくVネックになっており、女性らしい鎖骨と小さなエメラルドのネックレスが揺れている。
神居忍の母、美佐子から「面会謝絶」が解かれたこと、しばらくしたら個室から大部屋に移動できそうだと状況の報告があった。
忍の母にお見舞いに伺いたいと申し出た所、少し迷ってから孫の月菜さんの話が出た。
お母様曰く、「忍が事故に遭ってからちょっと不安定な部分がありましてね、自宅でも感情の起伏が激しくて泣いたり、怒ったり・・それで、面会について・・少しお願いしてもよろしいですか。」
電話口のお母様が申し訳なさそうに話していた。
「神居さん、どこか痛いとか辛いところありますか。」
担当の看護師さんが、自由に動けない忍に気を使ってくれる。
「いつもすいません、でも今の所大丈夫です。」
軽く左手を上げ感謝を示す。
「そうですか。」
手にしたボードに記入し、何かに気が付いたように忍を見た。
「そう言えば、娘さんは?」
「月菜ですか、月菜は今日実家に行ってもらっています。」
「ご実家ですか。」
「ええ母が暫くこちらに滞在する為の衣類とかを運ぶ手伝いをしに・・・今日は実家で1泊です。」
忍は笑いながら看護師さんと話した。
「1泊ですか・・・・神居さん、寂しくないですか?」
ちょっと意地悪な顔をしながら看護師さんが笑った。
「いや、そんなことは・・」
「娘さん、よっぽどお父さんの事が好きなのね、あんなに甲斐甲斐しくお世話して・・・この間なんか、清拭のやり方を教えてくださいって。」
「・・・月菜がそんな事を・・・」
「そう、私がやりたいんです!て、なんかお父さんに他の人が触れるのが嫌なのかなって・・・みんなで話していたんですよ、もちろん私達の仕事なんで断りましたけど。」
忍は苦笑いを浮かべた。
「でも、神居さんと娘さんの仲が羨ましい・・・私、早くに父を亡くしてますから。」
そして忍から体温計を受け取ると「なにかあればコール下さいね。」そう言い残して病室を後にした。
遠くでヒグラシが鳴く声が聞こえる。
空調の聞いた病室にまで聞こえる程近くにいるのだろうか、窓のカーテンを開けても空と強い日差しだけが視界に入らない。
「はぁ・・・・」
月菜の事を考えながら溜息をつく。
「もう少し容態がよくなったら、楓の事、親子としての事、ちゃんと話をしなきゃ・・」
そして月菜の行動の全てを受け入れてしまっている自分を顧みる。
「お前どうかしてるよ・・・・・」
自分自身を戒めるように自答する。
溜息が自然と出た、そっと視線を上に向けるとイルリガードル台(点滴スタンド)と点滴が視界に入る。
点滴が落ちる姿をじつと見つめる忍。
コンコン・・・・コンコン。
病室をノックする音に我に返える。
「誰だろ・・・・」
忍は出入り口のドアに顔を向けた。
「どうぞ。」
ゆっくりと、ドアが開いた。
そこに、女性が佇んでいた。
「かえで・・・」
自然と口に出た。
楓はベットに横たわる忍をその場から動かずに見ていた。
手にしていた花束と日傘がゆっくりと病室に落ちる。
楓は両手で自分の口を押えるようにした、このままだと大声で泣き叫びそうだった。
目から涙が溢れる。
楓は落とした荷物を無視して、冷静に後ろ手にドアを閉めた。
もう、我慢する必要は無い。
「しのぶ!」
楓は走るようにベットに近づき、忍の姿を改めて見まわし、その場で膝から崩れ落ちる。
そしてベットにしがみ付くように泣き出した。
「しのぶ・・・しのぶ、心配、心配したんだから!ねぇ、体、大丈夫なの。もう大丈夫なの?」
「楓・・・」
忍は動く左手で、ベットにしがみ付く楓の頭を撫でる。
楓はその手を見つめ、両手で何かに縋るように握り自分の頬に押し当てる。
「よかった・・・ほんとうに、よかった・・・もし、貴方に何かがあったらと思ったら。」
楓がまた大声でしゃくりあげる。
「もう、心配したんだから、もう、もう許さないんだから!もう離さないんだから!」
しゃくり上げながら目と鼻をグズグズにして泣く楓を、忍は優しく見つめていた。
カナカナカナ・・・またヒグラシが遠くで鳴いている。