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2.取調室にて

 「これは一体どういうことですか!?

 人権侵害ですからね!

 わかってるんですか!?」


 彼は、取調室に入れられていた。

 そこでも、元気に抗議をしている。

 連行されてからずっとこの調子だ。

 

 「あいつは一体、何なんだ」


 そういったのは、周りの兵士よりも良い軍服を着た、中年の男だ。


 取調室から出た廊下で、この件の担当となった若い将校から説明を受けていた。


 あきれたような声だ。


 彼も、いつまで経っても要領の得ない話をし続ける不法侵入の容疑者の扱いに手を焼いていた。


 「もう現行犯で、しょっぴいちゃっていいんじゃないんですか?」


 2、30代であろう若い兵士が、めんどくさそうにそう言う。

 もう時間は夜の7時を過ぎていて、彼の上がりの時間はとっくに過ぎていた。


 「いや、彼の言い分がひっかかる。嘘を言っているようには見えん」


 「じゃ、隊長は、彼が本当に、大学から出てきただけの一般人だっていうんですか?誰も知らないような大学から」


 「たしかに、一般人とも思えないんだよな」


 イマイチ、はっきりとしない態度の隊長。

 取り調べを続けて35年の経験を持つ隊長でも、この件はイレギュラーだったのだ。


 「あぁ!もう!

 結局、彼は留置所に入れるんですか?入れないんですか?」


 早く帰りたい兵士が、詰問するように言う。

 上官への言葉遣いとしては、問題しかなかったが、それどころではない隊長に、それを注意する余裕はなかった。


 そして、とうとう彼の処遇が決まる。

 「わかった。彼は……

 留置所には入れない。」


 この決定にすぐさま、若い兵士が異議を唱える。


 「ええっ!無罪放免だっていうんですか!?

 絶対、怪しいですって!スパイだったらどうするんですか!

 間違いなく、有罪ですよ!いくら隊長がベテランでも、」


 まくし立てるように抗議する。

 と、彼の息継ぎの間をぬって、隊長がこの決定の真意を言った。


 「誰が、無罪放免にするって言った?

 彼は今日から一ヶ月間、うちに泊まってもらう」


 「はぁ!?正気ですか!?」

 

 「お前はいい加減、言葉遣いを改めろ。

 あと、これは決定事項だ。いいな?」


 軍では、上下関係は絶対。

 若い兵士も、もうくつがえらないと悟ったのだろう。


 「はっ!」


 とだけ言って、事務手続きのため、廊下を歩いていった。


 一人残った隊長も、一言だけつぶやいて、彼に決定を伝えるため取調室へと戻っていく。


 「さて、鬼が出るか、蛇が出るか」




 コンコンコン

 「俺だ」

 「あ、隊長。こいつの処分は決まりましたか?」

 「あぁ。彼には、取り調べ室から出てもらう。手続きを」

 「はっ」


 取り調べを担当(というかもっぱら彼の文句を聞いていただけだが)していた、中年にさしかかろうかという男は、隊長の急な決定を聞いても、驚かずに職務を実行した。

 先ほどの若者とは大違いだ。


 ともかく、取り調べ官がそんな調子なんだから一番驚いたのは、捕まっていた彼であろう。


 「え?僕、釈放ですか?」


 これでも、国立こくりつの高校で学年二位の成績を誇る秀才である。

 これまでのやり取りから、ここが自分の世界とは違うということは薄々気づいていた。

 だからこそ、こんな不審者である自分が釈放されるということに驚いたのだ。


 だが、彼は釈放になった訳ではない。


 「いや、釈放はしない。

 お前にはこれから一ヶ月、うちに泊まってもらう。いいな?」


 彼は、これが質問の形式を取った事実確認であるとわかっていた。


 だからこそ、こういったのだろう。


 「喜んで!」


……いや、なぜそう言った?




