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大人の女性(ひと)

今回も少しアダルトな内容が含まれています。

その様な表現が嫌いな方は、トップページへお戻り下さい。


          挿絵(By みてみん)

   ※ゆっくりと自分の指がパジャマの中を滑る・・指・・・止まらない指。




神居月菜は職員室に向かう廊下を歩いていた。

今日の昼休み、担任の高橋楓先生に放課後職員室に来るように言われたからだ。

思い当たる節は、先生に公園で時間を潰している所を見られていた事しかない。

「変な所を見られたからな・・・」

そう頭で考えながら職員室に行くと、すでに待っていた高橋先生にパーテーションで区切られただけの応接室にとおされた。

高橋先生は月菜に座る様に即す、職員室に鳴り響く外線、それに対応する教職員や雑談に興じる先生方の喧騒が耳に入る。

「・・・月菜さん、その後はどう。」

月菜の前に座りバインダーを片手に万年筆を手にしている。

紺色のタイトスカートから延びる足を揃えて、前屈みに月菜に体を寄せた。

前屈みになった先生のブラウスの胸元から、豊かな双丘が見え大人な感じの下着が見え隠れする。

先生の言う「その後」とは公園で時間を潰していた事だろう。

父親と何かあったのかと問われたが、父とは何も関係が無いと答えて誤魔化していた。

「そう、少し心配していたものだから・・・」

高橋先生は、黒目勝の瞳を少し細めながら溜息をつくように呟く。

「今もまだ、朝早くあの公園で本を読んでいるの?」

「いえ・・いまは普通に・・・はぃ。」

月菜は先生の顔を真っ直ぐに見ながら答えた。

「そう・・・なら良いのだけれど、本当に何も無いのね。」

高橋先生の覗き込むような視線。

月菜は何か言いたそうな高橋先生を見つめる・・・高橋先生は万年筆のインクの出が悪かったのか2~3度右手を振った。

「・・・・・?・・この香り・・」

月菜は高橋先生が動いた時に微かに感じた薄い香りに気が付いた。

数日前に遅く帰った父親からした香りと一緒。

大人の女性の香り・・・・手首や足首に少しだけ付けられた香水。

月菜は、目を大きく開き高橋楓先生を見つめる。

「まさか、高橋先生と・・・・忍君が?」

大きく頭の中で疑問符が浮かぶ、どこにそんな接点が・・・月菜の頭が混乱する。

高橋先生はゆっくり口を開く、そのルージュが薄くひかれた唇から吐息が漏れる。

「月菜さん、先日お父様に時間を取って頂きました。」

高橋先生のストレートの黒髪が、白いブラウスを滑るように垂れる。

「・・・・・・・」

「お父様との事、少しお話を聞きました。」

そう言うと、高橋先生は髪の毛をかき上げながら後れ毛を耳に掛け、優しい笑顔を月菜に向けた。

月菜は俯くしかなかった、膝に置いた手に力が入りスカートを掴む。

間違い無い・・・高橋先生の香水・・・そして忍君と高橋先生は会っていた。

月菜の心が乱れる、担任の先生と忍君が自分の知らない所で会っていた。

そして忍君に付いた残り香・・・同じ香水の香り、相手に触れなければ移るはずの無い香り。

タイトスカートから延びる綺麗な足、そして白いブラウスに包まれた豊かな胸と細い腰、万年筆を持つ指には肌色に近いマニュキュアが塗られ綺麗に光っている。

まだ子供の自分には無いものをたくさん持っている大人の女性。

そもそも同じ女として、比べる事すらおこがましいのかも知れない・・

「月菜さん?」

黙ったまま俯く月菜に、高橋先生が声を掛けた。

