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兄の葬儀に父は参列しなかった、亡くなって迄意固地になっている父を忍には理解できなかった。

母と忍、そして月葉さん親子4人だけで葬儀を行い、遺骨は忍の母方の実家のお墓に入れることになった、自分で持っていたいと願う月葉さんを母が説得したのだ。


その後は月葉さんの事が心配なのか、母から様子を見てきて欲しいと言われ、ひと月に2回ぐらいのペースで、月葉さんの住むアパートを訪れた。


月葉さんは、月菜ちゃんを保育園に預け、フルタイムのパートに出るようになった。

昔取った杵柄とかで、会計事務所に勤める事が出来、経済的にもなんとか安定しているらしい。

その話を母にすると母も安堵していた、ただし、月葉さん達の話は父の前ではしないようにしていた。


忍が大学卒業を控えたある日、月葉さんから携帯電話にメッセージが届いていた。

「相談したいことがあるので、時間を作って欲しい。」そんな内容だったと思う。

その日の事は一生忘れないだろう、自分の人生を変えてしまう序章だった。

平日の昼過ぎに月葉さんの住むアパートに向かうと、待っていた月葉さんは忍を招き入れると座布団に座るように即す。

「あれ、月菜ちゃんは?」

何時もなら、忍の顔を見ると即座に甘えてくるのに姿が見えない。

台所の奥でお茶の用意をしている様子の月葉さんが手を動かしながらこちらを見た。

「月菜は、保育園に預けてるの、ちょっと込み入った話だから・・」

「はぁ、そうですか・・・」

お盆に乗せたお茶を忍の前に置く。

月葉さんの髪の毛が揺れる、二重の丸い目を少し細めながら、自分の分のお茶を卓袱台に置き、少し間をおいてから忍に視線を向けた。

「ごめんね、時間取らせちゃって。」

「いえ、そんな事気にしないでください。」

暫く雑談に興じていると、少し間を開けて月葉さんが居住まいを正し、真っ直ぐ忍を見ると頭を下げた。

「忍さん、お願いがあります。」

深々と頭を下げる月葉さんを見て、慌ててしまう。

「ちょっと、月葉さん、な・・頭を上げて下さい、それにいきなり頭を下げられても。」

「いえ、どうしても聞き届けて頂きたい事があります。」

忍は膝立ちになり、月葉さんに顔を上げるように肩に手を触れた。

月葉さんは、我に返ったようにゆっくりと顔を上げた、その顔は憔悴しきった表情を浮かべていた。

「忍さん・・これから話す事は全て私の我儘です、この我儘に付き合う義理は忍さんにはありません。それでも話さなければ・・お願いを聞いていただけるのなら・・」

そう言うと、月葉さんは滔々と話し始めた。



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