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母、美佐子。

宜しくお願いします。

          挿絵(By みてみん)

           ※「ふぅ、ほんとに暑いわね・・ここね。」



G県の夏は日本全国1位を何度も更新するほどの暑さだ。

忍の母は忍の勤め先のビルを日傘越しに見つめながら汗を拭いていた。

「ふぅ、ほんとに暑いわね・・ここね。」

神居美佐子は、日傘を畳むとエントランスに足を踏み入れる。

フロアー内は空調が効いており、一気に体感温度が下がる。

「ほんと・・・ここにずっと居たいわ。」

トコトコと、クリーム色の上品なマキシ丈のワンピースをふわふわさせ、エレベーターに向かう美佐子。

「あら・・忘れてたわ。」

美佐子は独り言を呟くと、頭にかぶったブルーのリボンがアクセントのつばの広い麦わら帽子を脱いだ。

エレベーター内に機械音が響き、目的のフロアーに着いたこと知らせてくれる。

美佐子はエレベーターを降りると、目の前に掲げられている会社名を確認するかのように見つめた。

社名の掲げられた壁の前にカウンターが設置されており、案内が掲示されていた。

「お客様が御用のある部署の内線番号を押してください。」

そう掲げられた案内板を見つめた。

「えーと、何て言ったかしら・・」

案内板と睨めっこを始める美佐子。

「・・・・・小さくて読めないわね・・・もうすこし年寄りに優しくしてほしいわ。」

小首を傾げながら覗き込むようにしている美佐子。

「あの、失礼ですが・・・弊社に御用ですか?」

美佐子は後ろから声を掛けられ、声の主に体を向ける。

そこには笑顔を浮かべた、前田京子が立っていた。



「そうですか、そうですか、うちの忍がお世話になっております。」

美佐子が深々と頭を下げる。

「いえ、私達の方がいつもご迷惑ばかり・・・」

前田京子も頭を深々と下げる。

前田さんが営業から戻った所に、受付で案内板と睨めっこをしていた初老のご婦人を見かけ声を掛けた。

それが神居課長のお母様だとわかり、お互いで挨拶を交わし今に至る。

「お母様、こちらに・・・案内します。」

「そうですか、ありがとうございます。」

美佐子は前田さんの後を付いて行く。

社内ですれ違う誰もが前田さんの後ろに付いて歩く、初老の女性に会釈をしてとおりすぎる。

「お世話になります・・」

その度に美佐子も挨拶を返す。

「こちらでお待ちください。」

10畳ほどの広さを持つ会議室に通された美佐子は、大きな窓ガラスから見える赤城山を見て、ほっと溜息をついた。

そして先程案内をしてくれた、前田さんの容姿を思い出していた。

忍の部下だという前田さん「忍の嫁に来てくれないかしら・・・美人だし、優しいし・・」

そんな独り言を呟いていると。

コンコン、ノックする音が部屋に響く。

「失礼します。」

その声と共に、禿頭のおなかの大きな男性が入室してきた。

「初めまして、吉田と申します。」

美佐子も深々と頭を下げた。

「神居忍の母です、この度はご迷惑をお掛けしております。」



2時間程経っただろうか、美佐子は忍の会社を後にした。

忍の容態を上役だと言う太った人に話をして、暫くは有給扱いで回復を待つ事になった。

長年勤めている会社なので、有給休暇の日数もそれなりにあるらしい。

忍の容態を美佐子から連絡することで話が終わった。


ビルの出入口に立つと、美佐子は麦わら帽子をかぶり優雅に日傘を差す。

ふわふわとワンピースの裾を揺らしながら歩く、これから忍の病院に行くつもりだ。

暫く歩くと急に後ろから声を掛けられた。

「あの・・・もしかして、忍のお母さん・・ですか。」

美佐子は声の主に体を向けた、そこには見知らぬ女性が佇んでいた。

「・・・・・」

「やっぱり、忍、神居忍さんのお母さんですよね・・・わ・・私です。」

「・・・・・」

美佐子はその女性の顔をマジマジと見つめた。

その女性は、胸を手で押えるようにして美佐子を見つめていた。

「わたしです・・むかし、昔、忍さんとお付き合いさせていただいていた、陽詩です・・高橋陽詩です。」

下田陽詩は思わず旧姓を口にした。

美佐子は何かを思い出したような驚いた表情を浮かべた。

「陽詩ちゃんなの?まぁまぁ・・・大人になって・・・」

「・・・お久しぶりです、お母様。」

下田陽詩は深々と頭を下げた。

神居美佐子は陽詩に近寄りその手を自分の両手で包み込んだ。

「まぁ、立派になって、でも・・・どうしてここに?」

美佐子は小首を傾げながら陽詩を懐かしそうに見ていた。



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