それぞれの思い。
宜しくお願い致します。
「陽菜乃、流すからね。」
「うん。ママ」
陽詩はそう言うと陽菜乃の体をシャワーで流す。
全身を洗った陽菜乃を湯船に入るように促し、自分もシャワーを使う。
「陽菜乃、湯船に入って温まりなさい。」
娘が湯船に入り、自分も後から一緒に湯船に浸かる。
「ふぅ・・・・・」
お風呂の温かさが陽詩を包む、陽詩は神居忍の母との会話を思い出し溜息をつく。
「私は、忍さんを愛していますから。」
自分でもなんて事を好きな人のお母さんに言ってしまったのかと赤面する。
娘の陽菜乃と向かい合いながら湯船につかる陽詩に、不思議そうに娘が首を傾げる。
「ママ・・・何か良いことあったの?ママ笑顔。」
「えっ。そう、・・・普通だと思うけど。」
取り繕うように娘の頬を両手で挟み、ウリウリと撫でる。
娘はジッと母親を見つめると何かを納得したように、大人びた真似をして腕を組んだ。
「ママ、達也オジサンと恋人同士になるの。」
「なっ・・何を言ってるの陽菜乃。」
娘のいきなりの言葉に慌てる、陽詩は小学校2年生、8歳になった娘をマジマジと見つめた。
小2ってこんなにませていたかと自分を振り返る。
「だってママ、達也オジサンと良く一緒に出掛けるし、そういうのデートなんでしょ。」
娘が真剣な顔で母を見つめている。
「おばあちゃん達が前に、ママはそのうち達也オジサンのお嫁さんになるって言ってた。」
湯船のお湯がポチャリと音を立てた。
「陽菜乃・・・」
陽詩は陽菜乃を自分の胸に抱く。
「あのね、達也オジサンは仲の良いお友達なの。」
「そうなの・・・じゃあ、お嫁さんにならないの?」
「うん。」
娘は顔を上げ、母を見つめた。
「・・・・・ねぇ、陽菜乃。」
「何、ママ。」
陽詩は笑顔で娘をみて、その頭を撫でた。
「もし・・・もしもだよ。お母さんに好きな人が出来て・・その人のお嫁さんになりたいって言ったらどうする。」
娘は一瞬キョトンとした顔をした。
暫く黙って母の顔を見つめていた娘が笑顔を浮かべ母に抱きつく。
「ママが好きな人なら、陽菜乃も好きだと思うよ・・ママお嫁さんになるの?」
陽詩は娘に笑顔を向けながら「うん、お母さんもお嫁さんになりたいの。」
ポツリと口にした。
陽詩はお風呂場の天井に目を向ける。
「忍・・・わたし、今度こそ・・・貴方の側を離れない。」
小さく呟いた。
「お前が良いのなら、父さんと母さんは何も言う事は無いよ。」
「ありがと、父さん、母さん。」
自宅のリビングで父母を前にして楓は顔を上気させていた。
今、神居忍との交際の事を両親に話したところだった。
父母と楓の前には湯呑が置かれている、既にお茶は冷めていた。
楓は温くなったお茶に口を付ける。
すると母が心配そうに楓を見つめ・・・
「その、神居さんは大丈夫なの。」
父母に自分達の馴れ初めを正直に話し、自分の立場を尊重してくれる彼の事、そして彼がバツイチで高校生の子供がいる事、彼の娘が自分のクラスの生徒だということ、学校への対応の事、全てを話して両親に交際について納得してもらった。
彼を一度連れてきなさいと言う父母に、楓は彼が交通事故に遭い入院している事実を伝えた。
「回復に向かっているみたいから安心して。」
まだ、表立って交際する前に事故にあった忍、見舞いにも自分は行けてない。
そして、彼の娘の月菜さんの事・・・・
色々な事が頭の中で絡まる、ひとつひとつ解決しようと、まずは両親に忍との交際の報告をした。
「後はお姉ちゃんにも話をしないと。」
両親との話を終えた楓は、自室に戻るとベットに腰を掛けた。
「ふぅ・・・・・」
大きく息を吐いて、部屋着に着替える。
学校から帰って直ぐに、リビングに居た両親の顔を見た瞬間「話さなきゃ」そう思い立ち忍との交際の話をした。
「父さん・・・母さん、ちょっと真面目な話があるの・・今良い?」
誰でもいい、忍との仲を誰かに認めてもらいたい、誰かに少しでも忍との関係の話をしたい、忍との関係の既成事実のような物が欲しかった。
忍からの言葉が心に響く・・・
「僕でよければ、一つ一つ積み上げさせて欲しい。」
すくった水が指の間から洩れるような不安定な関係から、確実なものへと一歩でも進めたかった。
忍が事故に遭った事で進めたはずの時計の針が止まってしまい、少しでも針を進めたくて両親に話をした。
両親の顔を見るまでは、忍が元気になってから・・・そう思っていたのに。
「何を焦っているの・・・」
自分に言い聞かせる。
薄手のブラウスのボタンを外しながら、学校に来た忍の母と娘を思い出す。
「神居月菜」
そう口にする。
今日の彼の娘さんの反応を思い出す。
ブラウスから腕を抜き、ベットの横にある机の椅子に掛ける。
薄いピンク色のブラジャーが白い肌に似合っている。
スカートのホックを外し足を抜く。
同じように椅子に掛けた。
肌色のストッキングを脱ぐ、ブラと同デザインのショーツが楓を包んでいる。
楓は月菜の言葉を思い出していた。
「私は・・・私は、先生に来てほしくないし、パパだってパパだって先生なんかに来てほしくないと思う。」
下着姿のまま、ベットに座り込む。
暫く考え込むように座っていたが、そのままベットに倒れ込む。
部屋の蛍光灯の灯りがまぶしく、手の甲で光を遮った。
「・・・・・まさかね。」
楓はその答えを打ち消すように立ち上がり、ブラのホックを外し椅子に放り投げた。
楓は自由になった豊かなふくらみを隠すように、自分を抱きしめる。
「しのぶさん・・・」
愛しい人の声と顔を思い出しながら名前を呟いた。