「・・・・そんなの・・やだ。」

月菜が呟いた。

「どうしたの?月菜さん?」

高橋先生が訝しむように声を掛けた。

「絶対に・・・だめ。」

「月菜さん?」

胸が苦しい、息が出来ないほどに切ない、パパを忍を今すぐ抱きしめたい・・・抱きしめて欲しい。

担任がパパと関係を持っているかも知れない、自分と段違いな大人の女性。

今の自分が勝てるわけがない、焦燥、嫉妬、様々な感情が渦巻く。

でも、絶対にダメ・・・

「わたしたち・・・・」

「え?」

高橋先生は月菜の呟くような小さな声を聴こうとした。

「私と・・私とパパの・・」

月菜の声が震えている。

月菜は俯いていた顔を上げて必死に高橋先生を睨んだ。

その眼には涙が浮かんでいる。

「どうしたの・・・月菜さん・・」

高橋先生がそれだけ口にした瞬間、月菜は立ち上がった。

スカートを握る手が震えている。

「私と・・・私とパパの間に入ってこないで!パパはパパを一番知っているのは(好きなのは)私なんだから!」

大声で月菜が怒鳴った。

喧騒に包まれていた職員室が一気に静寂に包まれる。

月菜はその場を駆けだし、職員室を出て行った。

「ちょっと!月菜さん!!」

楓はあまりの事に、声を掛けるのが精一杯だった。





「楓・・・ごめんね。」

「いいよ、お姉ちゃん、気にしないで。」

娘の陽菜乃と一緒にお風呂に入り、寝かしつけて戻って来た妹に下田陽詩は頭を下げた。

妹は冷蔵庫を開け缶ビールを2本取り出し、居間の6人掛けのテーブルに座る姉の前にビールを置く。

妹はビールのプルトップを開けると、一気にビールを流し込む。

「・・・・・う~ん!最高!」

そう叫ぶと姉を見た。

「お姉ちゃん・・・達也さんと何かあったんでしょ。」

妹は真面目な顔で姉を見つめた。

陽詩は妹の言葉を待つように口を開いた。

「・・・達也に・・・結婚を申し込まれた・・・結婚を前提に付き合って欲しいって。」

「なっ・・やったじゃん。」

妹は嬉しそうに声を上げた。

しかし、姉の声は沈んだままだ。

「・・・強引にキス・・・された。」

「はぁ?」

妹が呆れたように声を上げた。

ビールを一口飲んでから姉を見つめる。

「・・・・お姉ちゃん・・・何言ってるの?」

「だから、・・・強引に・・」

「じゃなくてさ、達也さんの事・・・嫌いなの?」

「・・・・・・」

「・・・お姉ちゃん、前から母さんも私も言ってたよね、達也さんはお姉ちゃんの事好きだって。」

「・・・・でも。」

俯く姉を見て、楓はため息をついた。

「お姉ちゃんさぁ、・・・今更、私は処女です。って振りしたいの?」

「なっ!」

陽詩は顔を楓に向け目を吊り上げる。

「お姉ちゃんさぁ、もう・・・忘れなよ。」

「何を忘れろって言うの!」

少し語気を強くして妹を睨みつける。

妹はビールを一気に飲むと、姉を食い入るように見つめた。

「お姉ちゃんさぁ・・・前の旦那さんと結婚する時も、今の達也との事もそうだけど、まだ忘れられないんでしょ。」

「なんのことよ!」

楓は少し姉を馬鹿にしたように口角を上げた。

「一番最初の彼・・・なんて言ったっけ、私はその当時中学生だったし、わかれた時は地方の大学に行っていたから一度も会った事が無いし、名前も知らないけどさぁ。」

「何を・・・」

陽詩は楓が言おうとする事を遮ろうとした。

「お姉ちゃんのその顔、元彼と別れた時の顔と同じ顔をしてる・・・まるで前の彼氏の事しか考えられなくて・・今もそれを引きずっているような、まだ未練がましくその人を欲してる顔にしか見えないよ。」

