肉食女子・・・告白。
忍の話を聞き終わった楓は、自分が泣いているのに気が付いた。
「先生、ちょっとした与太話です。忘れてください・・・・」
笑顔で楓と向かい合う。
「でも、そんなの、ずるいですよ・・女としても・・月葉さんは、ずるいです。・・・」
楓は胸の中のモヤモヤを口に出した。
「だって、だってですよ、神居さんは自分の人生を犠牲にして、月葉さんと形は夫婦だけど、だけど、もう・・・神居さんは優しすぎます。」
涙を拭いながら楓は隣に座る神居のスーツの端をギュっと握って離さない。
「先生、忘れて下さい・・・・話を聞いて下さり、なんかすっきりしました。」
「そ・・そんな話を聞いて、忘れられるわけがないじゃないですか。」
そう叫ぶと高橋楓先生が俯くように忍の胸に顔を埋め、ジャケットを両手で握り声を上げて泣きだした。
「ちょっ・・・・先生!」
慌てた忍がテーブルの上のコップに手をぶつけ、勢いよくコップが倒れた。
ガチャン!と激しくコップが割れる音が響く。
すると、襖の向こうから「お客様?大丈夫ですか・・」
「いや、あのコップが。」
忍が答えると同時に襖が開き、えっちゃんが顔を出した。
「あらあら、お邪魔かしら。」
楓が忍に抱きついている姿を見て、ニヤニヤ・・・誤解です。
「あの・・お会計・・お願いします。」
忍が慌てて答える。
楓はキッと顔を上げると、襖のそばにいるえっちゃんに向けて全否定!
「お会計はまだです!ビールと日本酒を追加で持って来て下さい。」
えっちゃんは、ニヤニヤしながら「ビールと日本酒追加ですね。」叫ぶと襖を勢い良く閉めた。
えっちゃんが去ったのを確認した高橋楓先生は、泣きながら忍の顔を見つめた。
「まだ、沢山質問があります。全部答えるまで今日は帰しません!」
あれ・・・これどっかで見たような・・
そう・・・「居酒屋上州」の前で代行運転が来るのを待っているだが、右腕に絡む柔らかい物が動く、旋毛しか見えない高橋先生が忍の腕に腕を絡めて立っている。
「神居さんは・・やさし・・すぎる・・です。」
飲みすぎですと止めたが、止まらない高橋先生に、これまた止める気が無いえっちゃんが、追加でアルコールを持って来る。
負の連鎖が止まらない、その結果がこれである。
「先生、もうすぐ代行が来ますからね。」
苦笑いを浮かべながら忍が諭す。
その言葉が気に食わなかったのか、絡めた腕に力が入りキッと先生が顔を上げて忍を睨む。
・・・勘弁してくれ・・・目が座ってます。
「神居さんは・・・月葉さんの事、 愛して・・あいして・・ぃたんですか。」
「?・・・」
高橋先生からいきなり直球が投げられた忍は、少し戸惑ったが苦笑いを浮かべながら答えた。
「どうだったんでしょう・・・おかしいですね、自分でもわかりません・・兄の奥さんですから・・・。」
「でも、好きか嫌いかと言えば、義姉の事は好きですよ・・・兄と同じくらい。」
「そう・・ですか。」
高橋先生は忍を見つめていた・・・そして「・・・わたし、を・・あいしているに・・入れてもらえませんか・・・・・」。
「え?なんです。」
高橋先生の最後の言葉が、消え入る様に囁かれた。
高橋先生がそっと腕から離れる・・・そして、忍の正面に立ち・・下から忍を見上げている。
眉間に軽く皺を寄せ、少し厚めの唇が何かを囁くかのように開く・・口紅を引き直したのか濡れたように艶めく。
高橋先生の大きな黒い瞳が忍を映し出す。
・・・高橋先生の両手が、忍の両頬に触れる。・・・。
高橋先生のヒールが地面から離れる・・・さらに靴の踵からストッキングに包まれた踵がすり抜ける。
忍の唇に、楓の唇が重なる、そしてそれが当たり前のように・・・水が流れ込むように楓の舌が、忍に絡みつく。
「・・・・・・!?」
忍は一瞬困惑した・・・、楓の両頬に置いた手が忍の首に回る。・・・。
忍の腕が、自然と楓の体を抱きしめる。
そして・・お互いの唇を奪い合う。
