case 1 やくそう採取 ログブック 記入者 狂信者 リム 後編
身体を丸くして、できる限り爆風に触れないように引っ込める。
垂直落下。爆風で身体がどんどん加速し、地面を貫いた。
「なにしてんの!? ばかじゃないか!!?」
「爆発するからみんな遠距離で仕留めようとしていたのにどうしてとどめがそうなるの!?」
「理解できん……」
仲間の罵倒の声が遠くの方から聞こえる。
「は、早く助けて……」
俺はその後、なんとか救助され一命を取り留めた。
全身が戦闘とは別の理由で汗や泥まみれになり、そろそろ帰ろうと話題にするとマリノが話しかけてきた。
「す、すごいです! すごいです!!」
「あ、ああ、うん。ありがとう」
目を輝かせて俺たちのことをほめてくれる。俺は目をさらしながら答えた。
最期をカッコよく決めることができたらなっと自己嫌悪してしまう。
最近、戦っていない相手だったからつい忘れてしまっていた。次からは気を付けよう。
と、反省しているとマジックアーチャーが話を進めてくれており、屋敷に呼ばれたらしい。
「どうする? 行く?」
「僕は問題ないよー」
「俺も大丈夫」
後は俺だけ。俺も、屋敷に呼ばれることなんて滅多もないことだからお言葉に甘えようと思ったその時、思い出した。
(そういえば、やくそうまだだ!!)
ギルドへの報告は遅くなるのは問題ないが、納品が遅くなることはまずい。
そして、このことをずっと隠しているため今更……いや、こいつらなら許してくれ……でも!!
(お姉さんは独り占めしたい!!)
俺は決断し、答えた。
「すまないが、俺は用事があるからやめておく」
「そうか。じゃあ、マリノさん、狂信者を除いた3人で行きます」
「くっ!!」
俺は走り出す。もう、この辺りにはやくそうは残っていない。
「あの、本当にリム様はよろしいのですか?」
「いいっていいって」
「うんうん」
「そうだな」
この後、あいつらはおいしいものを食べていい思いをするのだろう。
それぐらいの働きはしているため当然ともいえよう。だがしかし……俺はその先に行かせてもらうぜ!!
「「「だって、自業自得だし」」」
「へっくし!!」
一瞬だけ、寒気を感じた。
日も暮れて、暗闇の中で俺はサーラ草原を見渡す。
「さぁ、俺のクエストはこれからだな。あ、やくそうはあと一つで終わるし、すぐに終わるな」
俺はこの時、すぐにこのクエストは終わると思っていた。
だけど、重大なことを俺は忘れていた。
「ない! ない!! ない!?」
草原には全くと言っていいほどに、やくそうの姿はなかった。
昼間はあんなにもあったのに急になくなるなんてことはあり得ない。
そう、誰かが全力でやくそうを採取しない……限り……
その時、俺は思い出した。
『やくそう! やくそう!! やくそうぉぉぉ!!』
(バーサーカーローグ!!)
昼間にバーサーカーローグがやくそうを採取で暴れていた。
普通ならサーラ草原のやくそうをすべて採取するなんて所業はよほど狂っていなければできないが、バーサーカーローグ
はそれほどに狂っている。
「くそぉ!!」
となるとこの周辺ではもうやくそうを手に入れることは不可能と言っていいだろう。
俺は仕方なく、遠くにある≪魔人の巣窟≫まで、怪物が多く出る地域に足を踏み入れる。
激闘に次ぐ激闘の末にやくそうを入手し、どうにか時間内に納品することはできそうだ。
体はボロボロで今かけてある身体強化魔法が切れる前にどうにかサーラ草原まで戻ってくることはできた。
その瞬間、得体のしれない何かに引っかかる感触を感じた。
感じると同時に、地面が盛り上がり俺の胴体を殴りつける。
「うぐっ!?」
まともに受けてしまい、その場で膝をつく。
「なんだ……罠か!?」
サーラ草原に罠なんてものはないはずだ。
それも高ランクの魔法罠を仕掛けることができるやつなんてほとんどいな……。
『それだったら、俺が魔法罠を設置して、魔力が高い奴だけ反応するようにしておく』
「マジックアーチャーァァァァァァ!!」
あいつめ!! あいつの仕業か!!
昼間のグリズリーバーンの叫び声よりも大きな声をあげ、思い出す。
近くのスライムが跳び起きていたが知ったことではない。
あの野郎。罠を設置するだけ設置して解除せずに帰りやがった!!
俺はその場で地団駄を踏むと次々と魔法罠が発動する。
「があぁぁぁ!!」
この程度で負けてたまるか!! 俺は生きてお姉さんとイチャコラするんだ!!
俺は決意を胸に、最後の戦いに挑んだ。
「あっ……うっ……アァ………」
どうにか生き延びた……。
俺は血まみれの体を引きずりながら教会までたどり着く。
日付はすでに変わっており、クエストは失敗だ。
最後の強敵が強すぎた。
「こ、ここに置いて……置けばいい…よな?」
教会の玄関先にそっと俺はやくそうを置き、立ち去る。
(ああ、駄目だ。そろそろ限界だ……)
その後、俺は意識をもうろうとしながら町を歩き、気が付けばギルドにたどり着いていた。