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女子高生・・・

          挿絵(By みてみん)

      「いつでも相談してください。これでも昔は女子高生ですから。」





「はぁ・・・」

全体会議が終わり、会議室から出た忍はため息をついた。

「どうしたんですか?ため息なんてついて。」

後ろから声を掛けられた忍は、軽く後ろを振り返る。

「いや・・・なんでも。」

そう答えながら、真後ろを歩く前田さんを見ながら苦笑いを浮かべる。

「課長、会議中もため息してましたでしょ・・・何かあったんですか?」

気の強そうなつり目に優しさを浮かべて、小首をかしげている。

「いや・・・・何も、そんなにため息をついていたか?」忍はそう答えると、小走りに忍の横に追いついた前田さんが、呆れた表情を浮かべた。

「課長、自分で気が付いていなかったんですか?多分みんな気付いてましたよ。」

「え・・・そんなに?」

「会議で発言、全然していませんし。」

忍は、今気が付いたかのように宙を仰ぐ。

「・・・・そうか、すまん。」

忍はフロアーを歩きながら、少し考えを巡らせ、意を決したように前田さんを見た。

「前田さんは、高校生くらいの時って・・・やっぱり父親は嫌いだった?」

え?前田さんは忍の質問に、目を丸くする。・・・「鳩が豆鉄砲を食らう」とはこの表情だろう。

直ぐに表情を戻した前田さんは右手を軽く握り、口元に寄せ軽く咳払いをする。

「課長・・・娘さんと何かあったんですか?」


あの日・・・月菜と同じベットで目を覚ました日、あれから月菜の態度がおかしくなった。

何時もなら朝食を一緒に食べ、同じ時間に一緒に家を出ていたが、今は先に朝食を済ませ「部活があるから!」そう言って先に出る。


夕飯後も何時もならリビングで親子の会話をしていたのだが、今は食事を終えると自室に閉じこもる。

ここしばらくは、会話らしい会話も無い、そんな状態があの日から、一か月程続いていた。


プシュッ!缶コーヒーのプルトップを開ける音が二つ重なる。

窓から見える山々が夕日を浴びて赤く染まっている。

ベンダーマシンが数代設置された、休憩スペースの向かい合わせのテーブルに、前田京子さんと神居忍は腰を下ろしていた。


「仲が良いんですね。」ニコリと微笑みながら、前田さんが忍を見つめる。

話を聞いてくれた前田さんは、すこし眉間にしわを寄せて「年頃の娘さんですからね・・」

目を宙にさまよわせながら何かを思い出すように言葉を吐く。

「私も中学生位までは父親に甘えていた記憶もありますが、高校生になるとやはり・・・。」

「何て言うんでしょ、友達の手前もあるし、色々体の変化もあるし、後、色々耳年増にもなるし・・・・」

そう言うと軽く白い歯を覗かせて笑みを浮かべる。

「そうなると、なんだか父親が不潔に見えたりするのよね・・・」最後は独白に近い。

忍も苦笑いする。


前田さんはタイトスカートから延びる足を組み替えて、腕を組んで考えるように俯く。

「う~ん。」

軽く唸り声をあげると顔を上げ、難しい表情をしながら話す。


「でも、お父さんもずっと一人だし・・・何となく分かっている事もあるでしょうし・・・今までも親一人、子一人で仲良くやってた所に女性の影って言っていいのかですけど、そしたら、その女の人に自分に向けられていた愛情が全てそっちに行っちゃうみたいに・・・多分、自分が捨てられてしまう・・置き去りにさられてしまう、そんなふうに感じたのかもしれませんね。」


「そうかな・・・」忍は天を仰ぐようにして答える。

「それに、それを口にしちゃって恥ずかしかったんじゃないですか?娘さん。」

「課長、そんなにお気になさらくても大丈夫ですよ。私、今ではお父さん大好きですから。」

前田さんは腰に手を当て、胸を張りながら笑う。


「・・・・そっか、ありがと、すまない・・・・部下にこんな相談をして・・」

忍は前田さんに向かって頭を下げた。

「課長、そんな顔を上げてください。年頃の娘さんを持つ神居課長の気持ちわかりますから。」

「いつでも相談してください。これでも昔は女子高生ですから。」

得意げな前田さんの笑顔を見ながら、忍はまた頭を下げた。




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