どれくらいだろ・・・ゆっくりと楓のヒールが地面に着いた。
「高橋・・・先生。」
忍はその名前を呼ぶのがやっとだった。
高橋先生は酔っているような、照れ隠しするよな、どちらとも取れる笑顔を見せた。
「神居さん。」
「はい。」
高橋先生に名前を呼ばれ返事を返す、まるで教師に名前を呼ばれた生徒のように。
そして楓はきちんと居住まいを正すと、堂々と忍を見据え、しっかりとした言葉で、「神居忍さん、私・・・わたし、本気ですから・・勢いでキスしちゃいましたけど、本気ですから。」そう声をだすと、正面から忍に抱きついた。
ちょうど、忍の胸の辺りに頭を沈め腕を背中に回す、忍はされるがままに棒立ちになっていた。
「心臓の音が・・・凄い。」高橋先生が呟く声が忍にも届く。
車のヘッドライトが二人を浮かび上がらせる。
代行車が来たようだ。
楓は忍からゆっくりと体を離すと、笑顔を浮かべた。
「おやすみなさい。」
それだけ言うと頭を下げ、代行車に小走りに向かっていた。
代行車が去った居酒屋上州の前の道で、一人残された忍はため息をついた。
ガラッ!引き戸を開ける音が後ろから聞こえた。
後ろを振り向くと、居酒屋上州から「えっちゃん」がニヤケながら出て来た。
忍は顔を少し引きつらせながら、頭を下げた。
えっちゃんは、忍の横に立つと「楓ね、貴方に一目惚れしたらしくってね・・」ニコニコしながら話す。
「昔から惚れやすい子だったんだけど、今回は別ね・・何しろここ数か月店に来るたびに貴方の話ばかりよ、どうしよう、どう告白しよう、振られたらどうしよって・・・まぁ大変だったんだから。」
「はぁ」忍は頭を掻く。
「それにあの子、今迄に惚れた男には自分が納得するまで体に触れさせることが無かったのよ、それがなに・・・自分からあんな大胆なキスって。」
「みて・・・たんですか?」
忍がシドロモドロになる。
「ええ、最初からね、楓のあんな情熱的な所、初めて見たわ!私結婚早すぎたかな~、あんな情熱的な事して見たい! ( ̄∇ ̄ ハッハッハ」
えっちゃんが笑い出す。
「・・・でも、お会いしたのも、数えるほどでしか無いですし・・・その、」
忍が困ったようにしていると、えっちゃんが急に真顔になった。
「神居さん?って言ったっけ?」
「はい。」
「男はさ、一日で女をものにしようとしても、女に振られたらそれまで。難しいじゃない。」
「はぁ、まぁ確かに。」
「でもさ、女は自分から男を誘えば、一日で男を自分のものにするのは至極簡単なの。」
「わかる?」
「でも・・・」
「だからあの子、今回は本気も本気、本来の肉食系女子の狩猟が始まるってとこね。」
「肉食系ですか、高橋先生が。」
「そう、時間も会った回数も関係ない、楓は貴方をものにしょうと本気で考えてるわね。」
「いや・・そんな事、まさか。」
「(* ̄▽ ̄)フフフッ♪ そんな事あるのよ、女同士だから分かるの。」
「・・・・でもね、楓は恋愛に対し積極的ではあるけれど、付き合ったからって乱暴なのはだめよ、優しくしてあげてね♡うふっ。」
えっやんは、口に手を当てていやらしい笑みを浮かべた。
「じゃぁ店があるからこれで!楓の事よろしく!」
そう言うと忍に背中を向け店に戻る、何かを思い出したのか急に立ち止まり、顔だけ振り返る。
「そうそう、さっきあんな熱い抱擁を交わしながら、なんでお持ち帰りしなかったかな~!」
「なっ!」
忍はえっちゃんの言葉で顔が赤くなる。
「まぁ、あんたってそう言う男なのかね、せっかくのチャンスだったのにね。楓、今日は気合が入っていたから、勝負下着だったのに見られなくて残念だったね、それじゃ楓を宜しく。」
そして、居酒屋の引き戸が思いっきりよく閉められた。
ガラガラピシャッ!!!
「よろしくって・・・し・・勝負下着って・・・・」
はぁ・・・・溜息をつくしかない忍だった。
また更新迄、少し間が空きます。
宜しくお願いします。




