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パパは誰にも渡さない。

「・・・パ・・忍君遅いな・・・」

月菜は、リビングのソファーに体を沈めながら、お気に入りの兎の縫いぐるみを抱き溜息をついた。

自分の気持ちを抑えて今日は忍君と普通に・・・いや、今迄のように接しようと思った矢先に、「今日は遅くなるから夕飯は食べて帰る。」そうメッセージが携帯に届いていた。


「・・・・また、女の人と一緒なのかな・・」

そんな考えが月菜の頭を過り、胸が押しつぶされるような感覚に襲われる。

「パパ・・・」そう口にするとぬいぐるみを強く抱きしめた。


忍は、自宅マンションの玄関前で自分のスーツを引っ張りながらクンクンと匂いを嗅ぐ。

数時間前の高橋楓先生との事を考えて、自分の匂いを嗅ぐ「・・・・におい・・大丈夫だろうな。」

駅を降りてすぐにある中華屋さんに入り、ラーメンに卓上のニンニクを大量に入れ高橋楓先生の残り香を消す努力をした。

「よし・・・大丈夫だ。」

忍は既に寝ているかと思われる月菜を起こさないように静かに鍵を開ける。

「ただいま・・・」

廊下の突き当りにある、リビングドアの隙間から灯りが漏れている。

「起きてるのか?」

玄関を上がり忍はリビングのドアをゆっくりと開けた。

「パパ・・お帰り。」

そこにはパジャマ姿でウサギのぬいぐるみを抱いている月菜がいた。

「まだ、起きていたのか?」

久しぶりに娘をまともに見た気がした。

「・・・お帰り・・・パ・・しのぶくん・・」

はにかみながら答える月菜を見て、ちょっと安心しながら笑顔を月菜に向けた。

「しのぶくん・・・・お腹は?」

月葉が小首を傾げながら聞いてくる。

「食べて来たから大丈夫だよ。」

そう答えながら、月菜の横に座り頭を撫でる。

「ん・・しのぶくん、ニンニク臭い!」

そう言って忍の横から距離を取る。

「はは・・そこのラーメン屋でニンニクを沢山入れたからな。」

そう言って忍は笑った。

「寝る前にビール飲むかな。」

そう言って立ち上がろうとした忍を制して「私が取ってあげる・・・」

月菜はそう言って立ち上がった。

冷蔵庫からビールを取りながら月菜は「しのぶくん・・・香水のにおいがする・・」そう感じていた。

確かにニンニクの匂いがしていた・・・でも、香水のほのかな香りがスーツから漂うような気がした。

「・・・・パパ・・・はい。」そう言ってビールを渡しながら、何時も甘えるように忍の体に頭を預ける。

「・・・・・やっぱり香水の匂いがする・・」

確かめるように、忍君の胸の辺りに甘えるように頭を寄せる。

「・・・・・間違い無い・・・・」

そう思ったとたんに、胸が苦しくなる・・・熱くなる・・・どうしていいのか分からない焦燥にかられる。

間違いない・・・忍君は女性と会っていたんだ。

嫉妬・・・鼻の奥が焦げ臭いような、胸が焼けるような気持ち。

月菜は胸に寄せた頭をギュっと力づよく押し付けながら忍の背中に腕を回し強く抱きしめた。

「パパ・・・この間の事・・・ごめんなさい。」

忍の胸に頭を預けながら月菜が小さく声を出す。

その月菜の旋毛を見つめ、月菜の暖かさを感じながら忍は答えた。

「月菜・・・この間・・お父さんもご免な・・変に誤魔化そうとして・・・。」

「ううん・・・良いの・・分かっているから。パパが優しいの・・・知ってるし。」

そう声にすると、忍にまわした手に力を入れた・・・もう誰にも触れさせない。

そんな意思表示を込めて、忍の体を抱きしめた。

「ねぇ・・忍くん。」

月菜は胸に沈めていた顔を上げで忍を見つめた。

忍は月菜と視線を合わせ、娘の言葉を待つ。

「パパは・・忍君は・・・好きな人、いるの?」

忍はいきなりの質問に驚いたが、深く息を吸う・・・

忍は月菜を見つめると「これからも、この後も・・お前が成人するまでは、お前が俺の一番だよ。」

そんな言葉を返しながら、先程の高橋楓先生との出来事を思い出し「この嘘つきが・・」自分を罵る。

「・・・・忍くんの嘘つき・・・」

月菜は忍の鼓動を耳にしながら小さく囁く。

忍は月菜が取ってくれた缶ビールを開けると、一口琥珀色の液体を流し込む。

冷たい液体が喉をとおる・・・缶ビールの開け口を見詰める・・先程の高橋楓先生の唇の温かさを忍は思い出していた。

キスなんて、付き合っていた彼女と別れてから何十年もしていなかった。

物思いに耽けっていると鮮明に過去を思い出した。

「陽詩には、悪い事をしたな・・」

そんな事が頭を過る。

計らずも下田陽詩を裏切る形になってしまった事を・・・高橋楓先生にこぼした事で思い出していた。

「今日・・・忍君は誰と会っていたんだろう・・・この間の会社の人?」

缶ビールを口にして、一点を見つめ苦しそうな表情している忍を月菜は見つめる。

忍君と月菜の間には17年間の差がある、母が亡くなってから全く女性が忍君に関わっていない事などないだろう、それくらいのことは高校生にもなれば想像もつく。

「でも・・・・ヤダ。」

自分以外の誰かと・・・いや、自分以外の女性と忍君が関係を持つなど想像しただけで胸が痛みだし、焦げたような苦い思いが抑えようもなく暴れだす。

忍君の背中にまわしている手に力が入る。

「高校生になっても、まだ甘えん坊だな・・・」

そう言って、缶ビールをテーブルに置くと先程より力を入れて抱きついている娘の頭をポンポンと軽く叩く。

「そんなんじゃ、ないもん・・」

そう言って月菜は、顔を見られないように忍の胸に押し付ける。

「パパを・・・忍君が・・・好きなんだもん・・」

語尾は小さく忍の胸に囁かれ消え去る。

「月菜・・・もう時間も遅いし寝なさい。」

忍が自分の腕時計を見ながら、自分に抱きついている月菜に優しく声を掛ける。

「やだ。」

そう月菜の旋毛が答える。

忍はため息を付くと、「そうか・・」一言口にすると、子供を寝かしつける様に月菜の背中を優しく拍子を付けてポンポンと叩いた。

月菜は心地の良いリズムを背中に感じながら・・・

「パパは・・・パパは絶対に誰にも渡さない。」

例えこの感情が他の誰かバレたとしても、例えみんなから後ろ指を指される事になろうとも。

「私は・・・パパを‥忍君を愛している。」

この気持ちはもう抑えられない。

見知らぬ女性に対して、嫉妬心を抱く自分を止められなかった。



更新致しました。

次回も間が空くと思われます。

宜しくお願い致します。

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