静かに残酷な言葉が妹から投げつけられる。

「お姉ちゃんさぁ・・もう前の彼の事なんて忘れなよ・・前の旦那さんにも、達也さんにも失礼だよ・・・。」

陽詩は言葉を失っていた。

「前の旦那さんから離婚を突き付けられたのも自分の所為じゃないの?自分はわからないふりしてさぁ、いい加減にしないと達也さんも離れていくよ。」

「そっ・・・そんな言い方。」

「はぁ・・・わからないんだ。」

楓は溜息をつきながら、姉に視線を向けた。

「・・・・最近、何かあったでしょ・・・お姉ちゃん少し変わったよね、達也さんと上手く行って変わったのかと思ったけど、なんか違ったみたいね。」

陽詩は妹が何を言っているのか理解できなかった。

「・・・何があったか分からないけど、お姉ちゃん少し明るくなったかな・・結婚して離婚した頃の下田陽詩じゃなくて、結婚前の高橋陽詩に戻った感じ・・・。」

そう言うと、妹の楓が大きく微笑む。

「なっ・・・何をいってるの。」

楓がニヤケながら自分の口に手を当てる。

「達也さん以外に、気になる人でも出来たの?」

「そっ・・んなんじゃないわよ!」

陽詩は頬を赤らめながら反論した。

「でも、お姉ちゃん・・達也さんとの事、受け入れるにしろ、断るにしろ中途半端は駄目だよ・・・達也さんの事、ハッキリ返事しなよ。」

人差し指を陽詩に向けながら楓は、ビールを一気に流し込んだ。




天井のオレンジ色の豆電球が、陽詩と、その隣に寝る陽菜乃を浮かび上がらせていた。

布団に潜りながら「お姉ちゃん明るくなったかな・・」「未練がましくその人を欲している・・」次から次へと妹、楓に言われた言葉が頭を過る。

「未練がましく・・・か。」小さく呟く。

元彼・・・神居忍、自分が昔愛した男。

「・・・・・・・しのぶ・・・」

そう呟くと両手で自分を抱きしめる。

歓迎会の時に偶然に忍の胸に抱かれた感覚・・・昔の記憶が蘇る。

「はぁ・・・・・」

溜息ともつかない声が漏れる。



ベットの中で忍の胸に頭を預けている・・・髪の毛に忍の指がふれる・・・何度も頭を撫でるように。

陽詩は忍の胸板から聞こえる心音を聴きながら、上目遣いに忍を見つめる。

忍の指が髪の毛から乳房へゆっくりと滑るように動く、忍の長い指が焦らす様に・・

陽詩は顔を上げ、自分の体の全てを忍に預ける、自分の乳房が、腰が、足が・・・忍の全てを感じるように。

忍の瞳と陽詩の瞳がお互いを映す。

お互いがゆっくりと近づく・・・ゆっくりとやさしく口付けを交わす。

お互いの全てを離さないように舌を絡める・・・逃がさない、離したくない・・


「わ・・たし・・・・」

天井の豆電球が揺らいで見える・・・、心も体も初めて許した相手、何時かは結婚すると思っていた相手。

優しく抱いてくれた忍・・・忘れられない思い出・・・・体が求める・・・止められない衝動が体を走る・・・

「しのぶ・・・・」

陽詩は抑えられない感情に流される、体が熱い・・・目が潤む・・・

自分を抱きしめていた手がゆっくりと優しく自分の唇に触れる、忍とのキス・・・・その指が首筋をとおり、自分の乳房に優しく触れる・・・忍に優しく強く触れられた記憶。

パジャマ越しに感じる自分の体がもどかしい・・ゆっくりと自分の指がパジャマの中を滑る・・指・・・止まらない・・・指。

ゆっくりと、忍の指が体の線をなぞるように滑る、忍の指が太ももに流れてくる感覚・・

自分の指が忍の指と重なる・・・・忍の指の感覚・・・熱い物が溢れ出す・・・もう、止められない・・

「あっ・・はっ・・・」

「しっ・・・のぶ・・・・・・はぁ・・」

昔、・・・愛し合った記憶。

神居忍・・嫌悪し、嫌った相手の記憶。

でも・・・・気が付いた・・・・いや、妹に気付かされた・・神居忍を欲している自分が居ることを・・・そしてまだ・・・愛している事に・・・・そして過去の男達に心を隠していた自分に・・心は・・・忍から離れていなかった自分に・・


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