 手続きは、わずか1時間で終わった。

 彼は、晴れて取調室から出てきたのだ。


 「それでは、ご迷惑をおかけしました。」

 

 先ほどとは別人のような丁寧口調で、取り調べ官と話す彼。

 初対面の人への態度としては、こちらが彼のスタンダードである。

 さきほどまでのは、何とか誤解をはらそうとする彼の努力の結果だったのであろう。


 「おい、行くぞ」


 「あっ、はい。

 それではこれで」


 止め時を見失っていた彼は、隊長の一言のおかげでようやく出立することができた。




 以下は、隊長の家に向かう車の中での会話である。


 

 取り調べ署を出て数分。

 今日会ったばかりの二人であるから、車内は沈黙に包まれていた。

 先にその沈黙に堪えられなくなったのは、比較的無口な隊長ではなく、彼の方だった。


 「あのー、隊長さん?なんで僕を逮捕しなかったんですか?

 僕なんて、じゅうぶん怪しい奴だと思いますが……」


 「隊長さんなんて呼び方はやめろ。これからは、一つ屋根の下で暮らすんだ。

 俺は、菅原すがはら 大地だいちという」


 「そういえば、自己紹介もまだでしたね。

 僕は、田辺たなべ ゆうです。改めて、よろしくお願いします。」


 「はいよ。てか、お前の名前は知ってたけどな」


 「え!?なんで……って、そういえば取調室で言いましたか。

 それを聞いてたんですね」


 「そういうこった。

 お前って案外、頭の切れる奴だな」


 「いやーそこまででもないですよ。

 一応、某国立高校こくりつこうこうで学年二位でしたから。

 これでも、秀才で通ってたんですよ」


 「いや、冗談だったんだが……」


 「え?」


 「いや、むしろあれは気付かないほうがどうかしてるぞ。

 普通、わかるだろ」


 「そ、そうかなー?」


 「あぁ、そうだ」


 「あぁ!もうこの話はいいです!!

 で、なんで僕を逮捕しなかったんですか!?」


 「そういや、そんな話だったな。

 そうだな。

 確かに客観的に見れば、お前はクロだった。

 だが俺は、お前が嘘を言ってるようには見えなかった。

 それが理由だな」


 「そんなことで!?もし僕が、嘘をついていたら、どうするんですか!?」


 「もしそうだったら、俺の見る目がなかったってだけだ」


 「"だけ"って……」


 「まあ、結局お前はスパイなんかじゃあ、ないんだろう。

 だったらそれでいいじゃねえか」


 「隊長さん……」


 「だから、隊長さんっていうな。俺は、公私混同はしないんだよ。

 菅原すがはらさんと呼べ」


 「公私混同しないって言っても、僕を預かってる時点で公私混同ですよ」


 「細けーことを気にする奴だな。

 もう家につくまで黙ってろ」


 「えぇー理不尽~」


 「だから黙ってろって」


 「はーい」


 

 一方、取調室では、隊長から残業を命じられた若い兵士が、こう言ったという。


 「あれ、そういえば隊長って娘がいなかったか?」



まさかの、隊長宅での経過観察処分になりましたね。


現代では、天地がひっくり返ってもありえないことですよ!

こんなことしたら、懲戒免職です。


ただ、彼-ゆう-にとっては、この結果でよかったですよね。



さてさて、順調にアクセスも伸びているようでうれしく思います。

ブクマ、評価等も、よろしくお願いします。


次回はとうとうヒロイン登場です!

お楽しみに!!


次回更新は、明日です。

と、言いたいところなのですが、なんだか、趣味ではじめた今作が、多くの方に読まれており、ちょっとプレッシャーを感じてきています。


ですので、ここからいくらか時間をいただき、完結までの約60話すべてを書こうかと思います。

そのため、当分の間、更新をお休みさせていただきます。


書き終わりましたら、順次一日に二話ずつ投稿していく予定です。


大変、身勝手なことではありますが、ご理解ください。


今後とも、今作をよろしくお願いします。


(活動報告の方で、今作の進捗情報をあげていきたいと思っています。そちらも合わせて、ご覧ください。)


ご意見がありましたら、どんどんお寄せください。


*お知らせ*

新作『雲の中の殺人』を始めます。ミステリーものになってますので、興味のある方はぜひ!

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