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分岐点

兄は程なくして、大学を辞めた。

兄は仕事ならこちらの方があるからと、月葉さんと入籍を済ませると都心に戻って来ていた。

実家のある地域からは程よく離れたアパートで、親子3人の生活が始まり、大学生になった忍は、たまに啓二の住むアパートに遊びに行った。

目的は姪になる月菜ちゃんだ、もう妹が出来たみたいで可愛くて仕方がない。

一日中遊んでいられるほどだ、そんな姿を見た兄夫婦は「早く結婚して自分の子供を持ったら」等と揶揄してくる。

ホントにそうしちゃおうかと思うほど、月菜は可愛い。


兄が月葉さんとの生活に慣れなじめた頃、忍に月葉さんとの出会いや、月葉さんの親族の話などをポツリポツリと話してくれるようになった。

やはり、何かあった時の為に知っておいて欲しかったのだろう。


月葉さんのご両親は居るらしいが、望まれない結婚をして、望まれない子供が出来、そして離婚、子供一人抱えて、生きて来たと言う。

兄よりも6歳上らしいが、可愛らしく若く見える。

そんな3人の生活は、慎ましくも穏やかで幸せそうに見えていた。

特に月葉さんの、啓二に対する甲斐甲斐しさは見ていて赤面してしまう程だ。

相思相愛とはこの夫婦の事を言うのかもしれない、もう一人子供が増えるのも近いうちだろうと思っていた。


そんな幸せな生活が穏やかに過ぎていたある日の事。

その日は良く晴れた日だったのを覚えている、その当時付き合っている彼女と待ち合わせの為、出かけようとしていた。

リビングの前を通り過ぎようとした時だった、何時もと違う母の声が聞こえた。

忍は気になりリビングに居る母を見た。

母が持つ電話の子機が震えていた、顔面蒼白、震える声、そして涙。

「あなた・・・啓二が、啓二が・・・」

母のあんな叫ぶような声を初めて聞いた。

何が起きたのか確かめようと思った、母の電話口での会話を聞き逃さないように母の一語一句に聞き耳を立てた。

「啓二が仕事中の事故で、病院に運ばれたって・・・な・・亡くなったって・・」

母はその言葉を伝えると、足から崩れ落ちた。

忍は慌てて母に駆け寄り、声を掛けた。

「かぁ・・母さん、兄さんが亡くなったって・・・」

母は茫然とした顔を向け、そして忍の顔を確認すると両目から涙が溢れ出す。

忍にしがみ付き、声にならない嗚咽が漏れていた。

兄は交通事故で亡くなった、就職した引っ越し業者の仕事中の事故だった。

現場に向けて移動中に同僚の運転手が高速道路で強引な追い越しをかけたのが原因だと聞いた。

急なハンドル操作でバランスを崩した車両がふらつき、それを制御しようとした運転手がハンドルを切り、高速道路の壁に激突して停止、助手席は押しつぶされたように大破、助手席に乗っていた兄は即死だったらしく、運転手は重症で生死を彷徨っていた。


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