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case 2 スパイダーフラワー討伐 ログブック 記入者 マジックアーチャー ソラ 前編 ②


「じいさん。それをとってくれ」

「あいよ。ばあさん」

「それでね、盗賊団の頭が……」

「まじでー!」

「夜は俺が見張るから、今の内に……」

「そうですね。僕たちが」

 わいわいがやがやと馬車の中では話が盛り上がっている。

 老夫婦は仲睦まじく、水を分けて飲んでいる。

 手甲を身につけている若い女はローブを着た杖を持つ女と男の話題で盛り上がっている。

 顔に古傷を負った弓使いの男とその子文かと思う一番幼い剣士は、馬車に関しての話題をしている。

 声が大きいため話の内容が耳に入り、どうやら6人のうち老夫婦以外は冒険者で、この馬車の護衛役だそうだ。

 まだ他にも仲間がいるらしく、そいつらは食料などが乗っている荷台を護衛しているとのことだ。

「……すぅすぅ」

「ようやく、落ち着いたか」

 薬が効いたのか狂信者は穏やかな寝息を立てて、熟睡している。

 俺の膝に乗ってからも痛みを訴えていたから、ようやく安心できる。

 馬車の移動は初日に山を越えるためか、塗装されていない崖を渡り、車輪が飛び跳ね始めている。

 このまま何事もなく、王都に着いてほしいっと頭の中で考えたその時――――。


(っ!?)


 一瞬にして馬車の先頭から荷台までが殺気に支配される。出所は崖の上。どんどん収束していき、狙っている獲物は……。

(子分の男?)

 なぜか、この中で一番幼い男がさっきの対象となっている。

 もしかすると、俺の感覚が間違っている可能性もあるが……。

(一応、注意しといてやるか)

 気づいてしまったからには見過ごすわけにはいかなくなった。

 気負うわけではないが、とばっちりを受けてしまうのは面倒だ。

「アオオォォォォン!!」

「「「「っ!!」」」」

 前方で狼に似た遠吠えが聞こえる。冒険者の4人は立ち上がり、外へと飛び出していった。

 普段の俺なら、最悪の場合を考えて一緒に飛び出すのだが、今回は出遅れてしまう。

「……zzz」

「せめて、殺気は気づいてくれ……」

 寝入ってしまっている狂信者が起きずに膝の上で別の寝息をたてている。

 まあ別に俺一人でも問題ないかと判断し、膝から枕へと移動させて、俺も馬車から外へ出て様子をうかがった。

「冒険者さん! お願いします!!」

「おい、てめぇら! 行くぞ!」

「わかったわ!!」

「「はい!!」」

 どうやら、古傷を負った男がリーダーらしく、味方を奮起させるとともに、先制の矢を放った。

 前衛にまだ殺気を感じる剣士が前に出て、手甲を身につけた格闘家と思われる女もその剣士の近くで構えている。

 2人に守られるようにローブを着た女は魔法を唱えている。すでに詠唱は済んだのか鋭い瞳で、相手の出方を待っている。

「アオォォォォン!!」

 対するはブラックウルフ。狼の形に似た怪物だ。

 全身が名の通り漆黒の毛皮を纏い、陰から蔭へと短い距離なら移動することができる油断してはいけない相手だ。

 俺は馬車の上から全体を見渡していた。

 すぐに戦闘は始まり、4人の冒険者の動きを観察する。

「はあぁ!」

「やあぁ!」

「凍てつけ……コールド!!」

 連携はしっかりできている。動きも申し分ない。

 ブラックウルフの速さにかろうじてだがついていくことはできている。死角からの攻撃も対処し、爪と牙を警戒して身をできるだけ小さくしている動きも評価できる。

 この調子だと任せて問題ない……はずがなかった


(あいつ、裏切るな)


「頭を下げろ! 追い詰めるぞ!!」

 古傷の弓使いの動きがおかしい。

 矢を放ち、ブラックウルフの動きを制限しているように見えるが、逆だった。あの弓軌道は、仲間の動きを制限させブラックウルフに攻撃させようと誘導しているように見える。

 始めは一気に勝負を決めるために放ったと思ったが違う。ブラックウルフを援護しようとしている。

 そして、ちらりっと弓使いは崖の上を確認した。

(決まりだ。見過ごすわけにはいかない)

 馬車へと戻り、狂信者の体を揺さぶって起こす。

「狂信者、起きろ」

「…………まじ、むり」

 薄目を開けて体を起き上がらせるも、ふらついている。

 だが、緊急事態だ。人の命がかかっている。

 狂信者を抱えて馬車から出ると戦況が一気に変わっていた。

 矢が剣士の足に刺さり、格闘家の女は右腕を出血している。

 その二人を庇うように魔法使いの女が弓使いへと問いかけている。

「そ、そんな……リョウ。どうして!!」

「へへっ……カレン。ここまでだな」

 あのパーティーの事情は分からないが、まずいことになっていることだけは確かだった。

「俺を思いっきり蹴とばせ」

 俺の狂信者を後ろに下ろして、吹っ飛ばすように頼む。

 この状況だと誰かがあの間に入って攻撃を防がなくてはならない。

 俺には移動する速度はあまり自信がないため狂信者に蹴とばして移動するのが一番早かった。

(狂信者ならいい感じに手加減してくれるはずだ)

 かったるげに構え、

「……はぁ、うい」

 衝撃の後に、爆音がなった。

「あっ?」

「やべっ」

 背中を思いっきり蹴られて体が空中を平行移動する。

 バキバキバキッ!! とドラゴンの自慢の鱗が壊れ、剥がれる音が響く。

(あっ、あいつ手加減なしで蹴りやがった)

 慌てて足を付けながら減速を急ぐ。この速さだと追い越して崖から谷底へと落ちてしまう。

「くたばれぇ!!」

「カレン!!」

「きゃああぁぁぁ!!」

 弓使いの矢が放たれる。これは間に合わないかと思い、風の魔法で壁を作ろうとするも……

 真横に矢が並走していることに気付いた。いや、それどころか矢を追い超そうとしている。

(あっ、これ。まずいやつだ)

 矢を掴んで、硬化させて地面に突き刺す。突き刺された地面を隆起し、凄まじい音を立てていき……。

(あ、あぶねぇ!!)

 色んなものを通り過ぎ、崖際ぎりぎりで止まった。

 判断・反応、何か一つ一瞬でも遅れていれば谷底へ落ちるところだった!

 俺は背中に激痛を感じつつも冷静を装いながら間に割って入った。

「あ、ありがとうございます!!」

「気にするな。目の前で誰かが死ぬことが嫌なだけだ」

 矢をへし折って、相手の足元へ投げ捨てて挑発する。

(さあ、どう出る?)

 このまま引き下がってくれるならそれでよし。

 だが、引き下がらないならば……

「…………野郎ども!! 出て来い!!」

「「「「うおおぉぉぉ!!!」」」」

 事情は分からないがやるしかないようだ。


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