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私達は味方だよ。

宜しくお願いします。

その店は大通りから一本中に入った住宅街の中にある。

通常の家屋の一階部分が店舗となっており、店舗兼住宅のこじんまりした街の中華屋だ。

店内は4人掛けのテーブル席が三卓、一人掛けのテーブルが2卓、そして畳敷きのあがりがあり、そこにも4人掛けの座卓が3卓ある。

その4人掛けのテーブルの一つに、月菜、麗羅、和美の3人が黙々とラーメンとチャーハンに向き合っていた。

「でも月菜、本当に大変だったね。」

ラーメンを啜りながら麗羅は上目遣いに月菜を見た。

「うん、一時はどうなるかと思ったけど・・・でも、回復に向かってるし。」

「でも、まだ家族以外は面会できないんでしょ。」

今度は和美がチャーハンに手を付けながら聞いてきた。

「・・・・うん、ひどい事故だったみたいから。」

和美と麗羅は心配そうに箸を止めた。

「月菜、何かあったら言ってね、私達で出来ることがあれば何時でも協力するから。」

その言葉を聞いた月菜は箸を丁寧に食器の上に置くと、姿勢を正して頭を下げた。

「ありがとう、和美、麗羅、二人にこの学校会えてよかった。」

少し涙声になりながら月菜は笑顔を浮かべる。

「私達だって。」

二人もつられて笑顔を浮かべた。


「そういえば月菜、お父さんが事故に合う前に何か良い事があったて言ってたじゃない。」

和美がしんみりした雰囲気を変えようと、思い出したように明るい声で月菜に聞いてきた。

「え?」

一瞬、月菜は戸惑った。

「・・・・・・・」

和美と麗羅は沈黙する月菜に、なにかマズイ質問をしたかと顔を見合わせた。

「和美・・・麗羅、二人は・・・二人は私の友達だよね。」

「何を今さら言ってるの。変なこと言うと怒るわよ。」

麗羅が眉根に皺を寄せながら頬を膨らます、隣で和美が頭を縦に振り同意している。

「・・・・私が、もし変な奴だったとしても?」

「変・・・って、どう変だか知らないけど、それも含めて友達でしょ。」

麗羅が続けて答え、隣で和美が頭を縦に振り同意している。

「もし・・・それが、それが、世間的に許されない事でも・・かな。」

月菜は少し俯きながらつぶやいた。

「世間的に許されない事って?まさか、まさか、月菜犯罪に手を染めたの。」

和美が驚いた顔をしながら叫ぶ。

来々軒の店内にいる従業員が3人に何事かと訝しむ顔を向けた。

「しーっ!声が大きい和美!」

麗羅が思わず和美の口を手で押さえた。

「〇▽×!◇×!!!」

何か和美が騒いでいるが、口を押さえられて声が出せない。

「静かにできる?」

麗羅に言われて頷く和美、麗羅は口を押えていた手を外した。

「ふー、ふー!死ぬかと思った・・・」

そんな二人のやり取りを見ていた月菜が笑う。

「食べ終わったら、外で話そう。」

月菜はそう言うと、ラーメン・チャーハンに黙々と向かい合っていた。



夕暮れの公園に黒く伸びる影が3つ並んでいた。夏服の白いシャツに消炭色のチェック柄のプリーツスカートを夕日が赤く染め上げている。

3人は公園の芝生の上を横並びで歩いていた、たわいのない話を繰り返しては笑う。

月菜は、麗羅と和美の前に進んで、二人に振り向きカバンをお尻の後ろで持ちながら、二人に笑顔を向けた。


「私ね、好きな人が出来たの。」

麗羅と和美は目を大きく見開いた。

「え!この間言ってた良いことってソレ!?」

「え!えっ!え~!なに、それ誰、うちのクラス、そっそれとも別のクラス!!!」

二人は同時に月菜に向かって反応した。

月菜はハニカミながら、体を少し揺らし前髪を手で耳の後ろに流す。

「学校の人じゃないんだ・・・」

「何それ、それって事は・・・月菜いつの間に?」

「ねぇ月菜、それってどんな人?私たちの知っている人?」

和美と麗羅が順番に攻めるように質問してくる。

「わたし・・その人の事がずっと前から好きだったの・・でもね、中々言い出せなくって。」

月菜は少し愁いを帯びた表情を浮かべた・・・広い公園の遠くから子供たちの笑い声が聞こえる。

真剣な顔をして次の言葉を待つ二人。

「でも、この間機会があってねぇ・・・好きです・・愛してるって言っちゃった。」

月菜は嬉しそうに頬を緩めて空を見上げた。

「え!・・・・何々、告白したの!!!」

「うん・・・・勢いで言っちゃった。」

月菜は二人に背中を向けた。

「その人の周りにね・・・女の人が沢山いてね・・・言わないと、はっきり言わないと、誰かに・・その中の誰かに奪われそうだったから・・・」

「きゃー!つくな~大胆!!」

和美が食いつきそうな勢いで月菜に抱き付きそうなのを麗羅が抑える。

