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無為

今回は暴力的な表現が含まれております。

注意してください。

「ふぅ~」

美佐子は眠っている息子を見ながら、花瓶に生けた花をベットの脇にある小さな台の上に置く。

そして丸椅子に腰を掛けた。

息子忍の容態は徐々に上方に向いており、最近では色々体とつながっていた管が少なくなっている。

病室は個室に移されたが、まだ基本的には家族以外は「面会謝絶」の状態が続いていた。

腕や足を覆うように包帯やギプスが体の殆どを隠している、その隙間から赤黒く変色した肌が見え隠れしている。

美佐子はその姿に苦しそうな顔をして話しかけた。

「忍・・・貴方、月菜ちゃんの事どうするつもりなの、あの子の気持ちに気が付いてるの。・・・・・それと高橋陽詩ちゃんとも会ったは・・・・今同じ会社で働いているんですって・・・・貴方知ってるの、陽詩ちゃんの気持ちを・・・」

話しかけても返事の無い息子を見つめる溜息をつく。

「はぁ・・・・もぅ、事故に遭うなんて・・・天国のお父さんが聞いたら何て言うかしら。」

忍の父は、4年前に病気で他界していた。

「お父さんが生きていれば、相談できたのに・・・」

今迄微動だにしなかった忍の指がピクリと動いた。

「か・・・ぁさん・・・ごめ・・・ん。」

忍の唇が薄く開き謝罪の言葉を口にした。

「忍!?」

美佐子は丸椅子から立ち上がり、上から忍の顔を覗き込むように見つめた。

顔の半分以上を包帯で包まれた忍、その目が薄っすらと開いていていた。

忍の意識が戻ってから初めて言葉を喋った。

美佐子は慌ててナースコールのボタンを押す。

「忍・・・しゃべらなくていいから、いま看護師さん呼んだから。」

忍は事故で頭を強く打っており、もしかしたら記憶に障害がでるかもしれないと言われていた。

忍の目はしっかりと母、美佐子を認識しており言葉を続けた。

「・・・つく・な・・は・・だ・・いじょ・・うぶ・・・か。」

「忍、しゃべっちゃだめ・・無理しないで、月菜は大丈夫、私が付いているから。」

美佐子の目に涙が零れそうになる。

「よかった・・・・」

また一つ、明るい要因が増えた。

「失礼します。」

その声と共に、看護師と医師が医療用カートと共に入室してきた。

「先生、お願いします。」

美佐子は医師に頭を下げる。

医師は笑顔を浮かべながらうなずくと、忍に処置を施していた。



ピンポーン!

玄関のチャイムが鳴る音がリビングに届く。

陽詩はお風呂上りのパジャマ姿に、薄手のカーデガンを羽織り玄関に向かった。

「はーい。今行きます。」

玄関の引き戸をガラガラと開けると、玄関の街灯に照らされた今泉達也が真剣な表情で立っていた。

「達也・・・・」

陽詩はあの日、強引にキスをされてから達也との連絡を絶っていた。

「あの・・・少しだけ、話が出来ないかな。」

「・・・・・・」

達也は陽詩から視線をそらす、達也からお酒の匂いがする。

「達也、貴方お酒を飲んでるの?」

「ああ、ちょっとね・・・・」

バツが悪そうに逸らした視線を上目遣いに変えながら口にする。

「あの、少しの時間でいい・・・・・あの、何もしない、約束する。」

陽詩は達也をじっと見た、どちらにしろ自分も達也にハッキリとした答えを言わなければならないと思っていた。

「わかった・・・」

陽詩は玄関に有ったサンダルに足を入れると外に出た。

自宅の敷地を出て少し横に行った生垣の前で立ち止まる、自宅は生垣がぐるっと囲うように覆われている。

ここなら玄関がいきなり開けられても二人の姿が見える事も無く、多少のプライベートは保たれる。

ちょっとした陽詩の気遣いだった。

田舎の住宅街の街灯はポツリポツリと点在しているぐらいで、遠くの街灯が二人を何となく浮き上がらせている程度だった。

陽詩は生垣を背に達也に向かい合った。

達也は意を決したように陽詩を見つめ深々と頭を下げた。

「陽詩・・・この間はごめん!俺が・・・俺が悪かった!本当にごめん。」

頭を下げる達也に陽詩は一瞬、嫌悪にも似た感情が湧き上がる。

「達也、あの事は良いわ・・・私も子供じゃないし・・」

そう答えると達也は顔を上げた。

「じゃぁ・・・ゆるしてくれるのか・・」

「許すも何も・・・貴方に話す事があるの。」

陽詩は睨むように達也を見た。

「達也、貴方には陽菜乃の事も含めて感謝してる、ありがたいと思っているわ。」

「・・・・・・・・・・それって。」

「この間の貴方からのプロポーズ、ごめんなさい・・・受けられない。」

「えっ・・・・・・それは。」

達也は目を大きく見開き陽詩を見つめたが、視線を外し俯いてしまった。

達也の両手に力が入る。

「達也・・・ごめん。」

「・・・・僕は・・・僕は君を愛してる。」

俯いていた顔を上げ、陽詩を睨むように見つめている。

「陽詩・・・だれか好きな人がいるの、居ないのなら僕と・・」

「・・・達也、貴方には関係ない、貴方とはもうかかわらないようにするわ。」

「ちょっと、まってくれ陽詩。」

「ごめんなさい。」

陽詩はそう言い残すと達也に背を向けようとした。

「陽詩!」

小さいが力のこもった声を上げた達也が、背を向けた陽詩の肩を掴んだ。

「なっ!」

カーデガンとパジャマが引っ張られ、両肩を生垣に押さえつけられた。

「達也・・・・」

達也は陽詩に怒ったような表情を向けていた。

「君は・・・僕と一緒になるんだ。」

達也が押さえつける陽詩に体を寄せる、そして首筋に達也の唇が触れ酒匂い息が鼻につく。

「いやっ!」

陽詩は逃れようとして、なんとか生垣から体を離す。

「陽詩!」

逃げようとした陽詩のパジャマに手がかかる、ビリッ!音と共に陽詩のパジャマのボタンが弾け、白い肌と豊かな乳房が露になる。

「陽詩、陽詩!!僕と、僕と。」

後ろから達也の腕が伸び、陽詩の乳房を鷲掴みした。

「いやぁ!!」

陽詩は達也と二人きりで外に出た事をこの時初めて後悔した。

普段大人しい達也が・・・抗えない、これが達也なのか。

「なにやってるの!!」

行き成り怒号が響き渡り、バンバンと何かを叩く音が響く。

達也の腕が何時の間にか離れていた。

地面に座り込む陽詩、その眼にはトートバックを達也に叩きつける妹、楓の姿が映る。

ノートパソコンでも入っているであろう、重い音が響き渡っていた。




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