後悔?それとも・・・
※「課長、鼻血・・・出てますよ。」
月菜はあの日以来、父、忍の顔を直視できなくなってしまった。
あの日、自分の気持ちに気が付いてしまったからだ。
自室でベットに横になりながら携帯電話をいじっていたが放り出し・・・・「うっ~!!!!!」声にならない声を上げると枕を抱くように顔に押し付け、ベットを右に左に悶えながら暴れる。
そしていきなり起き上がる。
「なんてことしちゃったんだろう。」後悔しているのか、それとも幸せなのか分からない。
自分の指が忍くんの頬に触れ・・・そして唇に触れ・・・そして誘われるように自分の唇を忍くんの唇と薄く重ねた・・・。
「きゃぁー!!!」思いっきり枕に顔を埋めて叫ぶ。
「はぁ・・・」枕を顔から外す・・・自分の顔が熱い・・・真っ赤になっているのだろう。
「いやぁー!!」思いっきり枕に顔を埋めて叫ぶ。
「はぁ・・・」枕を顔から外す・・・・
その時の光景が何度もリピートされる・・・、考えると心臓が張り裂けそうになり、顔が熱くなり、瞳が潤む・・・
忍くんとずっと一緒の空間にいるなんて出来ない、居たら絶対に思い出して・・・
無理!無理!無理!無理!む~り~!!!!!!!!同じ空間になんて居られない!!
今日も忍くんが起きたと同時に学校に向かう、忍くんが「月菜、おはよう。」そうリビングで声を掛けて来たが、既に月菜は制服に着替えており、パンを齧りながら「行ってきます!」そう、目を伏せて慌てて玄関に向かった。
玄関を出て扉がパタンと閉まる。
「ほっ・・」ため息をつき、大きく深呼吸をする。
心臓の鼓動が煩い、顔が熱い・・・「慣れないと・・・」そう独り言を口にするとマンションを後にした。
月菜はマンションを出ると、学校の方角に向かって歩いていく、この時間に学校に行ってもまだ門が開いていない。
どうするのか、学校の通学路にある小さな公園にある東屋で本を読んで時間を潰していた。
もう、ひと月はこんな事を続けている・・・
夕飯も自分一人で済まし、忍くんの分の用意だけして自室にこもる。
お風呂も自分が終わったら、自室から忍くんに声を掛けて顔も見ないようにしている。
いつまでもこんな事を続けていれば、そのうち忍くんに何か言われることは分かっている。
でも、あれからひと月近く経っても忍くんの顔を見ただけで、心臓が高鳴り、顔が赤くなる。
「はぁ・・・」そうため息をついた所に声を掛けられた。
「神居さん。」声が聞こえた方を見ると、東屋の仕切りの向こうに担任の高橋楓先生が佇んでいた。
コーンポタージュ缶から湯気が立ち上る。
高橋先生から渡されたそれを口にしながら深呼吸をする。
体が温まる。
東屋の屋根に蔦が絡み、その隙間から日差しがこぼれている。
月菜の右隣に座った担任が、下から月菜を見上げるように声を掛ける。
「神居さん、言いにくかったらいいんだけど、随分早くお家を出てるのね。」
そう言われた月菜は内心ドキッとした、「え・・はぃ。あの朝早く目が覚めるので・・それにもう季節も良いし、早く出て、この、・・この公園で本を読むのが好きで・・」
しどろもどろに答える月菜を見つめ「そう。」と一言呟いてから、「もう一月位かな・・・月菜さんを偶然見かけてから。」
その日、授業の準備の為に早めに学校へ向かう車の中から偶然、この公園に入る月菜を見かけたのだ。
その日から学校に向かう車内からこの公園を見ると、月菜が公園の東屋に居るのを、天気に関係なく見かけていた。
・・・まだ誰も登校する時間ではない・・・ゆうに1時間以上は早いであろう時間帯に、この公園に居る姿を見かけていた。
そして今日、考えた挙句心配になって思い切って声を掛けた。
「お父様と何かあったの?」そう高橋先生に聞かれた。
「しの・・・いえ!ち、父は関係ありません!」慌てて先生を見て、あたふた両手を振りならがら答え、顔を隠すように俯く。
月菜は忍くんの事を直球で見破られて、顔が真っ赤になり、心臓が張り裂けそうになる。
その様子をじっと見つめていた高橋先生は、俯いている月菜の頭に手を伸ばし、頭を撫でながら、「そう・・お父様と何かあって家に居ずらいわけじゃないのね・・・」そう優しく声を掛けてくれる。
「でも、雨の日もここにいるから、先生心配になってね。」
「ありがとう・・ございます。でも・・ほんとうに、なんでもないんです。公園が好きなだけで・・・」
月菜はまだ、赤い顔を上げることが出来ず、うつむいたまま答えた。
楓からは月菜が俯き、髪の毛で顔が隠れている所為で表情は読めないが、何となく大丈夫なんだろうと感じた。
「よし!」
楓は声を出して立ち上がると、月菜に右手を差し出した。
「神居さん、学校、行こう。」
デスクの上に置かれた、携帯電話の着信音が鳴る。
PCに向かっていた神居忍は、PCの画面を見ながら傍らに置かれた携帯を取り上げ、表示されている文字を見た。
「高橋楓先生」
そう表示されている画面を見て、心臓がドキリとする。
学校から電話があるなんて、月菜が小学校の時にあったきりだ。
「もしもし、神居です。」
すると、柔らかい女性の声が流れてくる。
「赤城北高校、2年B組担任の高橋ですが・・・」
「あっ、いつも大変お世話になっております。」
忍は挨拶をしながら、高橋先生の容姿を思い浮かべる・・・頭に浮かんだのは、大きな胸。
いかんいかん、想像を切り替える。
「実は月菜さんの事でお話がありまして・・・ちょっとお時間を頂けないかと・・」
高橋先生の心配したような声。
何事か起きたのかと心配したが、緊急を要する事でない事が分かりホッとする。
高橋先生とのやり取りを数分続けて終話。
手帳を開きスケジュールを記入した。
「神居課長。」
女性の声が掛かる。
振り向くと、前田京子が手にポケットティッシュを持って忍に差し出していた。
「課長、鼻血・・・出てますよ。」
「あ・・・・すまん。」
忍はティシュを受け取りながら、鼻血が垂れないように顔を上に向けた・・
「俺も男の子・・・っと。」
・・・・・あの大きな胸を思い出していた。