「ちょっと和美、落ち着きなさいよ。」

「そっ・・それで。」

鼻息が荒い和美。

「その人に・・・その人にキスをしちゃった。・・・」

「・・・・・・・・・・」

麗羅と和美が固まる。

二人は頬に両手を当てながら、体を震わせた。

「つくな・・・・大胆!いやー!キス!キス!えー!まさかファーストキス???」

こくりと頷く月菜。

「きゃぁ~!!!!」

和美と麗羅は抱き合った。

「それで、それで、相手は?」

二人は体を前のめりにして月菜の答えを待った。

「・・・・・・・和美、麗羅・・・私、私ね・・・多分変なの。」

「・・・・・・・・変?」

二人の声が合わさる。

「そう・・・多分、・・でも気持ちを押さえられなくって・・誰に取られたくなくって。」

「月菜・・・・」

いきなり月菜の態度が変わったことに驚く二人。

「わたし・・変なの、自分のすべてを捧げてもいいから、自分だけの人になって欲しいと思ってる。」

「・・・・月菜、でも人を好きになるって、多分そう言う事だと私も思う。」

麗羅が月菜の後ろ姿に答えた。

月菜の肩が震えている。

「麗羅・・・和美、もし、もし、私の事が変だと思ったら、もう・・付き合いたくないと思ったら、このまま居なくなって・・・私が背中を向けているうちに・・・ねぇ。」

「何を言ってるの?月菜?」

二人は顔を見合わせた、後ろ姿の月菜の表情はわからない。

月菜はこの二人には隠し事はしたくなかった、話してしまえば友達関係も崩れるだろう思った。

でも、いつかはバレてしまうであろう、自分の気持ちを後で知られるよりも先に知っていて欲しいと思った。


「私ね・・・私・・・パパを愛してるの、どうしようも無いほど・・狂おしいほどに、パパが好きで、忍を愛していて、忍のすべてが欲しくて・・・誰にも渡したくなくて、強引にキスをして、ねぇ・・こんなの変でしょ、親子なのに・・親子なのにパパを愛していて・・・全てが欲しいなんて思っていることが・・変でしょ・・・。」

月菜の後ろ姿が夕日に染められている。

月菜は二人が去ることを覚悟していた。

二人が去るようなら、自分も二人と縁を切り忍と何処か遠くへ行こうと思った。

「月菜・・・・・」

二人が自分を呼ぶ声が聞こえて、後ろから二人の腕が月菜を包み込む。

そして自分を挟むように二人に抱きしめられた。

「月菜・・・辛いね。」

「月菜、私達は貴方の友達だよ。」

麗羅と和美の優しさと、温かさが伝わる。

月菜の両目から涙が頬を伝う。

「わたし・・・わたし・・変なのに、異常なのに・・・」

「そんな事ない!愛しているなら仕方がないじゃない。」

「・・・わたし、良くわからないけど、愛してる、好きって気持ちはわかる、だから応援する。」

「ありがとう・・・麗羅、和美・・・ありがとう。」

夕暮れの公園で3人の影が一つになって遠くまで伸びていた。



麗羅は月菜の告白に戸惑っていた。

肉親に恋愛感情を抱くなんて有り得ないと思う反面、自分の読む漫画や小説などにも題材として出てくるのをドキドキしながら読んでいる自分もいる。

自分の少ない恋愛経験、初恋・・・そして今もクラスの中に気になる男子がいる自分。

なんでこの男子なんだろう、なぜ気になるのだろう・・・理由?そんなの・・・気になるから、好きになったから、だから相手に触れたい、触れられたい・・一緒にいたい・・この気持ちを何時かは相手にわかって欲しい。

人を好きになるのに理由なんて・・・答えられない・・・否定なんかできない。

なら・・・月菜はどうなの?・・・多分同じだと思う。

自分と変わらない・・・ただその相手が、世間が認めないと言うだけ。

だったら私は月菜の味方をする。



和美は月菜の告白に戸惑っていた。

「え!!!!!!!!相手は父親??」一瞬そう思った。

でも誰を好きになるかなんて分からないと思った。

明日は自分かもしれない、相手を否定することは簡単だと思った、「変人」そう一言で括ってしまっていいのだろうか?

そんな事は無い、誰かを好きになるなんてそんなに簡単な事じゃない、相手を好きになるのは色々な事の積み重ねだと思っている。

例えば、優しさの積み重ね、気遣いの積み重ね、付き合いの積み重ね、楽しい体験の積み重ね・・・幾重もの積み重ねが相手に対する恋愛感情になるのではないかと思っている。

月菜の場合も多分幾重にも重なったものが有るからに違いない。

否定なんて出来ない、結末はわからないけれど応援したいと思った。


二人は月菜の独白を聞いた。

「私達は月菜の味方だよ。」

二人で月菜を抱きしめた・・・大声で叫びたかった。




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