第一話
「必ず、迎えに行くから」
そう言って雪の降る寒い冬の日に、君は抱きしめていた腕をほどいて
振り返らずに私の目の前から姿を消した。
ピピピッ…
目覚ましの音で目を覚ます。
(またあの夢か…、もう三年も経つのに…)
「はぁ…」
深くため息をつきカーテンを開けて日の光を浴び少し伸びをしてから制服に着替え、欠伸をしながら寝室を出て階段を降りていき、リビングに入る。
「陽茉莉(ひまり)、おはよう。早くご飯食べちゃいなさい。」
キッチンから聞こえるいつもと変わらない冷たい声色。
テーブルにつくと一席だけ品数が少ない。
ここが私の席。
「由華子(ゆかこ)さんおはようございます。椋太(りょうた)、おはよう。」
向かいの席に座っている、青年に挨拶をする。
「…おはよ。」
少し眠たいのか、低めの声で返事が返ってくる。
椋太は品数が少ない料理を見るとため息をつくが、何も発することなく自分の目の前に用意されている朝食を食べ続ける。
朝食が終わると、洗面台で歯磨きをして朝の身支度を整え終わると、鞄を寝室に取りに行きそのまま玄関まで歩いていく。
「行ってきます。」
数秒間立ち止まるが誰も返事をしてくれることなく、そのまま靴を履いて家を出る。
いつものように駅まで歩き、いつものように電車に乗って学校へ向かう。
学校につき朝からにぎやかな教室に入る。
「陽茉莉、おはよう。」
優しい低くもなく高くもない心地いい声色の声が後ろから聞こえる。
「櫂斗(かいと)か、おはよう。」
私より背の高い櫂斗を見上げて、無表情で返事をする。
櫂斗は私を通り過ぎ席に着き、それに続き櫂斗の前の席に私が座る。
「また、ドラマ決まったらしいよ。」
席に着いた私に、櫂斗は後ろからスマホを見せる。
そこには大々的に連ドラ出演と書かれてあり、切れ長で容姿端麗な男性の写真が貼られている。
ー黒部駿斗(くろべはやと)ー
見たくもない男の顔だ。
3年前、突然私の傍から離れていった男。
「へぇ…」
愛想のない返事をして、スマホから鞄から出した小説に目を移す。
あいつの事なんて見たくも聞きたくもない事を知っているはずなのに見せてくる櫂斗に少し苛立ちながらも、心を落ち着かせるように小説の世界に深く入り込んでいく。
その背中をタレ目の瞳を少し細ませ、悲しそうな表情で櫂斗は見ていた。