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別れ・・・

宜しくお願いします。

地下鉄の車内で、窓に映る自分の顔を見つめる。

「メイク・・・大丈夫よね。」

そんな独り言を口にしながら、笑顔を浮かべてみる。

今朝は、ちょっと気合を入れたつもりだ。


全身鏡の前で下着姿の高橋陽詩は、横を向いたりしながらお腹の辺りをさする。

「よし。」

今日久しぶりに、恋人の神居忍と会える。

忍の就活や就職に伴う研修、そして卒業式などでここ数か月、電話で話すのが精一杯だった。

久しぶりのデート、陽詩は忍におもいっきり甘えるつもりだ。

陽詩は今着けている下着を脱ぎ、ベットに置かれていた真新しい下着を手に取る。

緑に白の刺繍が入った、レースとシルクの下着。

ブラのストラップに手を入れ、優しく自分の乳房を包み込むようにする。

背中に両手をまわしホックを留め、ストラップの位置を直しながら乳房をブラの中に収める。

姿見に映る自分の姿を確認しながら、「しのぶ・・・よろこんでくれるかな。」

ブラのレースの部分から薄っすらと隠している部分が見え隠れする。

陽詩はショーツを手に取り、両足を滑り込ませるとゆっくりと引き上げた。

ブラと同じデザインのショーツ、姿見に映る自分体を後ろを見たり、前に屈んだりしながら確認する。

ショーツも隠す部分は隠れているが、レースの部分から薄っすらとアンダーヘアーが見えている。

「ちょっと・・背伸びしすぎたかな・・・」

そんな事を呟いたが、陽詩は内心自分のスタイルに自信を持っている、身長は155センチと小柄だが、バスト83・ウエスト内緒・ヒップ85・・

「よし!似合ってる、大丈夫。」

そう口にすると、ストッキングに手を伸ばした。



待ち合わせの公園に10分前には着きそうだ。

この公園の出入り口には有名な花屋があり、その近くには日本の老舗ホテルが建っている。

公園の中を進むと、大きな噴水が目に入った。

噴水の周りには沢山のベンチが設置され、カップルや親子などが思い思いに過ごしている。

春を少し過ぎた公園の木々は緑色に染められていた。

何時もの待ち合わせ場所、その噴水の近くに神居忍の姿が目に入った。

「忍!」声を上げ、忍のそばに駆け寄ろうとしたが、違和感を覚え足を止めた。

緑のVネックロングワンピースに、黒のヒールとハンドバック・・少し背伸びをした自分のお洒落について、一番に感想を聴こう・・・そう思っていた。

しかし、忍の横には小さな女の子が忍の手を掴んでいた、そして女の子の反対の手は、ほっそりとした女性の手を握っていた。

違和感のもと・・・・

「まるで、親子。」

周りのはそう見えているだろう。

忍はしゃがみこむと、女の子の頭に手を乗せ何かを笑顔で話している。

忍は女の子の手を放し、立ち上がると陽詩の方にゆっくりと歩いて来た。

白いポロシャツにジーンズ姿の忍を見つめる。

忍は陽詩の前に立つと「久しぶりだね。陽詩。」

そう寂しそうに言った。

陽詩は少しやつれた忍に目線を向け「あの・・・人達は?」

そう言って、少し後ろで佇む女性と子供を見た。

女の子が、女性に話しかけている姿が目に入る。

忍は後ろを振り返り、二人を見ると視線を陽詩に戻した。

忍が陽詩の視線から逃れるように俯く。

「・・・あの、人達・・・いや・・あの二人は・・」

たどたどしく話し、忍の肩が震えている。

「・・・あの二人は、僕の・・・家族・・・つまり・・妻と娘・・です。」

陽詩は忍の言った言葉の意味が理解できなかった。

「陽詩・・・高橋陽詩さん、今迄すいません!僕と・・・僕と別れて下さい。」

忍が頭を下げながら吐き出すように叫んだ。

頭を下げたままの忍から、地面に向かってボタボタと涙が零れるのが見えた。

陽詩は唖然としてしまい、とにかく冷静に頭で理解しようとした。

「・・・・しのぶ、・・・妻と娘って・・・娘さんて幾つなの?」

陽詩は割と冷静な自分に驚く。

「・・・・・・・・3歳・・・」

苦しそうに答える忍。

「そう・・・・私、騙されてたの?・・ねぇ・・忍、貴方にとって私は何?」

頭の中が冴えていく・・・

「ずーっと・・・何年も騙されていたんだ・・・」

そう答えながら陽詩は笑っていた。

何かを問いただそうと思ったが何を聞いて良いか分かない、全然悲しくなかった、むしろ笑いが込み上げてきて怖いくらい冷静に頭が働く。

そして・・・・怒り、ずっと騙されていたのかと怒りが込み上げる、そしてずっと騙されていた自分の馬鹿さ加減に対する怒り。


パーン!


公園に響く音、陽詩が平手で忍の頬を叩いた音が噴水の音と重なる。

忍は叩かれた勢いで、膝をついていた。

陽詩は忍を睨みつけた。

「あなたは・・・絶対に許さない。」

こう吐き捨てると、後ろに佇む奥さんと子供を睨みつける。

その視線を受けた奥さんは目をそらすことなく、そして苦しそうに、何か言いたげにしながら深々と頭を下げた。

・・・その瞳から涙を流しながら。

陽詩は忍達に背を向け走り出した。

不思議な事に涙は出なかった・・・泣いたら自分が惨めだと思った。

これが神居忍との最後の記憶、後の事はどうだったか・・神居忍を忘れるのに必死だったかもしれない。



それから何人かの男と付き合ったし、刹那的な関係もあった。

大して好きでもない男と付き合い、酷い別れ方をした事もあった。

そしてそんな付き合いの中で地味だけど、真面目な男と出会い結婚をして陽菜乃を授かった。

しかし、その結婚も長続きしなかった。

離婚の原因らしいものは特に無かった、夫が浮気をしたわけでもない、私が浮気したわけでもない、夫婦間で何か特別な争いがあったわけでもない。

旦那の方から切り出された離婚、特別これと言った感情は浮かばなかった。

離婚も円満離婚、お互い慰謝料や財産でもめなかった。

ただ、最後に旦那に言われた言葉だけが心に残った。

「君は、誰と結婚したんだろうね。」

この言葉の意味を、数年後に思い知らされるとは思わなかった。


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